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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
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キャラクターの法則

 井村のオッサンとも話しているとは思うが、互いの認識にすれ違いがあっては困る。慎は今回の現象『ゲームキャラクター実体化』について、心当たりを語った。

 無数のソシャゲーの中で……それこそ星の数ほど存在し、月ごとにサービス終了に至る作品がいくらでもある中『オルタナティブラグナロク』のキャラクターだけが実体化している事。

 安定してこちらで活動するために、触媒なるものが必要な事。これについては、プレイヤーの人間が自由に決められる事。

 実体化しているキャラクターは、実際の能力値……レアリティに関係性は低い事。どうやら愛用していたキャラクターと、プレイヤーとの関係性が実体化の鍵ではないか……と予想を立てている事。


「これは俺の独自考察と……『キャラクターみんな』との話し合いで、なんとなく予想している事ですけどね」


 拙い説明だったが、慎の意見を巫女さんは聞いてくれた。まだ彼は高校生だが、ネット交流か配信者として活動しているからか、実年齢以上に慎は話せる。一通り説明を終えた所で、巫女の横山は人差し指で頭を掻いた。


「ありがとうございます。やはり何らかの法則があるようですね……」

「井村のオッサンから聞いていないんですか?」

「尋ねましたが、要領を得ない解答でしたね。井村が神秘に疎いのもありますが、どうも私相手だと気まずいようです」


 なんとなくだが、そんな気はした。

 井村のオッサンが……イイ年の中年のオッサンが、ゲームの実体化云々をベラベラと喋れるか? 仕事柄理解は得られるにしても、色々と絵面えずらが危ない。

 井村のオッサンが呼び出したのはSSRの『ジャヒー』だ。露出の多い艶やかな衣装の、褐色の少女の外見……はっきり言って幼子と言って差し支えあるまい。事情を知らなければ、いや知っていても事案を疑いかねない組み合わせだ。いくら不思議現象に理解のある巫女相手でも、井村のオッサンが切り出しにくいに違いない。


「それは……まぁ、無理もない、かな? お互い全く外見違うから、親子で通すのも難しいでしょうし……」

「もちろん、そちらの理由もありますが……神社で呼び出すに相応しくないから、遠慮しているようです」

「確かあの子……元ネタがゾロアスター教の邪神で、悪の軍勢で二番目にヤベーやつでしたね。ただ、その肩書の割にゃ大人しかったような……」

「そうなのですか?」

「俺とオッサンで話し合った時、脇にいて……会話にあんまり入ってきませんでしたけど、普通にファミレスのなんか食べていたような。見た目相応のふるまいっつーか、特に危険な雰囲気は一切ありませんでしたが……」


 井村の事を『パパ』と呼び、実体化中は子供服で現世を楽しんでいる『ジャヒー』の姿を思い浮かべる。慎の感想としても『不器用な父親と無口気味な子供』の関係に見えた。戦闘力は高いものの、邪悪な印象はない。慎の感想を聞いた巫女は、確信を得たように口にした。


「やはり――関係性と精神力の……いえ、個人的な信仰心を土台にしている?」

「どういうことです?」

「今回の現象……『ゲームキャラクター実体化現象』についてです。ジャヒーの原点の存在も調べましたが……とても人間が手懐てなずけられるような邪神ではない」


 さもありなん。もし元ネタ通りの能力と性格であれば、この世の女性は軒並み能力を奪われ、女性特有の体調不良が蔓延してしまうだろう。少なくても、実体化させてうろつかせるのは危険すぎる。


「そもそも、ジャヒーが『父親』として、人間を慕うのも変な話っすよね」

「――あなたの下にいる者たちはどうです?」

「みんな、ゲーム内のレアリティ……能力は低めに設定されていますけど、力だけなら明らかに俺より強いっすよ。つーかあの手のゲームでちょくちょく思いますけど、明らかに自分より高位の存在が、こっちの命令聞いてるのおかしいんですよね。それを言い出したら、ゲームが成立しなくなっちまいますが……」

「ですが、皆あなたに従っている。そうですね?」

「はい」


 慎の手元はともかく……SRやSSRに該当するキャラクターであれば、マスターに従わずとも大暴れが出来るだろう。反逆を起こし、背中から襲う事だって簡単のはずだ。


「恐らくですが……『個人単位の信仰心』が、キャラクターを顕現させる条件なのでしょう」

「個人単位の信仰心……?」

「はい。今までも少し話しましたが、同じ神、同じ存在を、同じ解釈で見る事は難しい。ですが、一個人の精神や信仰がエネルギーを発する事があるのです」

「……はい?」


 どうにもピンと来ない。慎が首を傾げていると、巫女はまたしても苦笑して、信仰の力を話す。


「それがたとえ思い込みだとしても、強い想念があれば現実に影響を与えるのです」

「なんでしたっけ? プラシーボ効果?」

「……科学的に解釈するのでしたら、そのような形です。真実かどうかではなく、信じる事そのものが力になるのです」


 信じる事そのものが力になる……漫画や小説でよく聞く話だが、現実でも起こるのだろう。医者が匙を投げたような状態の人が、精神力で奇跡的に回復したケースも聞いた事がある。


「もっとも……良い方向ばかりでもありません。凄まじい怨念が呪いを成立させてしまう事もあります。多少方法が間違っていたとしても、感情が呪術を成立させ得る。個人単位の信仰、あるいは個人の怨念が現実を歪める……」

「オレたちプレイヤーの妄念が、キャラクターを実体化させているんですかね?」

「そこまでは言いませんよ。それに今回の場合は……一概に想念だけが引き金とは思えないのですよね。共通点として挙げられるのは――」

「『オルタナティブラグナロク』のプレイヤーである事……ですか」


 今回の実体化現象の共通項は二つ。

『オルタナティブラグナロク』のプレイヤーである事と、キャラクターに対して、何らかの強い思い入れがある事。

 強い思い入れは、なんとなしに分かる。慎であれ、友人の礼司であれ、井村のオッサンであれ……実体化したキャラクター達とプレイヤーの間に、何らかの関係性や感情があるのは疑いようがない。しかし――やはり慎には、それだけだと納得しきれない所があった。

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