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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
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想像力の善悪

 深い知識が無くても、あまり学が無い人間だとしても、人類史において、宗教が与えた影響は、誰もがよく知っている。良くも悪くも、人の歴史は信仰と共に在った。それでも信仰を引き継いで生きて来た。いくら現代の日本人が、宗教に対して悪感情を抱こうが……それは間違いなく、史実だ。

 問題点はある。危険性もある。なのに何故か『人類は信仰をやめなかった』――特定の宗派を禁じた所で、抜け道を探すように新たな信仰や宗派を生み出していった。否定の出来ない事柄なのだが、慎の本心は半信半疑だ。現に彼は腕を組んでぼやく。


「人間が信仰を求める……って言われてもなぁ」

「あら、自分で出した結論に、納得が行きませんか?」

「まぁ、正直……」


 本腰を入れて信仰していない慎は、はっきりと断言するのを躊躇う。元々『信仰』に曖昧な慎が、頭を掻きながら正直な気持ちを伝えた。


「だって……多分俺は無宗派ですよ? 神様の名前とか能力とか力とかは……なんとなしに知っているかもしれない。でもあくまで創作物上の存在っつーか……」

「そうですね……確かに、創作の存在と神々の話は、あなたが思うような状態でしょう。遥か昔の出来事に過ぎて、古の史実なのか、創作なのかもわからない。信仰と比すれば近年の人物……例えば戦国武将なども、史実を土台に創作が行われる事もある」

「あー……ありますね! 武将だけじゃ無くて、船とか刀とかでもありますし」


 日本のサブカルチャーに触れていれば、擬人化や歴史上の人物の再解釈・新たなキャラクター付けをして登場させるやり方は良く知っている。それこそネットゲーム、ソシャゲーにおいての主流手法だ。確か『オルタナティブ・ラグナロク』にも、数多く実装されていた気がする。


「擬人化とか人物の再解釈って、日本のお家芸な感じッスよね。モノにも神が宿るとかの考えって、日本のヤツですよね? 確か付喪神とか、八百万とか」

「そうですね。これを手法と呼ぶか、信仰と呼ぶかは曖昧な領域ですが……日本に深く根付いた文化である事は間違いないでしょう。それが史実か創作かはともかく、新たな想像をせずにいられない。信仰の根源は……人の想像力なのだと思います」


 人の想像力が、信仰の根源……想像外の単語を受け、慎は無言で息を飲んだ。強い信念を持っているのだろう。穏やかな眼差しの中に、揺るがない強い意思が見える。ボーッと生きている人には持ちえない、これこそが真理であると語る人の声だ。


「未知に対するモノへの、好奇の心と想像力……過去であれ、未来であれ、存在し得ない世界の話であれ、すべては想像力に根差したモノ。そして信仰もまた、想像力が産んだモノに違いないのです」

「んー……わからない何かについて、色々と考え巡らせる事は俺にもあります。確かめようが無かったとしても、想像を……場合によっちゃ妄想ですけど、巡らせるのは楽しい」

「想像と妄想の境界線も、あやふやな所があります。それを確信に変えるのが『科学』の役割なのでしょう」

「おっと、巫女さんが科学?」


 つい語気を強めて慎は言う。『宗教や信仰』と『科学』は……サブカルチャーや二次元において、反発する要素として描かれやすい。現実と創作は違うと知っているつもりでも、なんだかんだで影響を受けている。若者の反応に対して、穏やかな口調のまま巫女は科学を述べた。


「人類の科学も、想像力によって発展している分野ですよ」

「えっ⁉ いやいやいや! 無いでしょそれは! 誰かの想像力……妄想や思い込みで、科学法則が決まる訳ない! 誰がやっても誰が使っても、科学を使えば同じ結果が出るんだから……そこに想像力が挟まる余地はない。そうでしょ?」

「では、どのように科学法則を導くのです? 真実の方程式を、どのように削り出すのでしょう?」

「……頭がいいから閃くんじゃないですか? あ、いや、これはそれこそ俺の妄想?」


 強く言い過ぎたと感じた慎は、拗ねた反論を恥じて否定した。青年の声を受けつつ、巫女は科学と想像力の関係性を語る。


「多くの時間を勉学に費やし、己の知恵として身に着けると言いたいのでしたら……頭が良いのも真でしょう。ですが『まだ発見されていない法則』を解き明かすには、既存の理論だけで足りるでしょうか?」

「巫女さんの考えとしては……足りないと?」

「そうです。だって――新たな法則を真にする前に、人は必ず仮定や仮説を立てるでしょう? その仮説が間違っていた場合……それは、妄想と変わらないのではありませんか?」

「あ……」


 巫女の言葉を聞いた慎は、稲妻のように脳裏にある単語が走った。近年日本の科学分野において――その騒動は未だネットで玩具になっている一件だ。


「『万能細胞』事件……!」

「少し相違はズレますが、近い事件ですね」

「え、ズレるんですか?」

「はい。あの事件は『仮説が妄想だった』と『多くの科学者に証明された』事件です。ですがもし『万能細胞が妄想でなく真であった』ならば、世界中が恩恵を受けていたでしょう」

「でも、実際は」

「えぇ。誰も『万能細胞』を再現できなかった。最初からすべて嘘だったのか、それとも途中までは正しかったのか……今ではもう闇の中ですが、私が語りたいのはそこではない。

 新たな何かを求め、仮説を立て、未知と夢想を誰もが再現できる現実に変える。明言できないあやふやに手を伸ばし、手繰り寄せる際には必ず『仮説』があり『想像』がある。人を豊かにしてきたのは、間違いなく想像力なのです。

 ですが……それを悪用したり、誤った用い方をされる事が近年増えた。それが――」

「カルト宗教や、それに伴う黒いあれこれ……ですか」


 あくまで私個人の考えです。そう横山蓮は締めくくった。

 宗教の根源たる想像力を誤った使い方をする――樋口慎とキャラクター、そして悪事を働く別プレイヤーの話と奇妙に重なり、慎は深く吐息を漏らす。長話で疲れたのか、両者は全く同じタイミングで、お茶に手を伸ばした。

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