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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
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信仰の境界線

 慎なりにこの神社を解釈し、巫女に若者の『神について』の認識を語った。少々長く話したので、お互いにお茶を一口含む。改めて湯呑みを置き、眼を合わせた彼女は感想を述べた。


「意外と現代でも、神様の事は知っているのですね。若い人は」

「名前とか能力とか、特徴的な逸話なら……色んな創作物で転用されていますからね。ソシャゲーに限らず、マンガとか小説でも良く使われますし」

「でも……オリジナルの話、原点の話に詳しいわけではない。本気で信仰している訳でもない……ですか」

「はい。そりゃ、初詣とかには行きますし、一から十まで信じない! とは言いませんけど、ガッツリ本腰入れて信仰するのは……神様の由来とかも、知りたくなったらスマホで調べりゃいい……って感じですし」


 無礼な物言いと感じつつも、慎は実直な現実を話した。全く歯に着せぬ物言いに、一瞬だけ巫女の眉が動いたが……事実は事実と受け止め、慎の思想のある一点に注目した。


「何故『本腰を入れて信仰する』事に躊躇があるのです?」

「それは……その」

「『教団周りの事件』『宗教絡みのいざこざ』を無意識に恐れ、遠ざけているから……でしょうか?」

「ここ近年の日本を見ていれば、嫌でもそうなる……あ、いや、そうなります」


 地下鉄に猛毒を撒く事件。元首相が暗殺された事件。日本の平成と令和で起きた、宗教絡みの大事件。この国で暮らしていれば、誰であれ一度は耳にした出来事だろう。これで『宗教に対し、悪感情を持つな』と言い張る方が無理だ。


「そうですね。ああした例を見てしまうと……どうしても『宗教』全体が悪しきモノに見えてしまうでしょう」

「……巫女さんが『悪人』って言っている訳じゃないですよ?」

「ありがたいですが……しかし、私から質問があります」

「なんです?」

「私も紛れもなく『宗教家』です。形や形態こそ違えど、枠組みで考えれば……あなたが語った『悪人』と変わらない。その差をどう考えていますか?」


 慎はすぐ、答える事が出来なかった。言われてみれば『巫女』も宗教家の衣装と言える。あまり意識していない境界線を、何とか青年は答えを絞り出した。


「ちゃんとした所で、日本の古いカミサマを奉っているから……っすかね? 古い神社や寺って、国を挙げた文化財になっているじゃないですか。だから信用できるっつーか……」

「国の補助を信用の尺度とするなら……この前の暗殺事件も、形こそ違えど『国家と絡んでいた』と言えます」

「あ、あれ? そーいやそう……いやでも、カルトと本命は違うっつーか」

「一般にカルトと呼ばれる宗教法人でも……大本は三大宗教を母体としている、あるいは母体としている組織もありますよ。有名な宗派と絡んでいるからと言って、安全や健全性が担保されてはいないのです」

「え……えぇ? あれ?」

「規模の大きい宗教だからと言って、必ずしも健全とは限りません。例えば……そうですね。日本の比叡山をご存じですか?」


 急に振られた単語に戸惑ったが、慎のある人物と連動した記憶を引き出した。


「確か……織田信長が焼き討ちにしたトコ……ですよね?」

「えぇ。容赦のない仕打ちに思えますが……どうも近年の研究によると、比叡山延暦寺の僧は、現代の悪徳カルト宗教めいた事をしていたようなのです」

「……マジっすか?」

「高い金利で金を貸し、債務者に自分たちの要求を通させる。争いを禁ずる仏教でありながら、私兵を蓄え……肉食や酒を禁じる教えを堂々と破る。果ては……これは債務や金貸しにも連動する話ですが、上層部は酒池肉林に溺れていたとか」

「うわぁ……うわぁ……神様ブチ切れ案件っすね……」


 話せば話すほど、慎は恥ずかしくなった。自分なりに線引きをしているのだが、いざ本職の人間に丁寧に解説されると……自分の敷いた『境界線』が、いい加減なモノだと知覚させられる。ここまで酷いのは少数派と信じたいが、近年を考慮すると何とも言えぬ。唇を引きつらせる慎に対して、巫女は冷静に切り返した。


「人類の歴史で、宗教絡みの大事件は……近年に限った話ではありません。そして宗教の有名無名に関わらず、大きな問題を起こしてきた。でも、ここで視点を変えてみて欲しいのです」

「視点を変える? どんな風に?」

「何故人類は『宗教に懲りない』のでしょうか? 何度も何度も、歴史に傷をつけて来た宗教を……未だ人類は捨てられずにいる。何故?」


 まさしく『宗教家』な巫女に問われ、慎は深く唸った。考えてみれば巫女さん……横山蓮よこやまれんの言い分はもっともだ。

 こうしたテロリズム的な事件だけではない。宗教を巡った戦争や対立は、歴史の教科書にも乗っている事実。なのに、確かに『人類は宗教を捨てられずにいる』これも事実だ。

 不慣れな方面に思考を進める慎。必死に頭を回転させ、恐ろしくぼんやりとした結論を出した。


「人が必要とするから、必要だから……っすかね? こんだけ問題起こしている宗教モノなのに、地球や人類から消えてないなら……神とか悪魔とか、ともかく……信仰を持たずにいられない?」

「えぇ。私もそう思います。人は信仰を求める物。人は信仰を欲する者。ですが……その心を悪用した結果が、これらの事件なのだと考えます」

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