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ゲーム感覚で放ってはいけない兵器

 真っ先に気配を感じたのは、対面する『アーサー・ザ・キング』だ。騎士剣越しに感じる圧力が、冷たい氷の刃のように鋭くなる。機械の表情は察せれないが……戦士として、剣士として、対面した相手の敵意や殺意は感じられる。無表情のまま、機械の少女ははっきり言った。


「マキナ――怒りました。激おこです。激おこプンプンエクストリームです」

「随分と独特なキレ表現だなオイ⁉」

「マキナ。キレてないです。本当にキレてないです」

「だったらその殺気をしまいやがれ! あのカラクリ野郎と違って……てめぇのはゾッとすんだよ!」


 汗が一筋、金髪色白の騎士をつたう。素手で聖剣を受け止める金属女は、淡々と連撃を放ってくる。勇者のHPは一度全回復しているが、とっくに回復分を削り切られてしまった。

 スキルの冷却時間クールタイムを終えたのか、再び『レーザーブレード』を振りかざす。光の剣の乱舞に対応すべく、自らの判断で五つ目のスキルを解放した。


「円卓の剣よ、我が元へ集え――『ラウンズ・オン・エクシード』!」


 身にまとう鎧が、黄金色に輝く。同時に複数の剣――否『聖剣』がアーサーの背中を舞う。元々握っていた聖剣と、新たに握った別の聖剣を手に剣戟を連打した。


「聖剣の雨に打たれちまいなァ!」


『ガラディーン』『アロンダイト』『エクスカリバー』……アーサー王伝説には、大量の『聖剣』が登場する。本来は別の騎士のモノだが、それを我が物の様に扱うスキルだ。二刀流に加えて、背部の刃も連動して切り付ける。一見して雑な扱いだが、一つ一つが神秘の剣だ。金属相手であろうと、容赦なく打撃を与える。逆に言えば……それだけ勇者は焦っていた。

 今までの戦闘の感触から、勇者は確信する。この相手は奥の手を隠している。隠したまま自分と平然と戦闘を継続できている。相手は間違いなく同格のSSR……そして今、ブチ切れたロボットは必殺を放つ気配を醸し出していた。とびきり危険な『何か』を放つ気配を。

 使わせてはいけないと、戦士の勘が告げている。が、無情にも機械の鋭い蹴りを受けて間合いが離れ、さらに相手から小型の自律兵器が展開。複数のレーザーに狙われ、足を止めるしかない。

『エクスマキナ』は大きく距離をとり、静かに何かを呟き始める。


「虚数弾倉形成。反物質、亜空間密閉バレルに装填。標準補正最大――」


 まるで呪文めいた言霊の群れ。違いは何の抑揚もない点だろうか? 意味も全く理解できないが、込められた殺意と危険性はひしひしと感じる。鋭く据わった瞳と、指向した右腕。凍り付くような眼差しと共に、右腕が筒状に……もっと言うなら『砲』へと変形したのだ。


「『対消滅弾ヴォイドバレット』――発射シーケンス完了。対象を、抹消します」


『アーサー・ザ・キング』は確信する。それを撃たせてはいけないと。強引にレーザーの雨を突き進もうとするが、被弾でどうしても鈍くなる。間に合わない。覚悟を決めたアーサーだが、ここで予想外のことが起きた。


「マキナ! 駄目だっ‼」

「――⁉」


 飛び出したのは、機械少女のマスター……天野礼司。仲間の『戦闘不能』に固まっていたが、スキルの発動の予兆で正気に戻ったようだ。後ろから飛びつかれ、エクスマキナの照準がズレてしまう。必殺を放つ構えのロボットにとっても、この行動は予想外だったのだろう。突然の行いに動揺し、慌てて砲を曇天の空へ向けた。

 放たれたのは、ごく小さな暗紫色の結晶体。破壊的な光線も、巨大な砲弾を放つ事も無い。が、勇者はアレが極めて危険な何かな事は察知していた。現に……飛びついた敵側マスターも叫ぶ。


「マズい……! みんな伏せて!」


 迫真の表情で、ロボットのマスターが周囲に促す。何事かとざわめく周囲と、敵の言うことを信じないアーサーの召喚者。勇者は急いで自分のマスターを庇うように、複数の聖剣を盾代わりにする。相棒を背に上空を見つめていると、何かがひび割れるような音が聞こえた。

 次の瞬間――雲の上に吸い込まれた結晶が、何らかの反応を引き起こした。上空の果てで真っ黒な空間が出現し、球体状に領域を飲み込んでいく……


「おい……なんだ? 何が起きている……⁉」


 広がる暗黒のようなモノが『対消滅弾』の効果範囲か? 闇に飲み込まれた雲が削り取られ消えていく。触れた範囲から消失する雲の海だが『爆風や余波は一切感じない』のだ。

 アーサーは直感的に理解した。

 これは――破壊ではない。物理でどうとか、魔術でどうとか、そんな領域の話ではない。

 消失だ。あの球体に触れた物は――跡形も無く消滅してしまう。それが物質であるならば、何の例外も無く抹消させる弾頭……あの時発生した暗黒は、闇ではなく虚無だった。

 運悪く巻き込まれた鳥が地に堕ちる。下半身がごっそりとえぐり取られ、断面図が完璧な円を描いている。切断でも爆発でもなく「効果範囲内にあった物質は消えて」無くなった。


(あ、あんなものを使われていたら……!)


 戦闘不能で済むキャラクターと異なり、人間や建物に向けて放たれていたらどうなっていた? あの球体状の消滅が、この広場で起きていたら……

 肝を冷やしたのはアーサーだけではない。咄嗟に中止させるよう飛び込んだ、相手側のマスターも顔が青い。使用を決断した機械娘をとがめた。


「マキナ! なんで使って……」

「マスターとマキナの関係について、敵対者の極めて誤った認識。会話の最中に不意打ちによって『カラクリ侍』のロスト。以上の出来事からマキナ、キレました」

「う……怒ってくれるのは嬉しいけど、本当に対消滅はヤバいんだって! この世界じゃ早すぎるんだ、その現象は!」

「…………反省、本機も認識が甘かったと判断します。申し訳ありませんでした」


 少女の両肩に手を置き、子供に反省を促すかのようだが……起こした現象の規模を考えると、被害が生まれていたらタダでは済まない。すっかり意気消沈した『アーサー・ザ・キング』は、ちらりと自分のマスターに言った。


「マスター……何とか話し合いで手を打とうぜ。またアレを使われたら、たまったもんじゃねぇ」

「そ、そそそそうだねアーサー! ったまイイ!」

「当り前だろ王様だからな!」


 無鉄砲と蛮勇たっぷりなお年頃の、アーサーのマスター。しかし発現した虚空を見ては、流石に危険を察したらしい。木刀を腰に下げつつ、相手側のマスターに深々と頭を下げる。

 ……単純馬鹿といえばそうなのだが、良くも悪くも、アーサーのマスターは直情的だった。

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