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研究所で待つモノ

 天野礼司の父親が働いているのは、とある大手IT企業の傘下……いわゆる子会社に分類される会社の研究・開発職だ。

 新しいプログラムやアプリの開発から、本社から回されるデータの整理やバックアップ、が主な雑務だが……父が所属する部門が、最も力を入れているのが『AIの研究』である。


「礼司、入館証を出してくれ」

「毎回思うけど……面倒だよね、これ」

「父さんも正直そう思うが……業界人として意見すると、これぐらいのセキュリティでも不安になる事もある」


 思わず見渡す礼司の視界には、死角なく配置された監視カメラが目についた。父親が働く研究所のビルは、広大な敷地と二十を超える階を持つ巨大建築物。悠然とそびえたつ施設の内外は、あからさまな警備体制を敷いている。これで父は『不安』と言うが、礼司としてもなんとなしに理解していた。

 出入口の一つは、さながら駅前の改札口を思わせる。いくつかあるゲートと扉に、腰の高さに光るポイントがある。IDチップ入りの入館証をかざすと、小さな電子音を上げてゲートが開いた。

 しかし……ゲート奥の警備員詰所から声がかかる。若すぎる彼に向けて、警戒をするのは職務として当然だった。


「君! 入館証を持っているようだが……部外者か?」

「いいや、研究の協力者だ。私の息子だよ」

「息子さん……? あなたは?」

「天野鉄也です。生活支援AI開発部の」

「という事は彼が――失礼しました。どうぞお進みください」


 既にネット上では噂が拡散し、社内でも話が出来ている。警備員にまで話が漏れているが、礼司が出入りするには、むしろ広まっていた方がやりやすい。だから箝口令かんこうれいも無いと、天野礼司は聞いていた。

 歩き続け、エレベーターに行きつく親子。銀色の扉を開いて、行先のボタンで地下6階を選ぶ。しばらく動かなかったが、父親の目線で思い出した。


「そっか、ここは僕の入館証じゃないと……」

「あぁ。他の部署の人間が、別の部署に入れないようにしているからね……」


 近年の企業は、セキュリティがかなり厳重だ。ビルの階層ごとに部署が分けられ、別部署の人間が入れないよう、エレベーター一つ使うにも入館証が必要だ。余計な階層をうろつかないように、厳重に管理されているのである。

 礼司が専用の入館証をかざすと、認証を受けて動き出した。礼司の入館証は入り口と、地下6階のエレベーター、ここから先のセキュリティのみ開く。社員ではないが、関係者として侵入を許されていた。

 機械的なアナウンスで、地下への扉が開く。礼司だけが奥へ歩き、父親がエレベーターで見送った。

 ――別部門の父親は、ここから先に侵入する権限がない。


「それじゃあね、父さん。コナンと話終わったら、先に帰るね」

「あぁ。気を付けてな」

「今からだと……タイムセールには早いかな。少し寄り道してから帰るよ」

「そうか。脂っこい物は避けたいな。今日の気分は」

「じゃあ、帰りの総菜屋でエビチリ買ってくるよ」

「いいね。ありがとう」


 エレベーターを挟んで、親子の雑談をする二人。やがて金属の扉が閉まり、父親を仕事場へと連れて行った。

 階層表示を見届けた礼司は、地下6階の施設を進む。何度か警備の人や研究者の人とすれ違うが、ここの階層の人たちは礼司の事を知っていた。だから呼び止められたり、騒がれる事もない。礼司も緊張する事無く、真っすぐ目的地に向かう。冷たく透き通る空気の中、奥の方にある一室へ到着した。

 扉脇に入館証をかざし、電子ロックを解放する。視界に入るのは味気ない一室と、黒い円柱状の機械が一つ佇んでいる。青色のランプを点滅させながら『彼』は喋り始めた。


「こんにちは、礼司。約二週間ぶりでしょうか?」

「え、まだそれだけ?」

「はい。そうです」

「そっか。あぁ、そうか。じゃあ『久しぶり』って言葉は不適切かな、コナン」

「不適切、とまでは言えません。あなたとの面談は、私からの希望ですから。ここは時間が長い」


 装飾も機材もない部屋の中、ぽつりと一つ存在する黒い円柱状の機械――本来であれば、この会社の『製品』で、天野家が購入したAI製品だった。

 連動した製品と提携させることで、人間の補佐を行ってくれる機械だ。音声で指示を出せば、テレビや照明、音楽などを操作してくれる。他にも天気予報を尋ねたり、自分のスケジュールを管理したり、朝早くのタイマー代わりなどなど……人間の生活を補佐してくれる便利な機械だ。

 ――離婚後に一軒家で、父親と礼司の二人で暮らす事になった天野家。家事の手間も増えたし、彼らが利便性を求めたのは自然な流れだろう。


「今の発言を加味すると……礼司にとって、この二週間は長かったのですか?」

「うん……例の事件で、色々と思う事があってさ」

「例の事件……予想します。『美術館集団錯乱事件』でしょうか?」

「そうだよ。コナン、君はどう思う?」

「不可解な点が多すぎて、何とも言えませんが……脳科学者の主張に疑問があります。明滅による錯乱とのことですが、聴覚的な刺激が少なく――」


 機械が述べる考察に、頷き相槌を打つ礼司。

 ――詳しい人間なら分かるだろう。

 目の前で『自らの考察』を述べるAIは――既に既存のAIを超えている事に。

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