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ルール確認

 その後の学び舎は、しばらく喧騒と混乱が続いたものの、全てが消え去った……いや真実を認識出来なくなったことから、日常の光景へと戻っていった。


“大げさに語らうことか? 要は授業が再開しただけであろう”

≪いや、まぁそうなんだが……混乱の原因、俺らだし≫

“ふむ? しかし見て見ぬふりは出来まいよ。あのまま放置しておれば、今頃あの老婆は、犬っころに食われておった。そなたも我らも正しい行いをしたのである。恥じることなぞあるまい?”


 慎も面談の続きをしている。最初に選んだのは、先ほどの戦闘でも活躍した『タタリ神』だ。教科書に隠れられるサイズにまで縮んでいるが、古風かつ堂々とした言い回しもあって、威厳を損なっていなかった。


≪ま、言いふらすつもりもないけどな。あぁそうそう、実体化周りの事も聞きてぇんだけどいいか?≫

“うむうむ、必要なことであるな。もう暫し、話さずとも良いと皆で結論を出しておったが、いささか見通しが甘かった”


 恐らく『Nマスター』の下に集った全員で意見をまとめていたのだろうが、今回の敵対キャラ襲撃事件で、そうも言ってられなくなった。慎にも実体化の基本ルール説明が必要と、彼らゲームキャラクター達で決めたのだろう。


“まず、我らは基本は〈霊体〉である。精神のみで、実体を持っておらぬ。故にほれ、こうして教本なぞすり抜ける訳だ。”


 立てた教科書に『タタリ神』が腕を伸ばす。物質に干渉しない性質は、今朝『近衛騎士』と電車に乗った際にも証明されていた。


“そして〈霊体〉である我らを認識できるのは、先ほど『ハーミッド』が語った通りよ。我の場合は、この国の神へ信心深い者や、あるいは神へ救いを求める者などであろうな”

≪だが、実体化すると誰にでも見えるっぽいな?≫

“当然であろう? 一方的に触れれるなどと、都合の良い事にはならぬ。文字通り〈実体〉としての性質を持つ故、人の眼に映り、壁抜けも不可能となるわけよの。他にも〈霊体〉であるならば身体の縮尺も融通が利くのだが、これも大きく制約を受けることとなろう。『スライム』は例外だがな”

≪会話は?≫

“頭で会話できるぞ。それと、実体と霊体化には、ある程度の間を置かねばならぬ。消えたり出たりで、回避するなどは出来ぬぞ”


 元々、ゲル状生命体である『スライム』は、不定形が標準のキャラクターだ。実体になったところで、姿形は自由自在なのだろう。先程の戦闘も特性を生かして、敵の攻撃を遮る壁になっていた。

 話し合えるのは良い。が、自在に消えたり出現したりで、立ち回るのは無理か。微妙に潰されているズルに口を尖らせつつ、他に気になった点へ質問を重ねた。


≪俺には上にバーが見えたが、あれはHPバーであってるか?≫

“うむ。無くなると〈戦闘不能〉となるな”

≪……〈ロスト〉したりしないよな?≫


 あるいは、死といった方がわかりやすいかもしれない。ほとんどのゲームにおいてHPがゼロになる……〈戦闘不能〉は、演出としては死に近いものもある。回復が困難だったりすることも多いが、所詮ペナルティの一つとして扱われることも多い。

 しかし、一部のゲームには文字通りキャラクターが死亡し、その後は二度と使用不可となる〈ロスト〉が発生する作品もある。そのシビアさがリアリティとして受け入れられる作品もあるが、もしここにいる彼らも同様ならば、慎は実体化したキャラクターのHPにも配慮する必要がある……


“あぁ……そのことを気に揉んでおったのか。断言しておこう、HPが無くなっても〈ロスト〉はせぬ。〈戦闘不能〉扱いとなるぞ”

≪そっか……少し安心した。できれば〈戦闘不能〉も避けたいが、そうも言ってられないかもしれないからな……≫


 最弱の集まりである総勢15人の『N』では≪オルタナティブ・ラグナロク≫においても、犠牲なしで勝利するの困難だった。そもそもクリアすら覚束ないのだから、全員生還など夢のまた夢。彼が行使した全ての『N』は、幾度となく〈戦闘不能〉に陥っていた。


“しかし〈戦闘不能〉となったキャラは、丸一日の時間……つまり約24時間であるな、実体どころか霊体でさえ活動できぬ。さらにHPが完全な状態で復帰するには、もう一日分の時間が必要となろう”

≪結構ペナルティは重いな……HPが1でも残っていればどうなる?≫

”6時間ほどで万全だ。割合での回復故、復帰までの速度は全てのキャラで平等である”

≪いや完全に不公平だろ……HP低い『N』には辛い仕様だな……≫

“で、あるな……”


 レアリティが高ければ高いほど、基本的な能力値は高くなる。

 それは同時に、レアリティ低いキャラクターは能力値が低く設定されていることになる。なので、例えば「体力最大値の20%を回復する」効果の場合ならば、強者(高レア)には有利でも弱者(低レア)には不利になる。百と千の二割は、同じ価値数値ではないのだから。


 最も、慎は創意工夫を凝らして、弱者を弱者のままでいさせなかった実績がある。不利な環境に置かれても、何故なのかを考え、時に妥協しながら、時に代案を無理やり捻出して『Nマスター』とその仲間たちは戦ってきた。

 多くのプレイヤーたちは金を突っ込んでガチャを回し、高レアリティの力で強引にクリアする。そこには戦略も戦術もなく、誰かが編集した攻略情報をなぞるだけ。勿論、全てを否定するつもりはない。時間をかけられないなら、お金を積んで解決する方式は、忙しい現代人にはありがたい側面もある。


 ただ――果たしてそれは楽しいのだろうか? 今ある自分の手札でやれることを模索し、用意された強敵をどう攻略するか……その道を己の手で開くから面白いのに、面倒だからと回答を見てしまうのはどうなのだろう?

 確かに楽だ。時間もかからない。だがそれは、ゲームを遊んでいると呼べるのか?

 しばらく無言のまま、他のプレイヤーたちに考えを巡らせていた慎だが、彼らの言い回しから気がついたことがある。

 

≪……ああ、そうか。対プレイヤー戦も起こり得るのか。ゲーム内じゃすげー不評だったけどな≫


 慎の言葉をじっと待っていた『タタリ神』が、渋面のまま本音で続ける。


“我ら『N』には関わりようのない話であったが……どうであろうな? 恐らく他のマスターについては、何も確証が持てぬ。あり得る可能性の一つではあるが……対決となれば、分が悪いのは確かであろう”

≪でも俺らにゃ手数があるからな。そこは武器にできそうだ≫

“おお? 無理だと投げ出さぬのか?”


 虚を突かれた様子の『タタリ神』に対して、『Nマスター』は不敵な笑みと共に答えた。


≪おいおい、諦めが悪くなきゃ『N』縛りなんてやらねーよ……どんだけひでー状況だろうが、最後の最後まで足掻いちまうのが俺だからな≫

“……全く、主殿は愚か者であるな。仕方ない、最後まで付き合ってやるとしよう。なぁに、魔王程度なら軽くあしってくれようぞ”

≪ハハハ! そうだな!! ……って、あ! 大事なこと忘れてたぜっ!≫


 目を輝かせる『Nマスター』へ『タタリ神』は眉をひそめながら尋ねた。


“うむ? 何かあったか主殿?”

≪魔王討伐の戦勝パーティーだよ。まだやってなかったろ?≫


 ぐっ、と親指を立てて笑う『Nマスター』

 やれやれ、と首をふる『タタリ神』。しかし彼の事を、決して否定はしなかった。

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