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ラストダンス

 その日一つの世界が、終わりを迎えようとしていた。

 告げていた終末の時刻は、あと10分ほどで訪れるだろう。

 インターネットから、そのゲームを切り離す命令コマンドは、二人の運営者の前で、モニター輝かせていた。しかし――


「……まだ、真剣にやってる人がいたんですね」

「バリバリの無課金勢様だ。俺たちのクソの利益にもなってねぇ」


 決定ボタンのウィンドウは奥に追いやられ、前面に出ているのはとあるゲームのネット配信――今まさに自分たちが終わらせようとしているタイトルの、生放送だ。

 対峙している相手は、限定イベントではなく本筋のラスボス。

 プレイヤーが行使しているのは、もはや誰も見向きもしなくなった、最低ランク『N』のユニットたち。運営もプレイヤーも、ただのゴミかエサとしか捉えなくなった存在……


「……惜しかったですね」

「……フン」


 何度も何度も敗戦を繰り返しながら、そのプレイヤーは彼らで戦ってきたようだ。

 時に機転を利かせ、大胆な発想と戦術で。

 時には徹底的に相手を解析し、対策して。

 またある時は天命に委ねて、最弱の者たちで道を切り開いてきた――いつしか彼は『Nマスター』と呼ばれ、遂に最奥までたどり着いたのだ。もう二つか、三つぐらい上のランクなら、手にできるにも関わらず……

 だが、それもここで終わる。これからゲームは閉じられ、要所を抜き出して削除デリートが行われのだ。あと一歩でクリアまで辿り着いても、もはや次の機会なぞ訪れない――……

 プレイヤーはもちろん、それを見守っている側も落胆の声が上がる。それでも十分と慰めている者たちもいたが……やはりその瞬間を待ちわびている人々もいるのだ。終わり際故、ほんの少数ではあったが。


「契約だと、一時間の猶予がありますよね?」

「そんなには待てんぞ? おまけに……んなことしても、うるさい連中がまた騒ぐだけだろ」

「それでも、最後ぐらいボクらだってカッコつけたいじゃないですか。ダメですか?」


 ゲームを存命させられなかった自分たち。褪めた目で世界をかたどり、ただただ繰り返されるカラクリ仕掛けを運営するようになっていた彼ら。

 けれども、終わり間際の熱量にほだされる……それぐらいの感傷はあったらしい。あるいは最後だからこそ、憑き物が落ちたのだろうか。二人は苦笑して――画面の向こうの挑戦者に、そっと悪戯をしていった。


              『魔法をかけた。最後のチャンスだ。頑張れよ』


***


 昨日、とあるソーシャル・ネットワーク・ゲームが、サービス終了の日を迎えた。名前を『オルタナティブ・ラグナロク』という。

 基本プレイ無料、有名なイラストレーターに加え、音声付きで滑らかに動くPVがサービス開始前に公開され、それなりに話題になったのだが……残念ながら、そこがネットユーザーたちにとっての最高潮だった。

 サービス開始後プレイヤーたちが直面したのは、常にスローモーションになるほどの高負荷が続き、何度もエラーを吐いて回線が切れてしまい、ゲームをするごとにストレスが溜まる……どころか、ゲームができないという状態だった。

 慌てて運営はネットワークを遮断し、回線周りの整備に追われるハメに。しかし焦りからか、それとも優秀なスタッフが存在しなかったからか……重い動作のままゲームを再度公開。流入するプレイヤーに再び、悲鳴を上げるサーバーを、切り離さざるを得なくなった。


 開示し、プレイヤーの殺到の後、高負荷で悲鳴を上げるユーザーの端末。殴り書きされる運営への罵倒で炎上して、やっと再びメンテナンスに入る……この流れを一か月も繰り返して、ようやくマトモに再開されたゲームは、既に大幅にプレイヤー人口を減らしてしまっていた。

 真偽は不明だが、負荷が減ったのは『運営の努力ではなく、見限った人が多かっただけ』という噂も流れ、今までの行動が不安と不満しかない相手に、釈然としない空気のまま、プレイヤーたちは『オルタナティブ・ラグナロク』の舞台へ上がった。


 そして、多くのユーザーは少し触った後に回れ右。ソシャゲーはその性質上、いくつかの作品を掛け持ちしているプレイヤーも少なくない。そんな中、多くのプレイヤーが新天地である『オルタナティブラグナロク』を、早々に見限った形だった。

 理由は上げたらきりがないが、最大の理由は≪同レアリティ≫での格差だろう。

 運営の評価と、ユーザー視点での使い勝手の齟齬がそれを産む。ソシャゲーにとどまらず、トレーディング・カードゲームなどでも見られる現象ではあるが、この作品ではあまりにも酷すぎた。


 例えば、最高レアリティ・キャラクター扱いにも関わらず、それより二つ下ランクのレアリティユニットの『完全下位互換』と呼んで差し支えない状況だったり。

 これが一枚だけでも問題になりかねなかったが、一つ格下のはずのユニットに、惨敗を喫する最高レア群はいくつも存在していた。

 慌ててバランス調整を行うも、ただ能力の有用性をひっくり返すのみならず、低レアは徹底的に下方、高レアは上方修正まで行ったため――ついでに全く関係ない最高レア群まで謎の上方修正が追加され――もはやゲームとしてのバランスは完全崩壊。初動での運営対応の悪さと、バランス調整の不手際から信用を失い、たったの四か月でサービス終了と相成った。『素材は良かった』と惜しむ声もあったが、しかし現代ソシャゲー業界においてはよくあることである。



               よくあることの、はずだった。

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