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99 どいつもこいつも

 追想玉。

 秘宝と呼ばれる由縁は、脳組織に直接働き、身体、神経、精神、あらゆる活動器官から記憶を呼び起こすと言われているからだ。


 脳組織に直接働きかける。

 その作用に関してカグルマは、日本に居たころ、ある研究結果をネットで見つけたことを思い出した。


 当時のカグルマは、アクションスターに憧れ、意図的に身体強化ができる、アドレナリンについて調べたことがある。

 アドレナリンと検索すると、交感神経や副交感神経など、脳組織に関するものが多く、それを読み漁っていた。


 その中で、偶然目にしたのが外側(そとがわ)中心核(ちゅうしんかく)というワードだ。


 脳組織には意識を司る外側中心核がある。

 人為的に昏睡状態させた生物に、外側中心核を電流で刺激した結果、電流を流し続けている間は、意識を取り戻したという。

 研究結果には、脳死さえしていなければ、たとえ植物状態であっても、回復する可能性があるとも書いてあった。


 この世界には精密に電流を流せる技術はない。

 電流を流し続ける装置もない。

 しかし、この世界の人間には生まれ持った魔力がある。

 追想玉も魔導具と呼ばれ、魔力を要する物だ。

 カグルマはその魔力に可能性を見いだしていた。


「カグルマ、見えてきたぞ。紅必じゃ」


 正門には警備兵が配置されている。

 普段よりも増員されているようだ。


「やはり早いの。襲撃犯を絞り込んどるようじゃ。分かりやすい証拠を残したのぅ、カグルマ」

「……すまない」

「かっか! まぁ、計画に支障ない。奴らを間引いて、変装するとしよう」

「くれぐれも殺さないでくれよ?」


 リンドウは、柄にもなく親指を立て頷いた――



「カルカヤ将軍!」

「おう、エギルとラナシャか」


 医療施設前は、カルカヤ将軍をはじめ、警備兵が警戒網を敷いていた。


「カルカヤ将軍、どういうことなんだ?」

「盗まれた魔導具が追想玉だという情報があってな。なんでも記憶を蘇らせる代物なんだとよ」

「それが医療施設と何の……」


 エギルは言葉の途中で、ラナシャと目を合わせ、ヨハネイの存在に気づく。


「エギル、追想玉は不明な点も多いわ。でも、脳に直接働き、記憶を呼び覚ますと言われているの」

「だからヨハネイのいる医療施設を?」


 カルカヤ将軍に視線を向けると無言で頷いた。


「おそらく、カグルマの狙いはヨハネイとかいう小娘の可能性が高い」

「なら、私たちも!」

「そりゃあ駄目だ。悪いが情に流されるような事態は避けたいからな」

「それは……どういうことよ!」

「いいかラナシャ。これは一国だけの問題じゃない。各国を揺るがしかねない重要人物が相手だ」

「カグルマくんを疑ってるの?!」

「信じたい気持ちは分かるが、カグルマは護衛の1人を殺めている」


 4人いた護衛の殺傷痕が、1人だけ異なっていたことをカルカヤ将軍は告げる。


「そんな……」


 エギルとラナシャのすぐうしろには、警備兵に紛れたカグルマの姿があった。


 当たり前だけど、正面は数が多いか。

 定石なら、裏手から侵入するが……どこも同じだろう。


「いたたっ!」

「あ、大丈夫ですか?」


 リンドウは近くにいた警備兵と故意にぶつかり、腰を落とした。


「か、肩が……!」


 警備兵の顔が青ざめる。

 リンドウは、ぶつかった瞬間、意図的に肩の関節を外したからだ。


「すみません! 通してください!」

「何事だ?」

「あ、カルカヤ将軍。私の不注意で、ご老人が……」

「その肩、脱臼か。すぐに中へ入れろ」


 無駄な混乱を避けたいカルカヤの判断は正しい。

 しかし数人の警備兵は、その出来事に目を奪われる。


「1人では大変そうだな。手を貸そう」


 目を奪われている隙に、警備兵に変装したカグルマがリンドウの片側から腰を支える。

 この行動はカルカヤには気づかれていない。


「すまない。ご老人、もうすぐ医療室だ。辛抱してほしい」

「う……むぅ」


 医療室を開けると医師は不在だった。

 これは偶然ではなく、この時間帯は不在が多いとカグルマが入院していた時に確認している。


「急いで医師を呼んでくる。きみは持ち場に戻ってくれ」

「しかし……」

「いいから、はや……」


 リンドウの右拳が警備兵の鳩尾にめり込む。


「どいつもこいつも。優しくて心が痛むわい」

「ははっ……」

「なんじゃ、何か文句あるか?」

「い、いや」

「ほら、早く行け。カルカヤの視線を見たが、お主に気づいてはいない。この警備兵がしばらく戻らんでも、疑いはせんじゃろ」


 カグルマは頷き、ヨハネイのいる精神病棟へと向かった。

少しずつですが、目を通して頂くことが多くなってきました。

本当にありがとうございます!


ご愛読ありがとうございます。

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