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98 罰を背負う者

「もう死んどるよ」


 儀式屋の爺さんが、カグルマの肩を叩く。

 我に返ると、血にまみれた護衛の男が横たわっていた。


「こっちも1人殺られたが、ワシが討った。あとは、御者1人じゃ」

「……俺が御者もやります」

「1人殺せば、2人殺すも同じ……そんな単純なもんじゃないぞ?」


 カグルマは頷いた。


「なら、盗るもん盗ってずらかろう」


 カグルマは追想玉、爺さんも目当ての物を手に入れた。


「ワシは一足先に簡易アジトへ戻る。御者はちゃんと殺せ」


 爺さんは再び肩を叩き、静かに気配を消す。


「だ、誰にも言いません! 命だけは!」

「殺しはしないでござるよ」


 そう言い残し、御者の右足をへし折った。


「ぎゃあ!」


 カグルマは、御者を殺したと爺さんに気づかせるよう、悲鳴を上げさせたのだ。


 爺さんのことだ。これで騙せたとは思えないが、その時は……

 カグルマもたま、簡易アジトへと向かった――



 カグルマが簡易アジトへ戻ると、爺さんは焚き火に薪をくべていた。


「……御者を殺しとらんじゃろ?」


 カグルマは咄嗟に剣を抜いた。


「かっかっ! わかりやすいのう。さしずめ、襲撃が自身の仕業だと証拠でも残してきたか……死ぬために」

「……なぜ、わかった?」

「野暮なことを聞く」



 襲撃前の悲壮感が嘘のように消え、ヨハネイを助ければ、あとは死んでもいい。そんな矛盾とも言える希望が、カグルマの表情に現れていた。


「カグルマよ、死ねば罪も罰も許されると勘違いしてるようじゃが、1つ教えてやろう」


 ある貴族から犯罪者が出た。

 その犯罪者は「身内は関与していない。自分1人が罰を受ければいい」と主張する。

 やがて主張は認められ、本人は貴族社会から追放された。

 だが、残された身内は犯罪者を出した貴族という事実が付きまとい、結果、没落してしまう。


 爺さんは、まるで自分のことの様に話した。


「罪、罰。生きても死んでも、結局は尾を引く。許されんのじゃ」

「……」

「さて、もう1つの勘違いを解こうか。ワシは別に御者に関して、何も言うつもりはない。だから、剣をしまえ」


 しばらく警戒したが、カグルマは剣を鞘に収め、爺さんの前に座り込んだ。


「して、いつ女を助ける? 証拠を残したとなれば、猶予は少ないぞ」

「明日の深夜、紅必の医療施設に忍び込みます」

「紅必か。あそこの警備は優秀じゃ。失敗は許されんのじゃろ?」

「はい」

「なら、ワシも手伝おうかの」


 なぜだ?

 カグルマは問いかけようとしたが、爺さんは遮るように話しを続ける。


「いい奴ほど、誰かの重荷を背負いたがるもんじゃ。たとえ罰であってもな」


 爺さんは自分がいい奴だと言いたげそうに笑った。


「どうして、そこまで……」

「他人じゃからよ。親しい人間に罪も罰も背負わせられるか?」

「……いえ」

「なら、死ぬ時は親しい人間に自分を殺させるな。殺しに美談はねぇ」


 その言葉がカグルマの心に突き刺さる。

 死んで罪も罰も許されるなら、一部始終を知っているラナシャに殺されたいと思っていたからだ。


「爺さん、名前を教えてもらえますか?」

「……いいじゃろ、冥土の土産じゃ。ワシは“リンドウ・ホルト”じゃ」

「リンドウ・ホルトさん」

「あと、敬語はやめてくれ。むず痒い」

「……わかったよ」


 その後、リンドウはカグルマの計画を聞き修正していく。

 修正は夜明けまで続き、計画は完成した。


「なんとも単純になったの。さてと、決行まで時間はある。寝て待とうじゃないか」


 リンドウは大きなあくびをして寝転がった。

 カグルマも肘を床に当て、手のひらに顔のせて横向きに寝転がる。不思議と緊張感はない。

 やがてリンドウの寝息が聞こえてきた。

 抜け駆けは……ないか。カグルマもまた静かに目を閉じる――



「はぁ、はぁ……」


 その日の夕方、ラナシャは息を切らせ、エギルのいる冒険者ギルドへと急いだ。

 昨夜、サージュ・ドウダンの魔導具を乗せた馬車が襲撃され、唯一生き残った御者の証言から、カグルマに関する情報が得られたからだ。


「エギルさん、いる?!」

「ラナシャか、少し待ってくれ! こっちも護衛パーティーの死体が上がってな、調査中なんだ」

「それって、ドウダンの馬車?!」

「あぁ、なぜ知ってる?」

「理由は、いまは関係ない! とりあえず、話を聞いて!」


 ラナシャは御者の証言をエギルに伝える。


「ござるよ。男はそう言ったのか?」

「うん。そんな話し方、世界中を探してもカグルマくんしかいないよね?」

「そうとは限らねぇ……と言いたいところだが、カグルマである可能性は高いな」

「きっとそうよ!」

「だとすれば、護衛を殺ったのはカグルマという事になる」

「馬車を襲ったのは3人。私はそう聞いたけど、まさかカグルマくんが……」

「わからねぇ。罪もない人間を殺せるとは思えねぇからな」


 様々な情報が交錯する中、刻一刻と決行時間が迫っていた。

馬車を引く人のことを行者と書いていましたが、

正しくは御者でした。

訂正しています。



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