97 闇が潜む夜
王都両立育成学校に入学してから1年が経ち、ユズハたちは2年目に入った。
ユズハが自由騎士になるためには、あと2年。
カルティやヴィネが冒険者になるためには、あと1年間、学校に通わなければならない。
さらに2年目からは、食堂は有料になり、武具などの貸し出しも制限される。
新しい生徒が入学するためだ。
そのため、自身でリーフを稼ぐ必要があり、学校では冒険者ギルドと提携し、階級下位の依頼を受けることが許されている――
ユズハは王都にある冒険者ギルドに訪れていた。
「君……また違う薬樹草、採ってきたわね」
「えっ、また違いますか?」
「違いますか? じゃないよ、君」
「すみません」
「そういえば、ツキシロって人も、よく間違えていたわねぇ」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。住んでた世界が違うから。なんて、理由のわからない言い訳をしてたわよ」
めちゃくちゃ強かったと聞いていたけど、意外と……ユズハは苦笑いをした――
一方、カルティは、同じ軍略科で講義を受けているミスティ・シネラリアと一緒に、エギルのいる冒険者ギルドへ足を運んでいた。
その手に持つ大きな皮袋には、分厚い資料が入っている。
「エギルさん、いますか?」
「おお、来たなカルティ。早速時間作るから、クランの話を聞かせてくれ」
「お願いします!」
「よろしくお願いします、エギルさん」
2人が提案したのは、複数のパーティーを1つのクランにまとめることだ。
さらに、高難度依頼専門クラン。新人冒険者育成クラン。採取専門クランなどの専門形態を設け、各依頼に特化させる。
これにより、戦闘に不向きな冒険者が無理をして、討伐、護衛依頼を受ける必要が少なくなり、需要も増える。
「基本的には、クランをまとめるクランマスターが、所属するパーティーに見合った依頼を受けることになります」
「そうなると、受注手続きもスムーズに運び、込み合う時間も緩和されそうだな」
ユズハたちは、何気ない日常を過ごしていた。
そして、そんな日常の中にも闇は潜んでいる――
「あんた、人を殺めるような性格じゃないじゃろ?」
「大事な、大切な人を助けたいんです」
「なんじゃ、女か?」
「……」
「好きなのか?」
「……はい」
「今から罪のない人間を殺めるんだ。元の関係には戻れんぞ?」
「ええ、わかってます」
これは俺が唯一できる罪滅ぼし。そして、許されることない罰だ。
「来たぞカグルマ。サージュ・ドウダンの魔導具を輸送する馬車じゃ」
サージュ・ドウダン。
魔導師の名家であり、現当主。
剣術大会の予選でリンネ・ヒラドと対戦した、カズラ・ドウダンの父親だ。
サージュは魔導具のコレクターでも有名だった。
月に1度は個展を開いている。
この日も紅必の王都で個展を開くため、数々の魔導具を積んだ馬車が走っていた。
そのコレクションの中に“追想玉”という、対象の過去の記憶を甦らせる、秘宝と称される魔導具があった。
儀式屋との接触に成功したカグルマは、追想玉を使用するために、儀式屋が求める魔導具を手にいれなければならなかった。
「護衛は4人、熾天使を含め、全てが階級上位じゃ。主ら気を引き締めろよ?」
儀式屋は、カグルマを合わせて3名。実力は確かだが、一筋縄では行かないだろう。
「いたたた……」
「なんだ爺さん、足か腰でも痛めたか?」
「お前さん、経験不足じゃの」
「は?」
儀式屋の爺さんは上手く馬車の前で躓き、近づいてきた護衛の胸元に剣を突き刺した。
「賊だっ!」
それに気づいた護衛の3人は、一斉に戦闘態勢に入った。
状況判断が早い。
「こっからは3対3じゃ。各々抜かるなよ?」
儀式屋は護衛2人をそれぞれ惹き付け、御者と残った護衛をカグルマに任せる。
「どこかで見た顔だな」
「……」
対峙すればわかる。
この護衛の階級は、きっと熾天使。
しかし、臆してる場合じゃない。
シンプルに考えれば、この男を殺せばヨハネイを元に戻せるかも知れないんだ。
カグルマは両手に、長さの異なる剣を抜き構える。
「元々……俺1人でもよかった依頼だったんだが……なっ!」
男は深く踏み込み、使いなれた剣を振るった。
夜空に金属音が響き渡る。
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