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96 罪魔の長

 罪魔の真新しい死体の数々。

 おびただしい白骨の山。

 横穴を下った先は、タレイア洞窟、第6階層だった。


 生徒たちはどこだ?

 ホルトは耳を澄ませ気配を探る。

 魔法探知は罠に掛かる可能性があるからだ。

 現にクヌギも探知を使っていない。


 雑音のような声が、最深部から聴こえてくる。

 それは徐々に近づく。

 その正体は、口から涎を垂らし人肉に飢えた罪魔たちだ。


 洞窟だからと言って野太刀を置いて来たのは(まず)かったか。ホルトは剣の耐久力を気にした。


「ホルト教官、私が道を切り開こう」


 クヌギは鞘から剣を引き抜く。刃には肌に刺さるような魔力が纏われていた。どっしりと構え、剣先を迫りくる罪魔たちに向ける。


 剣技・白蛇閃(おおなむち)


 螺旋を描く衝撃波が、罪魔たちの肉を削ぎ突き抜けた。


 凄まじい剣技だが感心はない。俺はクヌギ(あんた)より、生徒が大事なんでね。ホルトは開けた道を駆け抜ける。


 僅かな灯りに人影が複数。あの雑音だ。ホルトは剣を抜き、走るリズムを変えた。


 琥柳(こりゅう)剣術“柳八手(やなぎやつで)


 剣だろうが腕であろうが関係ない。全て()()()()()

 繰り出したのは、野盗を斬り倒した剣術だった。

 罪魔の間をすり抜けるように斬り捌いていく。地面、両壁面に足や腕、頭が音を立ててぶつかり落ちる。


 灯りの先には、大きな空洞になっており、遊牧民の野営地のような光景が広がっていた。

 その中心に、ひと際目立つ建物がある。

 血の匂いがここまで漂ってくる。


 頼む、生きててくれよ。

 急いで駆け寄ると、強烈な殺気が襲い、ホルトは思わず足を止めた。

 のそりと建物から現れたのは罪魔だ。しかし、その姿は今までの罪魔を逸脱していた。


 異形ではない。容姿は限りなく人間に近い。


「待て、レブン」


 レブンと呼ばれる罪魔は片膝をつき、声の主を迎え入れる。


「貴様、クヌギではないな」

生憎(あいにく)な」


 声の主は老婆だった。目は白く濁り、頭髪は無いに等しい。背骨は曲がり、杖がないと体を支えることさえ出来ないほど痩せ細っている。


「そうか。クヌギめ、やはり見限りよったか」

「クヌギと何を交わしたが興味はない。婆さん、生徒たちはどうした?」

「生徒? あぁ、貴重な食糧だ。大切に保管してるよ」


 生きているのか、死んでいるのか。どちらとも取れない言い回しをする。


「婆さんと交渉する気はない。どんな状態であれ生徒たちは返してもらう」

「そうかい。レブン、この男は殺して喰おうじゃないか」


 レブンは立ち上がると、首の骨を鳴らし、ホルトの真正面に立つ。

 全身に広がる棘の紋様はドクドクと脈を打ち、微かに発光していた。


 突然変異か……魔力が紋様を通して流れている。

 殺気の正体はこれか。これじゃ、魔力で身体強化をさせているようなもんだ。


「ホルト教官。この者どもは、私に任せてもらおうか」


 赤黒い返り血を全身に浴びながら、クヌギが背後から現れた。

 その言葉に感情はない。


「それは助かる」


 ホルトは構わず生徒たちを探しに行く――



「クヌギよ……どういうことだ?」

「罪魔の長。貴様らは用済みだ」

「用済みとな?」

「そうだ。私は新たな武力(ちから)を手に入れた。貴様らは必要ない」

「そうかい。長年飼い慣らしてきた我らに噛み殺される日がきたねぇ」


 レブンはクヌギの前に迫り、右、左と拳を繰り出す。

 クヌギはその場から動かず、上半身だけ反らし、躱す。


「ほう、間合い取る知識はあるのか」


 しかし、実際は違う。

 レブンは無意識に生命の危機を感じ取り、身を引いただけだった。


「なにをしておる! 殺せ! 喰え!」


 長の声は、生徒と教官を探し出したホルトにも聞こえていた。


「きょ、教官……」

「もう大丈夫だ」


 麻痺毒を射たれているが、幸い血液タイプだ。神経毒だとショック死している。

 腰に付けている小袋から、解毒薬を取り出し、教官と生徒たちに射つ。


 ……犠牲者はもう1人の教官。この落とし前、きっちり払ってもらうぞ。


 生徒たちのいる建物から出ると、既にクヌギは罪魔を討ち取っていた。

 クヌギの鎧には亀裂が入り、僅かに息も切らしている。

 相手は魔力による身体強化をした罪魔だ、無理もない。


「クヌギさん、助かりました」

「そ、そうか。いま、スキュラ騎士団をこちらに向かわせている」


 こうして、タレイア洞窟による実技訓練は幕を閉じる――


 教官の殉職については、双方の国で丁重に行われた。


 スキュラの王とクヌギ。

 この2つの思惑に罪魔が絡んでいることは間違いない。

 ホルトはそう考えたが、所詮、一介の自由騎士。

 意を唱えたところで、潰されるのは分かっている。


 結局、罪魔の存在は闇に葬られるだろう。

100部ぐらいを目処にしてたんですが、余裕で超えそうです。


ご愛読ありがとうございます。

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