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91 悔しくて

 紅必からシャダイまで、往復で約10日間。

 ミカへの取り調べを終えたカズヤは、リュリに引き継ぎ、急いで紅必へ出発する。


 学校生活で、少しは改善されていれば、いいんだけどな……定期便の馬車の中で、カズヤは頭を悩ませた。

 神ともてはやされ、大きな力を持つがゆえに、リンネは何をやっても許されると思っている節がある。


 言葉は悪いが、ルドルフ教皇を含め、信徒たちがリンネを持ち上げ続ければ、リンネは立場を勘違いしたまま、多くの敵を作ることになりかねない。


 カズヤはそれが心配でならなかった――


 時を同じくして、リンネを探していた少年との戦闘から1ヶ月。

 ユズハの折られた左腕も、動かすには支障がないほどまでに回復していた。


 ユズハはリンネを誘い、学校の訓練場で向かい合っていた。


「リンネさん、付き合わせてごめん」

「別にいいよ? 私もちょっと懐かしい気持ちになれたし」


 リンネにとって、ユズハが実践している、ビートソードエボリューションは、日本にあったリズムゲームだからだ。


 ラナシャはカグルマ関連で不在が多く、その代わりとして、ユズハがリンネに頼み込んだのだ。


 ビートソードエボリューションは、魔力玉を剣で斬り続けるという鍛練法であり、咄嗟の判断力と瞬発力が鍛えられる。


 さらに4段階の難易度も存在した。


 ユズハは、カグルマとラナシャとの鍛錬で、四方から放たれる魔力玉を斬るという、1段階目をクリアしている。

 2段階目は、四方八方から放たれる魔力玉を斬る鍛錬だ。


「魔力玉の数を増やせばいいの?」

「そう。難しいかな」

「イメージはできてるから、大丈夫だよ」


 リンネには馴染み深いゲームだ。

 ユズハの言わんとしていることが誰よりもわかる。


「この鍛練法、誰が考えたの?」

「俺の本当の父親かな」

「そのお父さんは、どこにいるの?」

「俺の生まれる前に死んでるんだ」

「ごめんなさい、嫌なこと聞いたよね」


 そうか。きっと、私と同じ日本人だと思ったけど、確かめようがないわ。リンネは小さく、ため息を吐く。


「とりあえず、始めましょう」

「お願いするよ」


 リンネの放つ魔力玉は重く、ラナシャの質量を遥かに超えていた。

 叶うなら、もう一度1段階目からやり直したいとさえユズハは思う。

 ラナシャに申し訳ないと、罪悪感を抱えつつも、それほどユズハは強さに飢えていた。


 その原因は明白だ。

 あのリンネを探していた少年を、確実に倒しきる力が無かったからだ。


 カルティやヴィネも気づいているはず。

 格上の相手を倒す、必殺の一撃がないということを。


 この時、奇しくもユズハは、ミカの考える必ず自分の命を守る剣ではなく、必ず相手を殺す剣を模索することになる――



 カルティが食堂で昼食を摂っていると、ヴィネが目を輝かせながら入って来た。


「カルティ、実技訓練の場所が決まったぜ!」

「本当か?」

「あぁ、やっとな!」

「場所は?」

「騎士王国スキュラにある、タレイア洞窟だ」


 タレイア洞窟。

 かつて魔物の群れが居住を求めて、硬い岩盤を掘削し作り上げた洞窟だ。

 そして、スキュラの見習い騎士が実戦場としても使われている。


 スキュラ……国政について、あまりいい話を聞かないが大丈夫なのか?

 カルティは腕を組み、椅子の背もたれに体を預ける。


「そういや、ユズハは?」

「この時間は、訓練場だ」

「腕も完治してねーだろ」

「ろくに鍛練できなかったからな。取り戻したいんだろ」

「カルティ。差し入れついでに、覗きに行こーぜ」

「……そうだな」


 2人はランチセットを購入し、訓練場へと向かった――



 リンネは次々と魔力玉を放つ。ラナシャであれば、魔力回復薬を2本は飲んでいるはずだ。


 どれだけ魔力量があるんだ?

 ユズハにとっては好都合だが、恐怖さえ抱いてしまう。


「よう、ユズハ! 面白いことしてんな!」

「差し入れ持ってきたぜ。少し休憩しないか?」


 ヴィネが大きな声を上げ、カルティはランチセットを持ち上げる。


「リンネさん、少し休憩しようか」

「……う、うん」


 ユズハたちは、ヴィネたちに駆け寄った――



 訓練場に笑い声がこだまする。ビートソードエボリューションを開始して1週間。

 リンネもユズハたち3人と打ち解け、今までにない充実した日々を送っていた。


 もし……虐められずに、普通に学校生活を送れていれば……

 リンネ3人を見つめながら、唇を噛みしめ、瞳はうっすらと濡れていた。

それぞれの思いが動き始めます。


ご愛読ありがとうございます。

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