90 十熾天剣、敗れる
褒誉12階層。
ガリガリと地面を削る音。
フェイクスの指示通り、2人の儀式屋が魔法陣を描く。
その傍らには、ガザニア・ヴィオラの死体が転がっていた。
「フェイクス様。なぜ、こんな手の込んだことを?」
「まぁ、見てなよ。ルドルフのおっさん。」
儀式屋の1人が魔法陣を書き終えると、フェイクスに合図を送る。
「死体を魔法陣へ入れろ」
フェイクスの指示を受け、儀式屋の2人は、ヴィオラをまるでゴミを扱うように放り投げた。
精神を集中させたフェイクスの魔力が魔法陣に流れ込む。
魔法陣をなぞるように魔力が走り、まばゆい光の柱が登った。
やがて光が消え失せ、姿を現したのは魔力の塊だった。
ルドルフが魔力の塊に触れると、全身に吸い込まれる。
「どんな感じだ? おっさん」
「これが……ヴィオラの力……」
「神か女神だかの力が欲しいんだろ? まぁ、こんな感じだ」
フェイクスは、高笑いをしながら、ルドルフの肩を馴れ馴れしく叩いた。
そこへ、エリカが姿を現す。
「フェイクス? 儀式は終わった?」
「おう」
「ありがと。後は、リンネの力を奪うだけだね」
続けてエリカは、ルドルフに目を向ける。
「……何ですか?」
「ねぇ、本当にいいの? おじさんの神様、殺しちゃって」
「リンネ・ヒラドの力が手に入るのであれば、問題ないですよ」
「そっか。準備が整えばシャダイに戻ってもらうから、ゆっくりしてね」
ルドルフとの会話を切り上げ、エリカはフェイクスを誘う。
そして、フェイクスと共に転移して姿を消けした――
エリカたちは、深い森の中に佇む廃屋の前に転移した。
空は森が隠し、僅かな星の光が降り注いでいる。
「さすがに異様な気配を醸しだすね」
「そりゃそうだろ。あの中には、十熾天剣の1人“スタジィ・ゾア”が居るんだからよ」
「ユッカ様は大丈夫かな」
「さぁな」
廃屋に足を踏み入れると、右手にスタジィの頭部を掴んで佇む、ユッカ・イスノキの姿があった。
「あぁ、お前たちか。この時代の十熾天剣は強いな」
ユッカはぶらついた左腕を見せつけた。
30分前――
荒れ果てた床の上に正座した男.
その姿勢には、微塵の隙も無い。
「こんな場所に来るとは、いったい何の用だ?」
「私はユッカ・イスノキ。十熾天剣が1人、スタジィ・ゾアで間違いはないか?」
「……何用か。と聞いている」
「率直に言おう。私たちの軍門に降れ」
「軍門に降る? 貴様に敗れてもいないのにか?」
「これから、そうなる」
ユッカは左腰に携えた剣を抜き、剣先をスタジィに向ける。
スタジィもまた正座を解き、左脇に寝かせてあった剣を握る。
対峙する2人に言葉などない。
ただ集中力を高め、互いの間合いを徐々に詰めて行く。
2人の距離が縮まるにつれ、スタジィは腰を落とし、居合いの構えを。
ユッカは剣をやや前に出し、距離を測る。
先に仕掛けたのはスタジィだった。
鍔に親指を添えると、閃光が真一文字に軌跡を残す。
対してユッカは半歩下がり、完全に見切る。
スタジィはさらに踏み込み、高速の右袈裟を放つ。
剣筋を見極め、難なく躱した……が、スタジィは勢いのまま体を回転させ、左手に握った鞘を滑らし、先端を握ると、ユッカの左腕に打ちつけた。
パキンッと渇いた音が鳴り、関節からだらりと垂れ下がる。
これで左腕は使えない。
スタジィはほくそ笑む。
なるほど……鞘をも利用するのか。
ユッカは動じず、スタジィを見据えていた。
剣を鞘に戻し、やや前屈させながら、再び居合の構えを見せる。
ユッカは変わらず剣を前に出し距離を測っている。
剣技“寸閃”
スタジィは腰を引き、下がった鞘から、自然と抜け出た剣を握り、下段から上段へ打ち抜いた。
腰を引くことで抜刀の間を作り、さらに左親指で鍔を押す間さえ省いたのだ。
抜刀の瞬間を見極めようと、右手に集中していたしたユッカは、意表を突かれ反応が遅れる。
しかし、スタジィの剣は空を切った。
常人では目で追えぬほどの一閃。
初撃より、ただ少し速くなった程度。
これがユッカの認識だった。
振り上げたスタジィの右腕を、ユッカは剣の柄で叩き落とす。
前のめり気味に体勢を崩したスタジィの顎へ膝蹴りを放つ。
跳ねた顔面の眉間に、再び剣の柄を振り落とした。
衝撃が眉間から後頭部を貫く。
スタジィの眼球が眉間に寄り、元に戻ると同時に、白目を向いて力なく倒れた――
「おいおい、それ治んのかよ」
「数ヶ月は掛かりそうですね。でも、十熾天剣を落とせたのは、良いことです!」
ユッカに応急措置を済ませると、スタジィを連れ、3人は褒誉へと転移した。
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