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89 沢木英梨花

 全12階層からなる褒誉(ほまれ)。その12階層を、エリカたちは拠点としている。

 そして、最深部には胎流回廊(たいりゅうかいろう)という時空間回廊があり、この回廊を抜けた先には、エリカが滅ぼした世界、“コデマリ”へと繋がる魔法陣があった。


「フェイクス、エリカを見ませんでしたか?」


 辺りを見渡しながら、サカキ・イスノキがアカシア・フェイクスに訪ねる。


「ああ? 知らねぇよ。また、コデマリに行ってんじゃねぇか? ()()()()()()()()()からな」


 フェイクスは吐き捨てるように答えた――



 四方を魔法陣が囲み、中心部には暖かな光が溢れ出ている。エリカはそれ見上げながら、そっと呟く。


「キル……もう少しだけ待ってね」


 中心部には、腐りながらも辛うじて人の形を保った男の姿があった。

 しかし、エリカの目には男の生前の姿が映し出されている。


 男の名は、“キル・レイロード”

 エリカの最愛の人であり、コデマリを滅ぼすきっかけとなった人物だ――



 広大な海に囲われた大陸、コデマリ。

 その大陸には二つの王国が存在していた。


 東部を治める人族の王国、ラギア。

 西部を治める魔族の王国、アガレス。


 二つの王国は長年に渡り大陸の支配権を賭け争いを続けていた。


 個々の能力に秀でた人族は戦況を優勢に進めていたが、繁殖能力の異なる魔族は、驚異的に数を増やす。

 物量に勝る魔族は、徐々に支配地域を広げ、人族は劣勢に傾きつつあった――



 ―ラギア王国主要経路・第四防衛拠点砦―


 この砦も陥落しそうだな。

 キルは防壁から素早く身を乗り出すと、矢を射り魔族の頭を抜く。そしてまた身を隠した。


 まったく……500強の魔族に対し、民兵を含めた僅か100人足らずの兵数で何が出来るんだ。


 突然、砦内は騒然となり、民兵の声が大きくなった。


 飛行魔族ガーゴイルが空から急襲し、次々と砦内に侵入したのだ。

 それはキルの前にも降り立ち、間髪入れず鋭い爪で襲い掛かる。

 キルは咄嗟に身を躱し、左腰に備えていた刀を抜き打つとガーゴイルの首を撥ね飛ばした。


 潮時だな……逃げるか。

 敗色は火を見るより明らかだ。


 キルは逃げながら、多種多様な魔族をなぎ払い、王国に繋がる転移門を目指す。


 道中に転がる死体を横目に階段を駆け降り、転移門へと続く通路をひた走る。


 転移門のある扉の前は、逃げ出そうとする民兵たちで混乱を極めていた。


 飛び交うのは悲鳴にも似た怒号。


 その様は、生き残る為には同族であれ、命を奪いかねない危うさを孕んだ状況だった。


 転移門の内部には胎流回廊と呼ばれる約800mある異空間回廊があり、潜り抜けるとその先が王国領だ。


 俺が最後尾か。


 敗戦時の転移門は魔族の侵入を防ぐため、最後の1人を残し閉ざすよう徹底されている。


 1人の犠牲で、多くの民が生き延びるの為だ。


 “俺が殿を務める!落ち着いて門を(くぐ)れっ!!”


 キルは大声を発し、その場を静める。

 一瞬呆気にとられた民兵達は我に返り、緊急時の訓練を思い出したかのようにテキパキと動き出した。


 魔族であろう息遣いと足音が近づいてくる。

 キルはそこら中に落ちている剣や刀をかき集めた。

 幸い転移門へ続く通路はやや細い一本道。

 魔族が大挙しても良くて一対一、悪くても二対一の戦闘に持ち込める。


 死ぬなら少しでも多くの魔族を倒す。キルの腹は決まっていた。


「君、カッコイイね。さっきの声、聞こえてたよ?」


 キルがその声に振り向くと、そこには1人の少女が立っていた。

 整えられていたであろう髪は乱れている。

 まだ転移門前の混雑が治まらない中を掻い潜ってきたのだろう。


「ラギア王からの命で試験的に実戦投入された“異世界勇者のエリカ”です!」

「……はい?」


 これが、コデマリの滅亡を決定づける、運命の出会いだった――



 2人は行動を共にするうち、この不毛な戦争を終わらせるべく国を立ち上げる。

 さらには敵対していた魔王軍の王、ポチ・アガレスが傀儡王だったことを知り、仲間に引き入れる。


 数年にもわたる人族、魔族、エリカたちの戦争。

 エリカたちは多くの仲間を失いながらも戦い続けた。

 度重なる困難を乗り越え、勝利を重ねていったエリカたちは、ついに終戦を目前のところまで引き寄せた。


 しかし、終戦をよく思わない勢力により、キル・レイロードは毒殺されてしまう。

 キルに毒殺を命令、実行させたのは、国の立ち上げを支援し、苦楽を共にしたキルの戦友であり、親友だった。


 大きな叫び声を上げ、エリカは感情のままに仲間を両断した。

 落ち着かせようとした、ポチ・アガレスもその手に掛けてしまう。


 自暴自棄になったエリカは、キルを抱えながら何もかもを破壊し尽くした。

 そして無意識のうちに、キルと初めて出会った砦に辿り着く。


 キルを生き返らせる方法はないのか。

 生前のキルを思い出す度、その願いに囚われていく。


 その時、閉ざしていたはずの転移門が静かに開いた。エリカは自身を導いていると思い込んでしまう。


 キルを生き返らせる方法が、この先にあるかも知れない。

 胎流回廊に飛び込むと、今までとは様子が違う。

 ますます期待の膨らんだエリカは、回廊内を突き進んだ。


 そして、現在の世界へと繋がる魔法陣を見つけたのだった。


ミカの前世である、ミカズチの物語が長引いたため、反省を活かし、沢木英梨花の過去はざっくりとしました。


ご愛読ありがとうございます。

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