88 取り戻し、その先へ
―宿屋・トウカエデ―
「みなさん、お待たせしました」
カズヤはミカたちが宿泊している宿屋の一室に訪れた。そこには、シオンとナツフジ兄弟が座っている。
「ミカさんはどうですか?」
シオンは心配そうな表情を浮かべ訪ねる。
「明日から取り調べです。しばらく俺がして、一週間も経てばリュリさんが担当するので、きっと大丈夫ですよ」
「しかし、エリカって女。何者なんだ?」
ナナミは苛立ちを隠せず、強い言葉を発する。
「褒誉の道中で話した通り……あのミカさんを一撃で沈めた強者です。それ意外、正直わかりません」
「……そして、教皇と行方知れず」
「はい。ただの誘拐なのか、それとも……」
カズヤは少し煮え切らない表情を見せた。
「それともって、何?」
「シオンさん、紅必とシャダイ王族派との同盟を結ぶ動きがあるんです」
ルドルフ教皇の失踪、紅必との同盟。タイミング的にも、何者かの意図さえ感じさせる。
「とにかく、ルドルフ教皇とエリカの行方を全力で追います」
「でも、ルドルフ教皇がいなくなれば、信徒の不安が爆発したりしないの?」
「シオンさんは、リンネを知っていますよね? 彼女が教皇派のNo。2なんですよ」
「え? 初耳」
「教皇不在の間は、学校を休ませてリンネに戻ってきてもらいます」
「学校側の承諾は?」
「明日、済ませます。もし会ったら仲良くしてあげてください」
「うん、わかった」
「それと、これをミカさんから預かりました」
カズヤは腰袋から取り出した手紙をシオンに渡す。
「シオンさんのやるべきことが書いてあるそうですよ」
「ありがとう」
「では、俺はこれで」
カズヤは軽く会釈をして部屋を出た。
早速シオンは手紙を開き、内容を確認する。
「シオンちゃん、なんて書いてあるの?」
「いつもの基礎鍛錬とナナミさん、リコさんに鍛えてもらえって」
「そっか……任せてくれ! な、リコ?」
「……うん」
ミカが釈放されるまでの間、シオンはナツフジ兄弟に師事を仰ぐことになった――
―ルドルフ大聖堂・地下収容所―
ふぅ。ふぅ。
収容所に、ミカの荒い息遣いが僅かに聞こえる。
腕立て伏せ、腹筋、精神集中。
収容されている間、出来ることは何でもする。
ミカは心に強く決めていた。
そこへリュリが訪れる。
「あまり、悩ましい声だすなよ?」
「どこがだよ……久しぶりだなリュリ」
「遅くなってすまない。思ったより、元気そうだな」
「カズヤが気を利かせてくれたからな」
リュリは太く重厚な鉄格子の扉を開き、ミカを外へと誘い出す。
「なにしてんだ?」
「いまのミカと手合わせがしたいと思ってな。心配するな、誰にも何も言わせない」
「……変な奴」
ミカの瞳の奥には、純粋でなく貪欲に強さを求める、決して綺麗とは言えない鈍い光が灯っている。
リュリには心から身震いし、同時にそれが嬉しかった。
「ここは?」
「私とカズヤ、専用の訓練場だ」
二人は互いに備え付けてある木剣を手に取る。
「サービスだ。先手をやる」
「そりゃどうも」
ミカは中段に構え、じりじりと間合いを詰める。明らかに雰囲気が違う。
その姿はやけに幼く見えた。
リュリは自身の駆け出しの頃を不意に思い出す。
本気なんだなミカ。
リュリもまた、どこかにあった油断を、完全に消し去る――
とうに、体力の限界も超えている。
それでも、二人は時間を忘れ、ひたすらに打ち合った。
ミカの肌の見える場所には、多くの痣がある。
「リュリ……休憩……しんどい!」
「さすがに……しんどいな……」
「いい汗……かいたよ」
「いいのかミカ。風呂……入れないんだぞ……」
「もう……一週間も入ってないんだ……今さらだ」
二人は仰向けに寝そべり、天井を見つめる。
「ミカ、悪い知らせがある」
「なんだよ急に」
「カグルマ・アイスティが姿を消した」
リュリはことの経緯を伝える。
「ヨハネイが……」
「ヨハネイも気の毒だか、問題はカグルマだ。ミカを一撃でのしたエリカと繋がりがある。」
「それは本当なのか?」
「少なくとも紅必はそう見てる。エギルも含めてな」
「そうか。まぁ、カグルマは心配ないだろ。根はいい奴だからな」
「……わかった。さて、戻ろうか。少しマシなご飯を食わせてやる」
「容疑者の扱いじゃねぇな」
「実際、違うんだろ?」
二人は笑い合い、訓練場をあとにした――
なんだかんだ言っても、リュリはミカが大好きです。
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