87 仕組まれた罠
意識を取り戻したミカは起き上がり、壁にもたれずるずると背中を滑らせ座り込んだ。
背中を強く打ったせいか、上手く力が入らない。
マズイな……
いま魔物にでも襲われでもすれば一貫の終わりだ。ミカは大きなため息を吐く。
「師匠との修行……もっと真面目にすればよかったな」
思わず言葉が漏れる。
ツキシロよりもリラへの憧れが強く、ミカは嫉妬心から素直になれなかった。
そのツケが今になって回ってきたのか。圧倒的な力の差を見せつけられ、弱気になってしまう。
「いや、今からでも遅くはない。何度失敗しても、一度の成功で全部チャラだ」
ユズハに贈った言葉を自分に言い聞かせる。ミカの目は死んでいない。
その思いに同調したのか、霊光の太刀から水色のオーラが溢れだし、人形に変化した。
「……師匠?」
オーラはツキシロの気配を感じさせた。
「ミカ、基本だよ基本。リラも3年基本を積んで、あの強さを身につけたんだ
」
「3年? あんな才能を持ちながら?」
「正直、リラを贔屓にしてたから言わなかったけど……ミカの潜在能力は、リラを超えてる」
「あのなぁ、師匠。もっとマシな嘘つけよ」
ツキシロに似たオーラが一瞬、微笑んだように見えた。
そして、その笑みを最後にオーラは霧散する。
「あ、おい! どっちなんだよ、師匠……」
ミカは呆れながらも、少し気持ちが楽になった気がした。
これがリラさんなら、もっと楽になったんだけどな。
目を潤ませながら、静かに闘志を燃やす。
しばらくすると中央通路に続く扉が開く。
入ってきたのは、カズヤ・ヒイラギだった。
「ミカさん!?」
「おう、カズヤか。悪い、ちょっと助けてくんねぇかな」
カズヤの肩を借りて起き上がると、ミカは一息ついた。
「ありがとう、カズヤ」
「もしかして、その怪我……エリカの仕業ですか?」
「よくわかったな。見ての通り、この様だ」
「やっぱり……俺はルドルフ教皇と一緒に5階層に飛ばされたんです」
「5階層と言えば、偽大トカゲの巣がある階層だったな」
フェイクドラゴン。
体長1.5m程あり、カズヤにしてみれば、地球に生息するモロクトカゲという生物に似た魔物だった。
「はい。個々の強さもあり、座天使階級の冒険者でも数人いなければ、命を落としかねない魔物だったんです」
カズヤの話によれば、エリカは6階層から現れ、熱身病で苦戦するカズヤとルドルフ教皇を逃がすため、フェイクドラゴンの群れへ飛び込んだ。
エリカの武力は凄まじく、カズヤの印象は、日本の無双ゲームを見ているようだった。
その隙に4階層へ上がったカズヤたちだが、ルドルフ教皇は「エリカを1人にして置けない」と静止を振り切り、単独で5階層へ降りてしまう。
追いかけようとしたが間が悪く、牙爪土竜の群れに襲われ戦闘になる。なんとかなぎ倒したカズヤは、急いで5階層へ降りたが、既に2人の姿はなかった。
「そこには、おびただしいフェイクドラゴンの死骸だけが残っていました」
「……シャダイのトップ1人が行方不明となると、どうなるんだ?」
「俺が証言しても、俺を含め、ミカさんたちに容疑が係るかもしれません……」
「私たちはともかく、カズヤまで? 何でだ?」
「宗教とはそういうもんなんです」
「何かの所為にしないと、体制を保てない……か」
「その時は全力で……」
「いや。シオンやナツフジ兄弟は目標もあって大事な時だ。容疑が係った場合、私だけにしたい。出来るか?」
「そんな事をすれば、何をされるかわかりませんよ?!」
「その時こそ全力で守ってくれ」
「……わかりました」
その後、5階層の中間地点でシオンとナツフジ兄弟を見つけ、地上へと辿り着く。
「カズヤ様、ご無事でしたか?!」
入り口には教皇派の騎士団、神聖騎士5名が待ち構えていた。
「なぜここに?」
「冒険者数名がルドルフ教皇を連れ出したと報告がありました」
「連れ出した? これはルドルフ教皇が直接、ギルドに依頼を出した案件だったはずだ」
「カズヤ様、それは間違いです。冒険者1人に対し、200万リーフも出すわけがありません。それを証拠に、当の案件は不正が発覚し無効となっています」
「……どういうことだ」
「よって、そこにいる冒険者たちを容疑者として拘束させてもらいます」
「待て!」
「カズヤ様。庇い立てするのであれば、貴方にも容疑が係ってしまいます」
カズヤにまで容疑が係ってしまえば、元も子もない。
ミカはカズヤの肩から腕を離すと地面にペタンと尻もちをついた。
「すべて私1人が計画したことだ。下手打って、打ちのめされたけどな!」
「ふん、自白して罪を軽くしたつもりか?! バカな女だ! 取り押さえろ!」
神聖騎士たちはミカに近づく。
シオンとナツフジ兄弟は、ミカの前に立ちはだかろうとしたがカズヤが静止させる。
「事情は後で説明します」
呟くように、シオンたちに言い伝える。
「容疑が係っているだけだ。丁重に連行しろ」
「はっ、カズヤ様!」
気迫のこもった言葉に、ミカに対して横柄だった騎士の態度が一変する。
その日、カズヤは一度シャダイに戻り、ミカの身辺整理を済ませると、再びディーテに赴き、シオンたちと合流した。
主人公の出番は……?
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