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86 失敗作たる由縁

 ガザニアの腕力は凄まじく、頭上で受けた剣が、じりじりと目の前まで迫る。


 押し返せない……シオンの息が荒くなり、顔色が悪くなる。

 ガザニアの腕は4本。いま受けている腕は右肩から生えている。

 もし、脇の下から生えている下腕の、どちらかの腕を振り抜かれれば、なす術がない。

 予想通り、ガザニアは怪しくほくそ笑み、右の下腕を振りかぶる。

 しかし、なぜか目の前に迫った剣の圧力が弱くなる。


 シオンは剣を弾き返し、すぐさま下腕の斬撃を受け止めた。


「リコさん! 動けますか?!」

「もう少し……!」


 肩から剣を引き抜き、リコはその場から逃れる。

 シオンもまた力を抜き、ガザニアの剣を滑らせると、壁際から離脱する。


「ナナミさん! リコさん! これを!」


 二人に回復薬を渡し、体勢を立て直す。


「ありがとう、シオンちゃん」

「……ありがとう。でも、どうしてここへ?」

「その話はあとで。まずはアイツを倒しましょう」

「わかったよ。ガザニアは再生能力が高い。内部から全身を焼いても、僅かな時間で回復する」

「……それにあの筋肉。並みの攻撃は通用しない」


 ガザニアは上腕をクロスさせ、一気に開くと、また剣圧力を放つ。

 三人はその場を離れて躱し、再び集結する。


 ガザニアの動きは、太い筋肉のために鈍い。

 それを補う形で、あの剣圧を放っているのだろう。


「ナナミさん、リコさん、作戦があります。リコさん、肩に刺さっていた剣をください」


 シオンは両手に持った剣を逆手に持ち変え、作戦を二人に伝える。二人は一瞬、顔を見合わせたが、すぐさま頷いた。


「お願いします!」


 支援魔法“銀糸(ぎんし)


 リコは両指から魔法の糸を放ち、ガザニアの腕を巻き込みながら、胴体を縛る。


 私の読みが正しければ、同時には断ち切れない。

 シオンの読み通り、上腕に力を込め、糸が延び始めているが、下腕の糸に変化はない。


 “炎浸拳”


 その隙にナナミは渾身の魔力を込め、身動きの取れないガザニアの全身を火だるまにする。


 肉が固ければ、燃やして柔らかくすればいい。

 シオンは懐に飛び込み、逆手に持った剣をガザニアの両脇腹に刺し込む。

 柔らかくなったとはいえ、刺さりは鈍い。


「はぁぁ!」


 それならと、魔力を剣に通し一気に突き刺す。

 魔力により脆くなった剣がガザニアの体内でぶつかり合い砕ける。

 その感触を得ると、シオンはすぐさま離脱した。


 剣技“砕撃(さいげき)


 体内で砕けた剣の破片は内臓に突き刺さり、たとえ再生能力があろうとも、動く度に内臓を傷付ける。


 既に使い古された剣技であり、現在では通じるほうが稀だ。


 ガザニアが力を込め、上腕の銀糸を断ち切り、下腕に力を込めた時、口から泥のような血が溢れる。

 もがけばもがくほど血を吐きだし、やがて膝をついた。


「やったなシオンちゃん!」

「……凄い」

「ありがとう。ナナミさん、リコさん」

「よくあんな作戦を思い付いたな?」

「アイツ、4本ある腕を同時に使えなかったの」

「じゃぁ、わざわざ上腕と下腕を切り換えないなといけなかったのか」

「……実質、僕らと同じ。使えるのは2本の腕、失敗作たる由縁」


 ガザニアは何度も立ち上がろうとするが、その度にぐしゅぐしゅと血を吐き、しばらくすると動かなくなった。


「しかし、なぜガザニアが8階層に……」


 11階層まで辿り着いたハインツ・ルドルフの手記には、ガザニア・パンジールは9階層で目撃されている。

 そして、10階層にはガザニア・パンジールの成功体と言われる、ガザニア・ヴィオラが存在したと書かれている。


「何か意図的な動きが見え隠れしますね」


 シオンは怪訝な顔をして、ナナミとリコも押し黙る。


「そういえば、シオンちゃんはなぜここに?」

「恥ずかしい話ですが、7階層に飛ばされて、尚且つ魔物が強くて、命からがら逃げて来たんです」

「……飛び込んだ扉の先がここだったんだね」

「はい……」

「シオンちゃんは面白いね!」


 ナナミは笑って誤魔化したが、シオンの潜在能力に少しだけ嫉妬した。

 その理由は、7階層を無傷で切り抜け、ここに辿り着いたことになるからだ。


「もう少し休んで、傷がある程度回復したら地上を目指そう」

「……うん。7階層までいつも往復してる」


 ナナミとリコは、持参した回復薬を傷口にぶっかける。


「飲むより俺らはこっちだよなぁ?」

「うん……痛気持ちぃ」


 シオンは、シンプルにドン引きした。

9月も終わりなのに、気温は30度越え。体調には気をつけないといけませんね。


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