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85 手も足も出ない

「ここは……6階層か」


 ミカが飛ばされた場所は、5階層から8階層まで続く、地下神殿エリアだった。

 構造はシンプルで、5階層から下ると、中央に走る幅の広い通路が1本。その両側には訓練場と思われる大部屋があるだけだ。

 普段なら大部屋には入らず、中央通路の先にある7階層へ向かうことが定石だ――



 シオンと離れたのはマズい。4階層までであれば問題ないが、それより下層だと命を落とす危険がある。せめてナツフジ兄弟と一緒であれば……


 ミカは霊光の太刀を抜き、通路に繋がる扉へ歩き出すと、扉が重い音を立て開いた。


「あれ? 当てが外れちゃったか」


 扉から現れたのは、エリカだった。


「よう。アンタもこっちに飛んだのか」

「そうみたいですね」


 エリカとの距離を一定に保つミカを見て、エリカは不思議な表情をした。


「私、警戒されてます?」

「まぁね。アンタとは短い付き合いになりそうだ」

「ふーん」

「お前、何を企んでる?」


 エリカの雰囲気。明らかにこの世界の人間ではない。

 ツキシロを知る私だからこそ、容易に気づくことができる。

 そういう奴は、大抵なにかを腹に抱えてるもんだ。


「企み? 何のことかな」

「打ちのめして聞いてやるよ」

「そう……できるかな?」


 エリカは右手の人差し指を立てる。カグルマに放った跳弾魔力だ。

 しかし、ミカは太刀を横になぎ払い、小さな魔力の球を弾き飛ばした。


「あれ?」

「小手調べしてる暇はないと思うけどねぇ!」


 エリカとの距離を一気に詰め、ミカは襲いかかった。

 その斬撃は片腕とは思えないほど鋭く、速い。

 たまらずエリカは空間から剣を取り出し受けにまわる。


「凄い凄い! 剣術だけなら、私より上かも!」

「安い挑発には乗らないよ!」

「ありゃ、これも駄目かぁ」


 左手に持った剣で、ミカの太刀を捌きながら、魔力を込めた右拳を腹部にめがけ打ち放つ。

 太刀を盾にして受け止めたが、その衝撃は凄まじく、ミカは後ろへ吹き飛ばされ、壁に亀裂が走るほど強く背中を打った。


 視界がぼやける……たった一撃でこの様さかよ。

 やがて視界は暗くなり、ミカは意識を失った。


「ふぅ。今まで会った中で一番強かったけど、この程度かぁ」


 エリカは呆れたように吐き捨て、その場を去る。


 なぜ止めを刺さなかったのか。

 それはエリカにとって、障害になりうる存在ではなかったからだ――



 一方、ナツフジ兄弟は8階層の大広間へと、飛ばされていた。


「ガザニア・パンジール……」


 ガザニア・パンジール。

 何者かにより人体実験を繰り返され、産み出されたという化け物だ。

 度重なる実験に関わらず成果はなく、“失敗作の王”とも呼ばれている。


 その姿は異様でしかない。

 腕は4本。それぞれに剣を携え、全身は黒く、何もかもが太い。筋肉の鎧だ。


「参ったなぁ、リコ」

「……兄さん、いずれは通る道。遅いか早いかの違いだよ」

「おっ? いつになくやる気だな」

「……来るよ、兄さん!」


 ガザニアは腕2本をクロスさせ、力強く開くと、凄まじい剣圧がナツフジ兄弟を襲う。


 “支援魔法・護土壁(ごどへき)


 地面から土が一気に迫り上がり、壁を作る。

 しかし、放たれた剣圧に耐えきれず、すぐに粉砕された。

 砕け散った土壁に紛れ、ナナミとリコは左右に離れる。


 ナナミは、ガザニアの死角に飛び込み、炎を纏わせた右拳を左脇腹に叩き込む。

 体を返して、左拳が右頬を打ち抜く。

 さらに両拳を胸元と腹部に当て、一気に火力を上げる。


 “炎侵拳(えんしんけん)


 燃え盛る炎は内部にも浸透し、ガザニアの全身は激しい炎に包まれた。

 しかし、構わず剣を振り下ろす。

 斬撃がナナミの体を両断する間際、ガザニアは右足が地面に沈みバランスを崩した。


 支援魔法“泥沼(どろぬま)


 両断は免れたが、ナナミの左胸から右脇腹にかけて裂傷が走り、血が噴き出す。


「兄さん!」

「リコ! 躱せぇ!」


 ガザニアの投げた剣が、真っ直ぐにリコへ向かう。

 剣は右肩を刺し、勢いのまま壁に突き刺さる。


「抜けない……」


 身動きの取れないリコに、ガザニアは狙いを定め、じわりと近づいて行く。


「リコォ!」


 ナナミが火炎弾を背中に打ち込むが、ガザニアは意に介さない。

 剣を振り下ろし、リコの頭上に迫ろうとしたその時、大広間に金属音が鳴り響く。


 ガザニアの剣を受けたのはシオンだった。

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