84 褒誉の洗礼
最難関迷宮、褒誉。
その入り口にいる宗教国家シャダイの教皇、ルドルフとカズヤ・ヒイラギ、そしてもう一人。カズヤと年端も変わらぬ少女が立っていた。
そこへ「明日のために英気を養うぞ!」と言って、酔い潰れて眠っているミカ達に呆れ、先に宿を出たシオンが到着する。
「あれ? ヒイラギくん?」
「シオンさん?! 何か雰囲気が変わりました?」
ヒイラギにとってのシオンは、王都両立育成学校での撃ち合い時の、高貴で上から目線の言葉遣いが印象に残っていた。
しかし、いまのシオンにその面影はない。変な間が辺りに漂う。
そこへシオンとヒイラギの間を取り持つように、もう一人の少女が割って入る。彼女は、ただ“エリカ”と名乗った。
「こんにちは! シオンさん」
「あ、こんにちは……」
「紹介するよ。彼女は教皇が直前に雇った冒険者なんだ」
「えっと。だとすると、依頼の出てる四名の冒険者の一枠が潰れんるじゃ……」
「そこは大丈夫。内緒だけど僕も少し体調が悪くてね。普段の力が出せないから、多い方が良いんですよ」
シオンに近寄り小声で話すヒイラギ。顔を近くで見たシオンは、たしかにヒイラギの顔色は良くなかった。しかし、それを感じさせない声の張りがあり、一目では気づかないほどだ。
ヒイラギは子役時代、風邪を引きながらも芝居をした事がある。
それを感じさせない迫真の演技が高く評価され、天才子役という名を欲しいままにした経緯があった。
「大丈夫なの?」
「はい、きっとリンネの風邪が感染だけです」
「かぜ?」
そうか、この世界には風邪という病気は存在しないのか。
ヒイラギはどうやって誤魔化すか考えたが、いい言葉が思い浮かばなかった。そこへエリカが助け舟を出す。
「熱身病ですよ、シオンさん」
「あぁ、ウツルですか」
ウツルは日本でいう風邪の症状だ。療法は確立されている。
しばらくして、ミカ達が合流する。
「遅れてすみません……って、カズヤか?」
「お久しぶりです、ミカさん。そちらのお二人は……」
「あぁ、ナツフジ兄弟だ。茶髪がナナミ、黒髪がリコだ」
「紹介が雑っすね、ミカ姉さん」
「今日はよろしくお願いしますね、ナナミさん、リコさん。僕はカズヤ・ヒイラギ。彼女はエリカさんです」
ミカはエリカを紹介された時、背筋に冷えるものを感じた。しかし、それを表に出す事はない。
それは強いとか弱いとかの問題ではなく、どんな強者もツキシロ以下の存在だからだ。
例にもれず、エリカもまたツキシロに比べると心底恐怖を感じる程の強者ではなかった。
しかしそれは、相手の力を推し量るのを見誤る、ミカの悪い癖でもあった。
「ヒイラギ、挨拶はそれぐらいに。褒誉に入る準備をしなさい」
「失礼しました、ルドルフ教皇。早速、取り掛かります」
薄暗い空に光が差し始めた頃、一行は褒誉に足を踏み入れる。
1階層から4階層は、ゴツゴツとした岩肌が覆う洞窟だ。辺りに転がる大きな岩石。そこは岩陰が多く、魔物の奇襲を受けることも稀ではない。
一行は全員で6名。警戒を怠らなければ、早々に対応できる強さもある――
数えるほどの戦闘を終え、一行は3階層へとたどり着いた。
「ふぅ。みなさん、ここらで休憩をしませんか? もう足ががくがくでして」
教皇を除く一同がきょとんとした顔になる。
「ル、ルドルフ教皇?」
「んん? 何だね、カズヤ」
「え? えぇ?」
普段からの教皇からは想像がつかないほどの威厳の無さだった。
「私も信徒の前では気を張ってるんですよ? 心を許せる者や信徒のいない場所では、普通のおじさんなんですよ」
哀愁を漂わせた笑顔で話す教皇。
「はっは! それは大変だな」
「ミカさん! いくらなんでも砕けすぎですよ!」
ヒイラギの心配をよそに、普段と変わらない態度で示すミカに対して、教皇は気にすることなく笑う。
「よいよい。変に一線を引かれるより、気兼ねなく接してもらえると、結束力も強くなるものよ」
「じゃあ、遠慮なく聞くぜ。教皇の目的は何だ?」
「なに、女神像に備える法具、“神破言錫杖”を取りに行くためですよ」
「それは何階層にあるんだ?」
「7階層の隠し部屋です」
「バラしてもいいのか?」
「恒例行事ですので、構いません」
「えらく緩いな」
笑いながらもミカには疑問符が付いた。たしかに7階層は危険な領域。
とはいえ、1人200万リーフの報酬は、危険度でいえば高額過ぎて見合わない。
それにリュリと七階層まで潜った時は、隠し部屋があるような場所はなかった。
しかし教皇の態度を見ていると、それほど重要な代物とは考えにくい……か。
「さて……そろそろ行きましょうか」
重い腰を上げようと、教皇が岩壁を支えに右手を付いた時、小さな岩の破片が地面に転がった。
その瞬間、稲光のような閃光が連続して一行の視界を奪う。
「まさか転移トラッ……」
ヒイラギの言葉を遮り、一行は閃光に包まれ、その場から姿を消した――
連休大好き。
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