81 狂人
「ゼキアス、エリザ。俺が時間を稼ぐ。その隙に逃げろ」
そう指示を残すと、ベネトは剣を強く握り、ミカズチに襲い掛かった。
「二人が逃げるぞ!」
「ホクト! 追うな!」
二人を追う体勢に入ったホクトを止める。
不信に思ったベネトとだが、逃がしてくれるなら好都合だ。
ベネトは構わず上段から剣を振り下ろした。
ミカズチは左下段に構えた剣から、逆袈裟を放ち、剣を弾き返す。
怒りにまかせ、力んだ体から放たれた斬撃は精細さを欠く。
ベネトに大きな隙が生まれたが、ミカズチは押し出すような前蹴りを放ち、後方へ下がらせた。
何か意図があるのか。ベネトもまたそれなりの冒険者だ。僅かに違和感を抱く。
その後も、弾く、躱すを繰り返し、お互いの剣がぶつかり合うと、鍔迫り合いに入った。
灰色の眼球、精気を失った土色の肌。全て死人の特徴だ。
なのに……「なぜ意思を持っている?!」ベネトは捻り出すような声で問いかける。
「どういう意味だ?」
「気づいてないのか?」
ミカズチの脳裏に、シラギの言葉が過る。
「お前たちから見て、俺たちは何者だ?」ミカズチは一歩踏み込み、力を込めると、ベネトは膝をついた。
「ダンジョンに現れる……死人だよ」
「……死人――」
力を込めていたミカズチの剣が脱力する。
ベネトは剣を押し退けるように弾くと、ミカズチの剣は、意図も簡単に手から離れ、地面に転げ落ちる。
「ミカズチ!」ホクトは叫びながら、飛び出す。
ベネトにとって連中は、明らかに格上の相手。
すぐさま腰につけた小袋から丸薬を取り出すと、地面に投げつけた。
破裂した丸薬からは、大量の煙が吐き出し視界を遮る。
――死人か。眠気や食欲、味のしない食事。ミカズチは落とした剣を拾い立ち上がった。
そして、おもむろに自身の指先を切り落とす。
切り口から流れたのは鮮血ではなく、瘴気を帯びた、泥々とした赤黒い血だ。
痛覚も無しか。ミカズチは居直りバラキエルを見据える。やがて煙が晴れはじめた。そこにはベネトの姿は無い。
「ミカズチ、逃がしてよかったのか?」
「ああ。それより、これを」
指先を見せるとホクトは押し黙った。
「バラキエル、説明してくれ。俺たちとは違う行動をしていたのは、お前だけだ」
バラキエルはニヤリと微笑み、目の前にいるヨハネの肩にそっと手を乗せる。
「えっ……やだ! 言うこと聞いたのに!」
その言葉を最後に、ヨハネの体は名残惜しく燃え上がり、やがて灰となり消えてしまう。
「ヨハネん!」
「おい、バラキエル! 何をした?!」
ユイとホクトの、叫びが響き渡る。
「おっと、動くなよ。少しでも動けば、この女のようになるぞ?」
口調が変わったバラキエルは、ニヤニヤとしながらミカズチ達を見ている。
「てめぇ!」
「ホクト、怒りに身を任せるな。体が硬くなる!」
「ミカズチ! こんな時に何言ってんだ!」
「落ち着いて! ホクト!」
怒りに震えながらも必死に感情を抑え込むユイ。ホクトもグッと感情を押し殺す。
ミカズチも剣を握りしめている。指の隙間から瘴気が溢れるほどに。
「バラキエル……俺たちに何をした?」
爆発しそうな感情を抑え込み、ミカズチは問いかけた。
「バラキエルの名を継ぐ者たちが生涯を掛けて研究した魔法、死者蘇生だよ」
「ああ? 俺たちが死んでるって言いてぇのかよ?!」
「バカか? ヨハネを見ただろ。お前らを生かすも殺すも、俺の気分しだいなんだ。行動と言動には、気をつけろよ」
今にも飛び掛かりそうなホクトを抑えるように、ミカズチはぐいっと前に出る。
「……バラキエル。」
「さすがは十熾天剣のミカズチ様だな。落ち着いてらっしゃる。いいだろう、全て教えてやるよ」
バラキエルは見下したような態度で、意気揚々と語り始めた。
この空間は、転移魔法を応用した、時間外の異空間だった。
空間内に時間の概念はない。朝も夜も、全てはバラキエルの魔法による幻覚だ。
さらに、この空間は二百年以上の時を経っている。
「バラキエルは代々、一つの使命を継承される。それが死者蘇生魔法だ」
「その死者蘇生を得るために、この空間を?」
「察しがいいな。フヨウを始め、ディーテにいる奴らは死人であり、実験体だ」
バラキエルは黄昏のアビスを謳い、現代に異空間ダンジョンを生成。
在りもしない財宝を求め、冒険者を招き入れては捕え、人体実験を繰り返していた。
その数は、二百年で約七千人に及んだと高笑った――
現場、仕事、夏。更新がかなり遅れました。
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