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80 望まぬ戦闘

 第五階層の内部は鉱山のようだった。

 周辺は無骨な岩肌が広がり、地面には岩石を運び出す線路が奥の通路へと続いている。


「この線路の奥は工夫が拠点としていた大きな広場があります」

「その奥に最下層へと続く扉が?」

「ですね」

「ならここで、気持ちを切り替えよう。戦闘回数が少なかった分、油断を取り除く」


 ミカズチはシラギとの戦闘を振り返る。僅かな油断が戦況を変えることを知ったからだ。


「何だよユイ、まだ夢のことを気にしてんのか?」


 ホクトは今朝、二人で体をほぐしていた時に、ユイから不吉な夢を見たと聞かされていた。


「……最下層なんかほっといて、このままでもいいんじゃないかな」

「何言ってんだ?」


 二人の雰囲気を察したミカズチは「集中の邪魔になる」と、わざと言葉を強め、強制的に突き放した。


 ユイは昨夜、とある夢を見ていた――


 場所は戦場なのか。地面には幾人の死体が転がり、辺りは怒号が飛び交う喧騒(けんそう)の中だった。そんな状況の中、女は男の手を握っている。


「最後だってのに……素直になれねぇのか俺は」

「私も一緒だよ……」


 男は今にも消え入りそうな声で、何かを悔いているように感じた。

 女も嗚咽を漏らしながら、男の顔が段々と滲んでいくのに気づく。


 やがて男が目を閉じると、女が大声を上げて泣き叫ぶ。そこでユイは目を覚ました――



「その男の人がホクトに似てて……嫌な予感が拭えないの」

「不吉なこと言うなよ。まだ死にたくねーし」

「冗談じゃなくて……」


 ホクトはユイの頭を掻き撫でる。


「今までだって、そんな予感をぶっ飛ばしてきただろ? 心配すんな」それでもユイは俯き押し黙る。


 普段なら喧嘩にも発展しそうな雰囲気だが、ホクトもまた何かモヤモヤとした気持ちを拭えないでいた。


「二人とも大丈夫か?」ミカズチが声を掛ける。

「あぁ、ユイが嫌な夢を見たらしいが、大丈夫だ」

「そうか。なら、ホクトに任せる」


 気持ちを切り替えるように伝え、ミカズチは深く詮索しなかった。


 線路沿いを進む一行。ヨハネは時折地面に耳を着け、より一層警戒心強める。

 奥に進むにつれ大きな岩石が転がり、障害となる物が増えていたからだ。

 物陰から魔物が現れ、不意を突かれると、一気に追い詰められる危険性があるためだ。


「地面に振動がありました。二足歩行が四つ」ヨハネは制止を促し伝える。

「人型か……」ミカズチたちに緊張が走る。

「でも、おかしいです。魔物がこちらに向かってくる振動がしない。一定の範囲をウロウロしてるような感じです」


 工夫の拠点を調べているのか。ミカズチは魔力感知の気配はないか、バラキエルに確認する。


「無いですね。不意を突くなら好機ですよ」鵜呑みにしてもいいのだろうか。視線を前に向け思案していると、ホクトが肩を叩き頷いた。


 意を決し、徐々に距離を詰めるミカズチたち。拠点を望める場所まで移動すると、目の前にある大きな岩石に身を隠す。そこには、やはりシラギのような人間の冒険者がいた。


 剣を持った男。

 剣と盾を持った男。

 杖を持った男女の魔導師が二人。

 全員で四人だ。


 深呼吸をしたミカズチは、自分の立場を改める。

 バラキエルの動向を警戒するのはいいが、敵を目の前にして迷うことは、全員の死に直結する。


「……様子見は無しだ。相手は五階層の人型、戦力を見図ろうとするな。全力で攻める」一行は静かに頷く。


 岩石を踏み台に飛び掛かったホクトは、男の剣士に強襲を掛ける。


「ベネト! 後ろ!」 ベネトと呼ばれた剣士は、すぐさま振り向き、ホクトの剣を寸前のところで受ける。ベネトは受けた剣を弾き返し、素早く体勢を立て直した。


 剣と盾を持った男と対峙したユイは、大剣を豪快に横薙ぎする。男は盾を地面に付け、ずしりと踏ん張り、大剣を受け止めた。

 ユイは反転し逆に大剣を薙ぎ、男を盾ごと横へ吹き飛ばす。


「ゼキアス!」そう叫んだのは女の魔導師だ。持っていた杖に魔力を集め、風属性に変化させると衝撃波を放ち、追撃しようとしたユイの体を後方へ吹き飛ばす。


「お前らがシラギさんを殺したのか?!」ミカズチは男の魔導師を追い詰め、止めを刺す寸前だった。しかし、男の発した言葉に躊躇してしまう。


「ミカズチさん、離れて!」バラキエルは杖に茨のような炎を纏わせていた。

「待て! バラキエル!」ミカズチの制止は届かず、茨の炎は放たれてしまう。


 男の魔導師の全身に茨の炎が巻き付き激しく燃え上がった。

「ラサーシュ!」ベネトの叫び声は届かない。ラサーシュの体は、一瞬にして黒焦げてしまったからだ。


「くそっ!」ミカズチは苦悶の表情を浮かべ吐き捨てた。もう戦闘は避けられない。

「よくも……ラサーシュを!!」女の魔導師が再び杖に魔力を集める。


「ヨハネ! 魔法阻止!」バラキエルの言葉に反応したヨハネは、手に持ったダガーを鋭く投げつけた。

 それを躱すために女の魔導師は、集めた魔力を解き放ち、物陰に身を隠した。

 狙い澄ましたように、バラキエルは火炎弾を放つ。放物線を描いた火炎弾は、身を隠した辺りに着弾し燃え上がる。


「あぁ!!」

「エリザ! 待ってろ!」

 衣服を焦がしながら飛び出してきた女の魔導師を守る様に、ベネトとゼキアスはエリザの前に立ち、ミカズチたちを恨むような目で見据えた。

もうちっとだけ続くんじゃ……


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