8 既視感
ミカたちは、森林地帯にある洞窟前に来ていた。
王都騎士団に案内され、内部へと足を踏み入れる。
魔物の気配は殆どなく、あっさりと2階層へと辿り着く。
「ミカさん、ここが罠の仕掛けられた通路です。石壁にある色の少し違う岩に触れてください」
本当にあからさまな罠だった。泥酔でもしない限り、まず引っ掛かる事はない。
「よし、罠を発動させてヨハネイに落とし穴を調べてもらおう」
「えっ?僕に落ちろって事ですか?」
「まさか。空間把握能力で、落とし穴の内部を調べて欲しいんだ」
「わかりました」
落とし穴が現れる場所から離れて罠を起動させる。
ガコンと音を立て、地面に穴が開いた。
地面にへばり付き準備していたヨハネイは、意識を集中させている。
道中、少し話したがヨハネイの格好には理由があった。
出来るだけ薄着にする事で、微かな風を肌で直接感じ取れるようにしている事。
地面から伝わる振動を感知し、対象との距離や人数等を出来るだけ把握する為に裸足でいる事だ。
他の空間把握師は、ここまでストイックじゃない。ミカは感心した。
「……おかしいな。ミカさん、内部構造が途中で切れてます」
「どういう事だ?」
「途中までは岩肌の凹凸など感じ取れるんですが、その先には無いんです」
「別空間って事か……幸い落とし穴と言っても傾斜だし落ちて確かめるか」
「ミカたんの大胆発言キタコレ!」
「ミカちゃん、誰が落ちる?」
「皆さん、落ちる前提ですか……」
しかし、このまま落ちれば着ている物や装備してる物に傷が付きそうだ。
「ミカたん、お困りのようですな。しかし、この魔法の絨毯を使えば、爽快に滑り落ちる事が出来るでござる」
カグルマはミカを強引に絨毯の上に座らせ、落とし穴へと押し込む。
そして、滑り出したミカを確認すると、カグルマも後を追うように、勢いよく飛び込む姿が見えた。
「速い……速い!」
「ひゃっは~!」
傾斜になっている地面を削るような音を立てて滑り落ちる。
「ああ~~~!!」
「ちょっ!あのバカ!!」
カグルマの悲鳴を聞き振り返ると、バランスを崩し転げ落ちてくるのが見える。
ミカは絨毯を右に捻り速度を落とす。
そのまま左足で地面を擦りながらブレーキをかけ上半身を起こし、右膝を地面に置き踏ん張る。
くそっ! あのぽっちゃりを受け止められる……か?
いざ、目の前まで迫ってくると、ミカの心が折れた。
受け止めるのやめ、カグルマを躱した瞬間、目と目が合う。
ミカは満面の笑みを浮かべた。
「道連れじゃあ~~!!」
「甘いな」
カグルマが咄嗟にミカの左足を掴もうとしたが、ひょいと足を引っ込めると、そのまま勢いよく滑り落ちて行った。
さらば、カグルマ。
一息ついていると上からコロコロと小石が転がってくる。
「きゃあ~~~!!」
「わぁ~~~!!」
「マジですか……2人共ぉぉ!!」
ものすごい勢いで迫ってくる2人に巻き込まれる。
ラナさんの大きな胸が、むにゅっと顔面を直撃。
これはこれで……
気持ち良くなったのも束の間。
ミカは、そのはずみで地面に頭をぶつけ、目の前が真っ暗になった――
「ん…ここは…?」
気がついたミカは、朦朧とする意識をはっきりさせるように顔を両手でパンパンと叩く。
周りを見渡すと、どうやら寂れた教会の中にいるようだ。
コイツがクッションになったみたいだな。
ミカたちの下敷きになっていたのは、カグルマだった。
ラナさんもヨハネイもまだ気絶したまま。
安全の確保をしようと、道具袋から魔障壁石を取り出し床に叩きつける。
半径5mほどの障壁がドーム状に展開する。
それにしても、発見者の供述と全く違うな。ここは教会の中だ。
ミカは注意深く、もう一度辺りを確認する。
古びた祭壇に、テーブルと椅子は腐りボロボロだ。
教会を彩るステンドグラスも無数のひび割れと完全に割れてしまった箇所がいくつもある。
やがて、2人は目を覚ました。
両手を差し伸べ立ち上がらせると、ついでにカグルマも起こそうとつま先でコツンと体を突いてみる。
すると、カグルマは飛び起きた。
「さてと、ラナさん。魔力探知お願いできます?」
「待って。魔力に反応する罠が無いとも言い切れない。やるなら、退路を確保してからよ」
「じゃぁ、僕がなんとか調べてみます」
ヨハネイは意識を集中した。
「何者かが外にいます……1人のようですね」
顔色は蒼白し、声を震わせながら伝えるヨハネイ。
その様子から、脅威を察するミカたち。
一気に状況が逼迫する。
待ち伏せ……ミカは霊光の太刀を抜く。
「みんな、戦闘準備を」
意を決して教会から飛び出すと、ミカは既視感に襲われる。
ラナさんやカグルマは平然とした顔をしているが、ヨハネイとは目が合った。
ヨハネイもミカと同じ既視感を感じたようだった。
「ミカちゃん、よそ見してる場合じゃないわよ……見て、向こうに立ってる人影を」
その人影を目で捉えた瞬間、全身から冷や汗が噴き出した。
とてつもない殺気がミカたちを襲ったのだ。
隣にいたヨハネイは殺気に耐え切れず気を失い、倒れかけた所を抱き留めそっと地面に寝かせる。
「ちょうど良かった。この場では、足手まといだからね」
「ミカたん、辛辣ぅ!」
「さてミカちゃん、カグルマ君、冗談はそこまでよ。」
その人影は、ゆっくりと確実に、明確な殺意を持ってこちらへ近づいてくる。
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