79 近づく死音
「ミカズチ、ちょっといいか?」
フヨウを見送り、一夜明けた日の夜。ホクトはミカズチを教会の外へ誘った。ホクトは腹に何かを隠しているかの、切り出すタイミングを計っている。
「少し聞いてくれ」ミカズチは沈黙を破った。シラギがこのディーテには存在しておらず、認識プレートの違いもあったと伝える。
ホクトは眉間にしわを寄せながら「シラギはこの空間に存在しない冒険者なのか」と問いただすと、ミカズチは頷いた。
「待ってくれ」ホクトは一呼吸置いて、ユイが聞いた、シラギが残した最後の言葉を伝える。
哀れだな。気づいてないのか。
もし空間外から人間だとすれば、言葉に意味が宿る。
そして、シラギは自分たちの立場を知る存在だったのかも知れない。
「バラキエルは、シラギのことを他の冒険者と言っていた」
「それじゃ……空間に閉じ込めらてる冒険者の一人だと嘘を吐いたのか?」
その可能性はある。しかし、シラギの認識プレートを取り外した時、止めようとはしなかったのは何故だ。
「まだ起きてたんですか?」二人の前にバラキエルが現れる。
ミカズチとホクトは目を合わせる。
「シラギの認識プレート、この空間内にいる冒険者の物ではなかった。そのことについて、ホクトと話し合っていたんだ」
返答次第では、状況は一転する。
「フヨウに聞いたんですか? 前にも言いましたが、彼女は気が触れてるんですよ」
ホクトの口元がピクリと動き、言葉を発しようとしたが、ミカズチは遮るように「そうだったな」と肯定した。
「これからも、アビスに挑むんですよね? なら、少しでも休んでくださいね」
バラキエルは穏やかな顔をして、ミカズチたちを気遣った。
「ありがとう」ミカズチの返事を聞くと、バラキエルは再び教会へと戻って行く。
「ミカズチ、何で問い詰めなかった?」
「……バラキエルは、フヨウが正気に戻っていた可能性を知らない」
フヨウがどんな人物かは詳しくない。しかし、ミカズチから見ると、精神を患っているようには感じなかった。
バラキエルは何かを隠している。
「ホクト。疑いたくなかったが、俺はバラキエルを警戒する」
「……わかった。ユイとヨハネにも伝えよう」
仲間を疑う。そんな罪悪感を抱きながら、ミカズチたちは教会へ戻った。
八咫火陽が闇を照らし、微かな風と共に朝を向かい入れた。一行は僅かな眠りを経て、各々はアビス攻略に向けて準備をする。
ミカズチは剣の手入れを始める。
ホクトとユイは、教会の外で軽く体を動かしアビスへ備える。
ヨハネは長椅子に座り、祈りを捧げているようだ。
バラキエルの姿はない。
しばらくして、バラキエルを除く四人が顔を合わせた。
ミカズチとホクトは、昨夜の結果をユイたちに伝える。ユイは顔をしかめ、ヨハネは親指をかじった。
そして、一同は情報を共有し、のちにバラキエルを加え、二回目のアビスへ挑む――
第一、第二階層を抜け第三階層の中庭に一行は辿り着いていた。ホクトはシラギが装備していたロングソードを見つける。
ブレードの中心部から付け根には見たこともない文字が羅列され、魔力を帯びている。
古代の剣か未知の剣か。ただこの時代に存在するような武器ではない。「ちっ……」思わず舌打ちをする。
中庭を抜けると大広間があった。中央には二階へと続く階段が、踊り場を経て二手に分かれ伸びている。
「四階層へは二階へ行かず、そのまま裏に出て、地下へ続く階段を下って行きます」バラキエルは階段の奥を指さす。
宮殿の裏手には本殿へ続く回廊があった。しかし、本殿は蜃気楼のように揺られ、辿り着けそうにない。
回廊をしばらく進むと、地下へと誘うように階段が現れた。「異空間は何でもありかよ」ホクトは愚痴をこぼす。
階段を下り終わると一本道の通路になっていた。その先には光が見える。まるで闘技場へ向かう通路ようだ。
光を抜けると円形の闘技場が現れた。十段ほどある観客席。その中腹には観客が行き交うであろう入り口が複数あった。
「今でも使えそうなほど、状態がいいんですね」
「ここだけ時間が止まってるみたい……」
特に目立った崩壊跡はない。それに、これだけの空間があるのにも関わらず、何の気配もないのも不気味だ。
「バラキエル、第五階層へは?」
「反対側の、正面の通路を抜けた所ですね」
「これまでの戦闘回数をみても、力を温存しながら最下層まで行けそうだな」
シラギのような強者と相対する想定をしていたが、今のところ心配なさそうだ。
そして、ミカズチたちは第五階層へ降り立った。
あと二話ほど続きそうです。
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