77 狂った歯車
シラギは僅かな間を取り、武器のないユイに狙いを定めた。
ズシンと左足を踏み込み、腰を捻り、剣を真横になぎ払う。遠心力を伴った高速の斬撃がユイを襲った。
確実に仕留められたはずの一撃。ユイは天性の反射神経で紙一重で躱す。
その刹那、体が硬直した。シラギの中の歯車が狂ったのだ。
ミカズチたちも、シラギに起こった違和感を瞬時に察知する。
「こっちだ!」気を引くようにホクトが叫ぶ。
その声に振り向いたシラギに、ヨハネの放ったダガーが迫る。
頬を霞めながら躱すと、今度はバラキエルの火炎弾が襲う。
それを魔法障壁で防いだが、今度は側面からホクトの連撃が繰り出される。
剣を右手、左手と器用に持ち替え斬撃を放つホクト。連斬と言われる由縁だ。
幾度の金属音が中庭に鳴り響く。
僅かな隙を見て、シラギはホクトの剣を弾き、後方へと距離を取る。
狂った歯車を元には戻させはしない。
ミカズチは剣に魔力を纏わせ、風属性へと素早く変化させた。
鋭く振り抜いた剣から真空波が放たれる。シラギの右肩から胸の辺りに斬痕が現れ血が滲み出た。
よろめき後退る背中に、ユイは取り戻した大剣を突き刺す。
シラギは口から血を吐き出し、その場に跪いた。
「お前らは……哀れだな」シラギはぼそりと呟く。
「……どういう意味?」ユイは語尾を強めた。
「気づい……ないのか……」
シラギの頭が地に着き、ユイの大剣が背中からずるずると抜け出る。
やがて全身が地に張り付き、じわじわと血が広がっていった。
「ユイ、大丈夫か?!」ホクトが駆け寄る。
「ホクトこそ、顔は大丈夫なの?」ユイはホクトの鼻の下を親指でなぞり、赤黒い血を拭った。
ミカズチたちも2人に駆け寄る。
「それにしても、手強い相手だったね」倒れたシラギを見つめるユイ。
「ユイが無事なら、俺は何でもいい」ホクトはぼそりと呟いた。
「何か言った?」
「何も言ってねーよ」
ヨハネはホクトの腰を叩き、ニヤニヤと笑っていた。しまった……ホクトは苦笑いをする。
「まさか、他の冒険者が襲ってくるとはね……」バラキエルもまた、シラギを見つめ呟いた。
本当にそうだろうか。ミカズチはいくつか疑念を抱いていた。
「バラキエル、燃やす前に認識プレートを取っていいか?」
「いいですよ」
ミカズチはシラギの認識プレートを手に入れる。
「ミカズチ、一旦戻るか?」ホクトは罰の悪い顔をしている。
「……そうだな。バラキエル、転移魔法で戻れるか?」
バラキエルは首を横に振り否定した。転移魔法は異空間を通じた移動魔法だ。
そして、アビスは異空間ダンジョン。異空間の中で、さらに異空間を渡るのは危険だと伝える。
それを理由に、大きな怪我もないなら徒歩で戻ろうと、ミカズチたちを説得した。
「わかった」
「みんな、すみませんね」
一行は無駄な戦闘を回避しつつアビスを抜け、教会へと帰還した――
台風と梅雨の影響で大雨みたいですね。自然災害に気をつけてください。
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