72 異様な空間
辛うじて原型をとどめている門を抜け外庭に入ると、目の前には異様な雰囲気を漂わせた屋敷が建っていた。
屋敷へ入る扉を開けると、室内は雑に整備された大広間が広がっていて、天井にはいくつか崩れた箇所があったが、雨風は辛うじて凌げる。
どうやらここがセーフゾーンのようだ。
その中に冒険者と思われる者が数十人ほど確認できた。先程の件で負傷者が出たのか、ざわめきたつ大広間。
腕や足を失った者、既に死体となった者もいる。あの魔物一匹でこの凄惨な現場が生み出されたのだ。
「死んだ者を中庭に集めてくれ。そこで燃やすから」
ミカズチ達の背後から声がした。振り向くと、そこには小柄な女性と広場で死体を燃やしていた漆黒のローブを纏った男が立っていた。
女性は裸足で、髪は両サイドでまとめ、背丈はユイより少し低い。
装備は革の胸当てを身に着け、左手首には腕輪型のタリスマン。
紺色のフード付きのローブを纏い、武器は腰に刺している二本のダガーだ。
「もしかして、ユイ?」
「あ、ヨハネん!」
2人はパーティを組んでいた過去があり、ユイは親しみを込めて“ヨハネん”と呼んでいたようだ。
名は“ヨハネ・スリード”空間把握師だ。
空間把握師とは、複雑な構造を有し、迷宮と呼ばれる場に置いて、最も重要な地図作成に多大な貢献度を誇る。
さらに限界領域はあるが、魔物の気配、位置などを把握し危機感覚にも優れている。
彼女が裸足の理由も、地面から伝わる微振動で、対象との距離感を素早く察知するためだという。
「ヨハネんとパーティー組んだ時の生存率は半端なっかったです」
ユイは目を輝かせて、自分のことの様に話した――
しばらくすると、死体を燃やし終えた男が戻って来た。
「そういえば、この男は誰だ?」
「僕はバラキエルだ」
「ああ? マジか?」
ホクトは驚きを隠せないでいた。
“バラキエル”は魔導師の祖、バラキエルの力を継承した者だけに与えられる名であり、その継承者には証拠となる魔法が存在する。
「出来んのかよ、転移魔法」
ホクトの疑いを晴らすように、バラキエルはシンプルに呪文を唱える。すると濃厚な魔力が全身から溢れだす。
その魔力を一点に集中させると、バラキエルの目の前にアンティーク調の鏡が現れた。
「僕は君のうしろに出てくるからね」
鏡の中に入ると、ホクトの背後に別の鏡が出現し、バラキエルが姿を現す。
ホクトは唖然としていた。
「さぁ、ホクトはほっといて、まずは自己紹介だね!」
一行は、改めて自己紹介を済ませる――
「みんなに一つ聞きたい。ディーテに来るまでの経緯や記憶はあるか?」
ミカズチは当初の疑問を投げかけた。この場にいる全員が顔を見合わせる。バラキエルでさえ経緯も記憶もなかったのだ。
「じゃあ、僕もいいかな?」
バラキエルはミカズチたちに、この場所から出ようとしたことはあるかと尋ねた。一行は首を横に振る。
「僕がここに来て一ヶ月ほど経つんだけど、このディーテから出れないんだよね。試しに転移魔法も試したけど、見えない壁に阻まれて叶わなかったからね」
「マジかよ、他の冒険者も同じなのか?」
ホクトの問いにバラキエルは同じだと答えた。この一か月間、他の冒険者に聞き取り調査をしたところ、同じ答えが返って来たという。
さらに、ディーテから脱出を試みた者は、たちまち体が朽ち果て死に至った経緯があり、バラキエルも目の当たりにしている。
「これは可能性の話だけど、アビスが憶測通り別の世界へ繋がっているとすれば、この空間から抜け出せるかも知れないね」
他の冒険者たちもバラキエルと同じように考え、アビスに挑んでいるというわけか……
ミカズチは複雑な表情で冒険者たちをしばらく眺めていた――
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