7 王からの依頼
ユズハが試験を終え、帰ってくる少し前――
「お疲れさん、エギル」
「呼び立てて悪いな、ミカ」
挨拶をしてギルドを訪れたのは、ミカ・ユリノキだ。
エギルは、エクス王から依頼された仕事をミカに頼もうと呼び出した。
「まぁ、座れよ。」
「そういや今日は、ユズハが帰ってくる日だな」
「あぁ、それより先に仕事の話をしたい」
エクス王からの依頼は王都の東にある森林地帯近くに、古くからある洞窟の調査だ。
そこの下層に新たな通路が発見された為、現状況を報告してほしいという内容だった。
「森林地帯の洞窟……学校の生徒が卒業試験とかに潜るあの?」
「あぁ、大陸全土でも結構古い洞窟だ。探索され尽くしてる筈なんだけどな」
「今になって新たな通路というと、ちょっと気味が悪いね」
「だろ? エクス王もそれが気になってるみたいだ。わざわざ上位以上の冒険者を指定してな」
既に座天使2人を募ったが、念のためもう1人、経験豊富な上位冒険者が欲しいと思い、エギルはミカに白羽の矢を立てた理由だ。
「サポートにラナシャともう1人付ける」
「ラナさんか。カゲロウからこっちに来てるんだ?」
「王都両立育成学校の試験官としてな」
「もう1人は?」
「空間把握師のヨハネイ・シャイールだ」
空間把握師。
洞窟に流れる微風を感知し隠し部屋や通路を発見に長ける。
しかし、集中力を要し、その間は無防備になってしまう為、上位階級で護衛する場合が多い。
「万全を期す為にも、引き受けて欲しい」
「エクス王からの依頼だし、引き受けて冒険者ギルドの評価を上げるよ」
「助かるよ」
続けて、打ち合わせの話をしようとした時、ユズハが帰ってきた。
疲れた顔をしていたが目は死んでいない。
きっと、やりきってきたのだろう。
「悪いエギル、もう1人上位の奴を付けてくれない?」
「わかった。じゃぁ、明日の午前中に顔見せと打ち合わせをしよう。それが終わったら探索の準備を済ませ、明後日には出発してもらう」
「えらく急だな?」
「明後日はユズハの合否が決まる日だからな。結果がどうあれパーティーだ」
「親バカめ」
そう言いながらも、ミカの表情に自然と笑みが溢れていた――
翌日、エギルはギルド奥の応接室でミカとラナシャと共に残りの2人を待っていた。
「ミカちゃん久しぶりだね」
「ラナさん、その呼び方は止めてください。私も30代ですよ?」
「出会った頃は16だっけ?」
「そうですよ」
しばらくして、コンコンとノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
エギルが招き入れると、赤い髪をサイドテールでまとめ、キャミソールにショートパンツ、腰には2つのダガー、足は裸足の女が入ってきた。
「遅れてすみません! 冒険者階級、座天使!空間把握のヨハネイ・シャイールです!」
「あぁ、今回はよろしく」
続け様に、男がもう1人入ってくる。
少し長めの黒髪に少しぽっちゃりとした体格、左右の腰に剣を携えた男だ。
「おはようござ…おや? ミカたんではありませんか?!」
「お前…武器マニアの“カグルマ・アイスティ”!」
「おお、ミカたんに名前を憶えてもらっているとは光栄でござる!」
「おい、エギル。私が頼んだ上位ってコイツか?」
「文句言うな、腕は確かだ」
冒険者階級・熾天使のカグルマ・アイスティ。正式名称は武器を自在に操る者だ。
ただの長剣もカグルマにかかれば、攻撃手段が5つは増えると言われている。
「とにかく、改めて自己紹介からするぞ。俺はエギル・アイオリア。このギルドを経営している」
「ミカ・ユリノキだ」
「ラナシャ・キルロードです」
「僕は、ヨハネイ・シャイールです!」
「俺の名はカグルマ・アイスティ!字は黒龍だ!」
一同は静まり返った。
現在、通路が確認されているのは全6階層の内、下層にあたる4階層で発見された。
発見者は下位の大天使パーティ。
ふざけていたのか、2階層にある普段引っかかる事のない落とし穴の罠にかかり4階層へと落ちる。
落ちた場所が見たこともない扉のある部屋だったらしい。
今日の午後から洞窟を閉鎖し、1階層から4階層まで、王都の騎士団が魔物を排除しつつセーフゾーンを確保する。
翌日、ミカ達は戦闘することなく通路まで辿り着ける手筈になっている――
王都・商業区。
「……おい、カグルマ。なんで付いてきた?」
「実は、ミカたんが持っていた太刀に興味があるでござる!」
「鍛冶屋でも言っただろ?あれはダメだ。」
霊光の太刀と霊破の小太刀。
ミカがこの両刀を鍛冶屋に持って行った時、偶然、カグルマと出会した。
それに刀は、ミカがリラさんから受け継いだ形見。
使いこなせない訳ではないが、いずれユズハに渡すと決めていた。
「とにかく付いてくるな。わかったな?」
「ミカたん、目が怖いでござる」
ふぅ、回復薬でも買って帰るか。
カグルマを振り切り、ミカは道具屋へと足を運んだ。
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