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68 生きる目標

 激しい痛みで気を失った2人の男を担ぎ迷宮を出ると、辺りは既に薄暗く異様な雰囲気を醸し出していた。

 このまま男達を放って置くと命に関わると判断したミカとリュリは、仕方なく利用している宿屋まで運ぶことにした。


 なにせここは死者と欲望の街と謳われる、犯罪者の温床のような場所だ。

 血に飢えた殺人鬼もいれば、戦闘を快楽とする者、死に場所を求める者、欲望丸出しの没貴族。死を何とも思わない馬鹿野郎ばかりだ。


 こんな所に13~4歳ぐらいの男を野ざらしには出来ない――



「しかし、この若さで4階層まで辿り着くとは」

「いや、身なりからして裏切られたんだろ。武器も回復薬も無かったし」


 甘い言葉に誘われパーティーを組み、攻略の途中で身ぐるみを剥がされることや、宝を横取りされるなど、褒誉では別段珍しくない。

 現に褒誉の1階層から3階層の殆どは、死体遺棄を原因とした死人が多く徊している。


「それより、何体か素手で牙爪土竜を倒してたよな」

「魔力による身体強化でも使ったんじゃないか?」

「相変わらず冷たいなリュリは」

「ミカが甘いんだよ。大体ミカはいつも……」


 いつものように軽く言い争っているとベッドの軋む音が鳴り、男はゆっくりと体を起こした。


「おっと、気がついたか」

「まだ動かないほうがいい。傷口が開く」


 現状が理解できていないのか、男はしばらく沈黙していた。そして、何かに気づいたように言葉を発する。


「リコは! リコはどこっすか?!」

「リコ? 隣のベッドで寝てる男のことか?」


 ミカが指を差すと、慌ててその方向に顔を向ける男。寝息をたてるリコという男を確認すると、安堵したのか深いため息を吐く。


「姉さん達が助けてくれたんすね、ありがとうございます」

「これはご丁寧に。まぁ、とりあえず今は休みな」

「そうするっす。お礼をしようにも、このままじゃ何も出来ないっすから」


 若いのに分をわきまえている。そんな男が迷宮でトラブルに巻き込まれるか?何か理由があるかも知れない。ミカとリュリは顔を合わせた――



 深夜、リュリは窓際に置いた椅子に座り、外を警戒していた。宿屋といっても安全ではないからだ。


 しばらくすると、再びベッドが軋む。


「起きるには、まだ早いぞ?」

「すみません、ここに長く暮らしてると、安眠なんて出来ないっすから」

「……確かにな。だからこうして私も起きている。ミカは器用に寝ているが」


 リュリが指をさすと、椅子を並べて寝転んでいるミカの姿があった。


「そういえば、名前を聞いてなかったな」

「ナナミ、ナナミ・ナツフジっす。こっちが弟のリコっす」

「へぇ、兄弟なのか。じゃぁ、兄弟揃ってなぜ褒誉に?」

「えっ? 理由っすか?」

「暇潰しだ」

「いや、でも……」

「なら、助けた礼の代わりだ。聞かせてくれ」


 誰しも話したくない過去の1つや2つはある。それを理解した上で聞くことには理由があった。


 それは、あの状況でも生きる力強さを感じたからだ。


「俺たちは元々、騎士国家スキュラの貴族だったんす」

「ほう……」


 ナナミたちは男爵の地位にあったが、6歳の時に、その地位を失う。

 使えていた侯爵の横領が発覚し、濡れ衣を着せられたからだ。

 両親は懸賞金をかけられ、命をも狙われた。そして、追われるように辿り着いたのが、このディーテだった。


 治安も悪く、賞金稼ぎや野党などから隠れて過ごす日々が続き、一家は次第に疲弊していった。


 ナナミが8歳になった頃、母親が病に侵された。栄養失調から免疫力が低下したのだ。

 日に日に弱っていく母親を見て、ナナミは薬を得るため、盗みを働くようになる。


 運良く一度の成功で味を占めたナナミは、盗みを繰り返していった。しかし、長く続くはずもない。盗みに入った家の住人に捕らえられ、酷く痛め付けられる。

 いつまでも帰らないナナミを心配した両親は都中を捜し回り、発見した時は住人に命を奪われる寸前だった。


 母親は力を振り絞り、ナナミに覆いかぶさり、父親は住人に立ち塞がった。


 この時の住人と父親の話し声が、ナナミの耳に微かに聞こえてた。


「リーフが目的なら、私たちの首には懸賞金が掛けられている。シャダイにでも突き出せば、まとまったリーフがスキュラから支払われるだろう」

「おお、そうなのか?! なら話は早い!」


 住人の声色が変わった。笑顔を見せ父親の肩を軽く叩く。父親は振り向き、母親と目を合わせると、意を決したように母親はナナミの耳元で小さく呟いた。


「ナナミ、必ず生きなさい。そしてリコと一緒にこの都を復興させなさい」


 その言葉が母親の最後の言葉となる――



「そこからは食えそうな物は、片っ端から口に入れて飢えを凌ぎ、褒誉に潜っては、冒険者の死体を漁ってリーフに替える毎日だったっすよ」


 話しを聞いたリュリは、ナナミに問い掛けた。


「なら、両親は自らの首を差し出し、その懸賞金でお前を助けたんだな」

「そおっす」

「それが出来るなら、なぜお前達の為に首を差し出さなかった?」

「10にも満たない俺達が大金を得ても、この都じゃ奪われるのが落ちっすから」

「なるほどな。では、母親はどうしてこの都の復興を託した?」

「ただ生きてほしいだけじゃなく、明確な目標を持たせてくれたんだと思うっす」

「それで褒誉に潜っていたのか」

「そうっす」

「立派な両親だったんだな。話してくれてありがとう。まだ夜は長い、もう少し寝ていろ」


 ――しばらくして、ナナミの寝息が聞こえてくる。


「ミカ、起きてるんだろう? 話は聞いてたか?」

「あぁ。なぁリュリ、物は相談なんだが……」

「あいつらに教えるのは基礎鍛錬だけだぞ?」

「さすがリュリ、話が早くて助かる」

「ふん。さて、見張りの交代だ。代われミカ」



 それから約2ヶ月間、ミカとリュリはナナミとリコをみっちりと鍛える。そしてこれが、ミカとナツフジ兄弟との今の関係性を築いた経緯だった。

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