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67 ナツフジ兄弟

 さらっとした茶髪をなびかせながら向かってくる男は、兄のナナミ・ナツフジ。黒髪をオールバックに整えた男は、弟のリコ・ナツフジだ。


「5年ぶりっすね、ミカ姉さん。てか、マジで腕無いじゃねーっすか?!」

「6年ぶりだナナミ。しかし、ほんと配慮ががないな、お前」

「……ミカ姉さん、お久しぶりです」

「おう。お前もまた暗いままだな、リコ」


 ナツフジ兄弟。冒険者階級は共に座天使。兄のナナミは近接魔導師であり、弟のリコは支援魔導師だ。


「そっちの綺麗なお嬢さんは?」

「初めまして、シオン・ラナンキュラスと申します。」

「……ラナンキュラスと言えば、騎士国家の貴族じゃね?」

「ナナミさん達もスキュラのお生まれですか?」

「まぁ、そうなんだけど、俺らが生まれた頃には、既に没落寸前。物心ついた時には、この都に落ち延びてたよ」


 没落貴族の末路は悲惨なものだ。シオンは何故、ナナミがへらへらと話せるのかと顔をしかめた。


「そうだナナミ、しばらく滞在する予定なんだ。この寂れた都で1番の宿はどこだ?」

「それならリコが適任だな。案内してやってくれ」

「……任された」



 ―宿屋・トウカエデ―


「……ここならどの宿屋より安全です」

「ありがとな、リコ」

「ミカ姉さん、滞在してどうするんすか?」

「とりあえず、褒誉の4階層を目標にシオンを鍛えるつもりだ」

「へぇ、俺らが出会った所っすね。懐かしい」

「積もる話は後だ。シオン、手続きしようか」

「はい」

「ミカ姉さん、落ち着いたら下の酒場で一杯どうっすか?」

「そうだな、付き合ってやるよ」

「じゃ、待ってるっすよ」



 ――2人部屋を借りたミカ達は荷物を床に置き、向き合うようにベッドに座り込んだ。


「ミカさん、本当に大丈夫なんですか? この宿……」

「多分、大丈夫だろ。ナツフジ兄弟はこの都に育てられたようなもんだからな」


 荷物の整理をして一段落すると、ミカはシオンに魔力増幅の鍛錬を言い渡し、地下にある酒場に足を運んだ――



「こっちっす!」


 カウンターに並び腰掛けているナナミ達は、手を振りミカを誘う。


 ナツフジ兄弟との出会いは6年前。この褒誉の迷宮に、十熾天剣の称号を得る前のリュリ・ラグラスと共に挑んだ時のことだった。


「私達がたった7階層で苦戦を強いられるとは」


 リュリは手を腰に当て、天を仰ぎ息を切らす。


「ほんと、それ。やっぱ2人じゃ限界があるかもな」


 ミカもまた両手を膝に置き、中腰のまま息を整えようとしていた。


 2人の当時の階級は智天使。並みの迷宮なら、単独でも攻略できる戦闘力を持っていた。


「潮時だな。戻ろうか、リュリ」

「賛成だ」


 周囲を警戒し、無駄な戦闘を避けながら6、5階層と登って行く。そして4階層に差し掛かった時、狂ったような笑い声が響き渡った。

 顔を見合わせた2人は、急いで声のした方へ向かう。4階層に潜む魔物は音に敏感だ。声を上げようものなら瞬時に取り囲まれる。


 褒誉の迷宮は4階層ごとに景色が異なり、1~4階層は洞窟のようにゴツゴツとした岩肌が全体を覆い尽くしていた。

 洞窟内は比較的広いが、突出した岩等が死角を作り、冒険者だけでなく魔物にとっても不意を突く機会を与えてしまう。

 さらに空気の循環を遮り、外界とは温度が異なるため、湿気が多く滑りやすい箇所もある。

 足を滑らせたものなら、たとえ優勢であっても、一転して窮地に立たされることも少なくない。


 そして、5階層へと続く4階層は、1から3階層よりも大きな空間が広がり、壁面にはいくつもの横穴が存在する。

 横穴は縦横ともに1.5m程の大きさがあり、構造はアリの巣のように枝分かれしおり、先には部屋のような空間が点在していた。

 そこから現れるのは、2足歩行の牙爪土竜(がそうもぐら)だ。鋭い前歯と岩をも砕く硬い爪を持ち、目と鼻は退化しているが、耳だけは発達している。


 普段は大人しいが、外敵と判断すれば人間を襲い、冬眠前になれば人間を捕食、保存する習性を持っていた。


「ちっ! やっぱ牙爪土竜かよ!」

「あの爪、剣が痛むな」

「そんなこと言ってる場合かリュリ!」

「助けるのか?」

「当たり前だろ!」


 ミカ達が目にしたのは、牙爪土竜数匹と対峙している男の姿と、傍に倒れている男の姿だった。どうやら若い男がワザと大声を出し、倒れている男を守ろうとしているようだ。


 ミカは、腰ベルトに連ねたナイフカバーから1本のナイフを抜くと、牙爪土竜に向けて鋭く投げ放つ。牙爪土竜の全身は硬い毛で覆われているが、腕、足の関節部分は毛が薄い。


 右膝裏にナイフが刺さると、ガクンと腰が落ちた。そして牙爪土竜に振り向く間を与えず飛び掛かり、頭部に剣を突き刺し抜き倒す。

 ミカとリュリは、薔薇の花びらを一枚一枚剥がす様に、次々と牙爪土竜をなぎ倒し、最後の一匹に止めを刺した。


「うはははっ!!」

「ちょっと! おい!!」


 既に正気を失っていた若い男は、訳も分からずミカを襲う。男の振り抜いた拳は骨が見えるほど肉が削がれていた。よく見れば、肌の見える部分の殆どが深い傷で埋め尽くされている。


「どいて、ミカ」


 ミカと男の間に割って入ったリュリは、ミカの腹部に左手を当て押し飛ばし、同時に男の腹部に右肘をめり込ませた。

 衝撃で壁面に衝突した男は、そのまま前のめりに倒れ込み、白目を剥いて失神する。


「助かったよ、リュリ」

「それより、こいつら手当する?」

「そうだな」


 ミカ達は小袋から回復薬を取りだすと、とりあえず男2人にぶっかけた。本当は飲ませる方が効果的だが、血止めに関してはぶっかけた方が早い。



 そのかわり激痛が伴うがな。そう思いながら2人はいたずらに微笑み、痛みで暴れ狂う男達を見つめていた。

暖かくなると犬が布団に入ってきてくれない。それはそれで、少し寂しい。


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