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66 思惑

 カルティ、ヴィネと別れたユズハは、医療施設へと運ばれた。左腕にギプスを嵌められ、包帯できつく固定される。

 一通りの手続きを終えたユズハは、カグルマの病室に顔を出そうと足を運ぶ。ラナシャから一連の話を聞いていたからだ。


 病室へ続く廊下を歩いていると、ふいに声を掛けられた。聞き覚えのある声だが、見覚えのない男だ。


「ユズハ、左腕はどうしたでござる?」

「えっ? ……カグルマさん?!」


 痩せ細った身体を見たユズハは一瞬、言葉を失った。


「はは、痩せてイケメンになったでござろう!」

「イケメン……? そんなことより、もう歩けるんですか?」

「身体を動かさないと、筋力は衰える一方でござるからな」


 ラナシャさんから聞いていた状態より元気そうだ。ユズハは胸を撫で下ろした。それから、しばらく近況報告などの会話を交わす。


「カグルマさん、そろそろ病室に戻ったほうが良くないですか?」

「そうでござるな。また看護師に怒鳴られそうでござる」

「いつも怒られてるんですか?!」

「たまにでござるよ!」


 2人が笑い合うと、周りからの注目を集めしまい、急によそよそしくなってしまう。


「じゃ、じゃあ、学校に戻りますね」


 ユズハが背を向けようとした時、カグルマは右腕を掴み引き留めた。


「……人は生きていく中で、変わっていくものでござる。たとえ、身近にいた人でさえも。()()()殿()、いつまでも変わらない信念と、臨機応変に対処できる柔軟さを持つでござるよ? そして何をすべきか見極めるでござる」


 突然の言葉に動揺したユズハだが、カグルマの真剣な眼差しに強い意志を感じると自然と気合が入る。


「は、はい!」


 その力強い返事に優しく微笑むと、カグルマは背を向け病室へと戻って行った――



 数日後――


 紅必城の謁見の間に緊張が走っていた。深くフードを被る男を前に、エクス王は宰相、カルカヤ将軍を除き人払いを命じたからだ。ざわつきながらも重鎮達は命に従い間を去って行く。


「お人払い、ありがとうございます」

「其方も一国の王、顔をお上げください。ガーデン・サイネリア王」


 フードを降ろした男は、宗教国家シャダイの王、ガーデン・サイネリアだった。おそらく訪問の意図は、学園を襲った侯爵子息の件だろうが、まさかシャダイの国王が直々に、護衛も帯同せず単身で訪れるとは、誰もが予測していなかった。


「エクス王。まずは、此度の騒動をお詫びいたします」

「なに、気にする事は無い。宰相、侯爵紋の返却を」


 宰相が丁寧に包まれたシルクの布を取り解き侯爵紋を差し出すと、サイネリア王もまた、礼を重んじ丁寧に受け取った。


「して、サイネリア王。これだけではないご様子、よければ話を聞かせてくれぬか?」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 現在、シャダイでは以前より増して、国王派と教皇派の派閥争いが激化し始めていた。教皇派の貴族達は静観を保っているものの、国王派の貴族達が次々と教皇派に流れており、国王派唯一の大侯爵、ノースポールの力で抑止している状態だという。


 しかし、それも時間の問題。そこでサイネリア王は、打開策として紅必との同盟を表明し、教皇派を牽制しようと考えたのだ。あまりにも浅はかな考えだが、単身で訪れたということは、それほど逼迫しているのだろう。


「サイネリア王よ、1ヶ月ほどの猶予を貰いたい」

「お考えくださるのか? ありがたい」

「どのような答えでも必ず応てみせよう」

「多くは望みませぬ。何卒よいお返事をお願い致します」


 情に訴えかけるような立ち振る舞いが透けて見えていたが、儀式屋のこともある。サイネリア王が去った後、エクス王は肩肘を付き、深くため息を吐いた――



 ――同じくして、エギルの元にカグルマ失踪の知らせが届く。


「くそっ! カグルマの奴!」


 エギルは書斎の机を叩き、怒りを露にする。カグルマの失踪は最悪のタイミングだった。医療施設は王都が管理する施設。一切の誤魔化しは利かない。

 既にエクス王の耳にも届き、次の日の早朝にはエギルの手元に王都から発行された捕縛依頼書が並び整えられていた。カグルマ・アイスティを重要人物として。


 その報はのちに、自分の前世ミカズチの軌跡を辿る旅に出た、ミカ・ユリノキとシオン・ラナンキュラスの元にも届くことになる――



 ――時は遡り、紅必を旅立ったミカとシオンは、5日間を経て宗教国家シャダイの南西部に位置していた、元・辺境侯国ロドレイア領に辿り着いていた。


 六国戦争前、最も美しい都と謳われた輝都(きと)エデンが存在したこの地は、現在、名のある冒険者や、復興を望む没落貴族の屍の山を築き続け“死者と欲望の都ディーテ”と名を変えている。


 その由来は2千年前、六国戦争で疲弊したロドレイア侯国に突如として現れた、のちに“褒誉(ほまれ)”と呼ばれる迷宮の存在だ。


 褒誉から溢れ出た魔物は、ロドレイア全土を襲い、殺戮の限りを尽くしロドレイアは滅亡。

 その被害はシャダイにも及び、当時、停戦状態だった天都カゲロウへ救援を要請したことで、休戦に発展。

 被害拡大阻止の為に、シャダイとカゲロウの連合軍が結成され、約2年間の戦いの末、鎮圧に成功。


 しかし、連合軍の被害も多く、元凶である褒誉迷宮への攻略を断念。代わりに、シャダイ、カゲロウから出された7千万リーフの褒賞金を餌に、冒険者達に委ねられた。


 そして、褒賞金は未だに有効であり、攻略もされてはいない。ミカ達はその褒誉の前に立っていた。


「これが最難関といわれる、褒誉の迷宮なんですね?」

「そう。ちなみに褒誉と呼ばれるようになったのは、11階層まで辿り着いた冒険者が財宝を手に帰還しことから呼ばれているんだ――」


 その冒険者は多くの財宝を抱え帰還し、シャダイに教皇派を立ち上げた初代教皇、ハインツ・ルドルフだ。

 ハインツは財宝の全てをシャダイの貧しい者達に使い、聖人として崇められた。

 偶像崇拝者だった当時の国王も、その行いを称えると同時に、酷く衰えた国力と信頼を取り戻そうと、教皇の地位を与え利用した。


 これが現在まで到り、国王派と教皇派の派閥を生むきっかけとなる。



「あれ、ミカ姉さんじゃねーか?」

「……そうだな」


 軽そうな男と重い雰囲気を纏った男がミカ達に駆け寄る。その気配に気づいたミカが苦い顔をして、大きくため息を吐き呟いた。


「はぁ、ナツフジ兄弟かよ……」

「えっと……知合いですか?」



 シオンを見て、もう一度ため息を吐くと、ミカはがっくりと肩を落とし、駆け寄る2人に小さく手を上げた。

右足の指を、ピンポイントで1本折りました。しかし、今の検査ってレントゲンだけじゃなくて、MRIも撮られるんですね。おかげで診療代が高くつきましたよ。


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