64 消息の代償
宰相が手に持った書類を捲り詳細を述べる。
最初に変死体が発見されたのは、宗教国家シャダイの侯爵邸だ。状況は、何か儀式めいた様相を呈しており、紋様の回りを囲うように、両親、従者、侍女の、計6人の遺体が並べられていた。
さらに、侯爵には子息が1人いたが現場には見当たらず、また、自国内を捜索しても、発見には到っていない。
シャダイは捜索範囲を拡げるため、各国に子息の目撃情報を募り、公けとなった――
「この件に関して、現在推測されるのは、何らかの儀式が行われたと見て良いと思います。そして浮かび上がるのが、儀式屋の存在です」
儀式屋――
神のいないこの世界には、奇蹟や天災など、人智を超える全ての事案には、儀式屋が関わっていると広くまことしやかに囁かれている。
その方法は、多くの生け贄を捧げる、儀式屋だけに伝わる特殊な奇術を行うなど様々だ。
さらに宰相はページを捲る。
「ここ数ヶ月ですが、突然潜在属性の複数持ちが増えています。中には、その影響を受け、身体に異常をきたす者もおり、我が国の医療施設にも騎士団の3名を含め、数人運ばれています」
この世界の人間は、例外なく生まれた時から魔力と潜在属性を有している。しかし、潜在属性を複数有している者は、極めて稀であり、後天性に発現することはない。
「正直、儀式屋に繋げるのも早計だと思いますが、謎の紋様に生け贄らしき死体。疑う余地はあるかと思います」
宰相はやや苦い顔を浮かべ述べる。僅かな沈黙の後、考古学者が思い到ったように発言した。
「カグルマ殿がこの地に召喚された時、床に魔法陣のようなものが描かれていたと言いましたな? もしかして、この紋様と一致する可能性はないでしょうか」
ラナシャが何か言葉を発しようとした時、遮るようにエクス王は手の平をラナシャに向けた。
「カグルマは召喚された人間だ。儀式屋とは無関係だと分かっている。しかし、確認はしてくれないか? 」
「……はい」
「よし。我らは儀式屋が絡んでいるものと見なし、各国と連携をとりながら徹底的に調べる」
一同は静かに頷く。その理由は各国との連携を取り計らう難しさを知っているからだ――
次の日、ラナシャはカグルマの病室を訪れた。ふっくらとしていた体格は痩せ細り、一目でカグルマと気づけないほど変わり果てていた。
「ちょっといいかな?」
「いいですよ。どうしたんですか? ラナシャさん」
手に持っていた道具袋から、1枚の紙を取り出しカグルマに見せる。
「この紋様に見覚えはないかな?」
「……これ、俺が召喚された時に書かれてた魔法陣ですよ」
ラナシャは動揺したが、上手く平静を装い、質問を続ける。
「じゃあ、この円形の外側にある文字はわかる?」
「……多分、サンスクリット語だと思う。意味はわかりませんけど、これ、俺の世界の文字ですよ」
普段のカグルマなら同じ世界の文字に反応しただろう。しかし、今は無気力なのか、気にも止めない様子だった。
「ありがとう」
「いえ」
変わり果てたカグルマを見て、儀式屋の件を伝えないことにした。今のカグルマに必要なのは、身体の安静と心の安定だと考えたからだ。
カグルマに別れを告げたラナシャは、その足で冒険者ギルドへ向かった――
「この文字がカグルマの居た世界のものなのか?」
エギルは驚いた表情を見せ、ラナシャを見つめる。
「儀式屋の存在ってのは、異世界の人間なのか」
「まだ何とも言えないわ。でも、少なくとも、異世界の人間が関わってるのは確かよ」
「……厄介だな。傍目にはカグルマと儀式屋に繋がりがあるとしか見えない事態になった。俺達はカグルマの事を何もわかってねぇ。」
「カグルマ君の容態が回復するまで内緒に出来ないかな?」
「下手に報告すれば、カグルマに不利に動く。上手く誤魔化して日にちを稼ぐしかない」
「ありがとう、エギル」
「ギルド職員が個人に肩入れすることは、禁じられてるが今さらだ。気にすんな」
――この数日後、消息を断ったカグルマは、紅必から各国へと指名手配されてしまう。
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