62 揺らぎ
――カグルマが消息を絶つ4日前。
森林の洞窟で起きた冒険者行方不明事件の報告書を纏め、アイオリアとラナシャは、エクス王との謁見の機会を得て、紅必城に訪れていた。
軍略室に通される道中、城内はどこか慌ただしさを感じさせる。
軍略室の扉が開かれると、室内に張りつめた空気が漂っていた。中には既に、エクス王をはじめ、宰相、歴史学者、考古学者と見知った顔に、全紅必騎士団を纏める将軍、イブキ・カルカヤの姿があった。
「おう、アイオリア。王様を待たせるたぁ、偉くなったもんだなぁ!」
カルカヤが鼓膜を震わせるような芯のある声を響かせる。アイオリアは苦笑いをしたが、室内の雰囲気を変えるには十分だった。
「エギル、気にすることはない。我々も少し問題を抱えていてな、軍義の最中だったのだ」
各々に、言い聞かせるようにエクス王は目を配る。
「では、軍義を一時中断し、森林の洞窟で起きた冒険者行方不明事件の結果について始めましょうか」
宰相はそう促し、アイオリアは報告書を取り出すと、エクス王に手渡した――
軍略室に沈黙の時が流れる。外からは訓練を行っている騎士団の大きな声が届いていたが、誰一人として気にする者はいない。そして、報告書に目を通した終えたエクス王が、アイオリアに幾つか質問を投げかける。
「森林の洞窟の異空化は、ミカ達が体験したものと同じか?」
「はい。同行したヨハネイが同じ状況を確認しています」
「冒険者の階級の適正は?」
「はい。記載してある冒険者の階級は、権天使と力天使ですが、森林の洞窟は知っての通り危険度が低く、例え7階層であったとしても4階層の難度と遜色ありません」
「そうか。亡骸の回収は?」
「完了しております。その後は、冒険者協会に弔って頂くように手配していますが……死人化した者は討伐対象となり、綺麗な身体のままでの帰還は叶いません」
アイオリアは少し言葉を詰まらせた。被害拡大を防ぐ処置とはいえ、その心中は計り知れない。カグルマ達が早期に、躊躇なく打ち倒した理由も、情に流され身を危険に晒さないための苦肉の策だった。
エクス王の質問は続く。
「このナイジャ・アトラスという者は?」
「その者は天都カゲロウの冒険者で、平行世界からの干渉時、行方不明となっていた人物です。」
「その人物が、異空間に現れたと?」
「はい。その人物は死人ではなく、灰になり消えた事から、私達の計り知れない方法で蘇った可能性がございます」
その時エクス王は、宰相とカルカヤ将軍と目を合わせる。
「行方不明者7名の内、6名が死人化し、残り1名が生死不明とは、どういうことだ?」
「その1名は、ハジメ・イスノキという者で、今回の発端と思われるユッカ・イスノキという男に、体を乗っ取られている可能性があるためです」
「ユッカ・イスノキか。何か知っているか?」
エクス王は歴史学者に問い掛ける。
「はっ。エクス王、前回、シルフ・シルフィードについて、六国時代の戦争に少し触れたことを、ご記憶ですか?」
「もちろんだ。奇妙な異能を持つ一族であり、滅亡まで中立を貫いた国家だったな」
「その通りです。また、ユッカ・イスノキは、当時のイスノキ王の子息であり、第一王子でした」
歴史学者は、ユッカ・イスノキがどのような人物かを語り始める――
ユッカは天性の武力と知略を持ち、乱戦を好んだ。さらに戦場跡は、まるで予期せぬ災害が襲ったかのように凄惨を極めたことから、“戦災”と畏怖されるようになった。
イスノキ存続の為、戦場を駆けずり回り勝利を重ねていったが、イスノキ王はそれを良しとせず、否を唱えたユッカは、謀反の罪を着せられ、実の父であるイスノキ王、自らの手で処刑された。
しかし、この結末に確たる証拠は残されていない。また、歴史書には、ユッカが生存していれば、イスノキ王国は滅亡を免れていたのではないかと、締めくくられている――
「なぁ、ちょっといいか?」
カルカヤが手を上げ、歴史学者に問い掛ける。
「そもそも、イスノキ一族ってのは何者だ?」
「それがいつ現れ、どう建国に至ったのか。また異能についても、未だ謎に包まれているのです」
「奇妙な奴らだな。エクス王よ、大昔の人間が現代に蘇ったとなれば、俺達の抱えている問題と関係あるんじゃないか?」
カルカヤの問に、エクス王は腕組をし、エギルを見据える。
「エギルよ、我々の抱える問題についても、後で参加してくれるか?」
「はい」
「ありがとう。それでは続けようか」
「では、ユッカ・イスノキの口から伝えらた目的を、直接聞いたラナシャから話させていただきます」
ラナシャは立ち上がり、ユッカの目的が復讐と世界の統一であり、それに関わっているであろう、アカシア・フェイクス、サカキ、カグルマに重傷を負わせ、ヨハネイの精神を破壊したエリカの名を上げた。
「アカシア・フェイクスについては、剣術大会優勝者であり、エクス王は祝辞をお与えになられています」
「あの若者か」
「さらにアカシアは、転移魔法を使い、姿を消しています」
「転移魔法……。それは確か、魔導師の祖バラキエルの名を継ぐ者のみに与えられるのではなかったか?」
「その通りです。そして彼は、古代魔法を得意としておりますので、バラキエルの名を継いでいる可能性があります」
ここでまた、カルカヤが手を上げる。
「すまん。疑問なんだが、転移型ダンジョンはなぜ存在しているんだ?転移魔法はバラキエルの名を継ぐ者にしか、受け継がれないのだろう?」
「カルカヤ将軍、各地に点在している転移型ダンジョンは、転移トラップも含め、バラキエルが名を継ぐ者を選別するために、自ら作り出したダンジョンだと言われています」
「なるほど。すまないな、ラナシャさん。続けてくれ」
そしてラナシャは、エリカについて、その危険性を唱える――
「5つの世界を渡り歩き、その一つを破壊したと?」
エクス王達は信じ難い話だと顔をしかめたが、異世界の住人であるカグルマを知っているラナシャにとって、けして狂言などではなかった。
「もう一国の中で治まるような話じゃないな、エクス王よ」
カルカヤの言及を前に、エクス王は皆に休憩を申し入れた。
シリアルにハマったら、牛乳のせいでお腹が……。
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