57 名を知る者
カグルマ達は打って出る。まず最初に飛び抜けたのはヨハネイだ。左手に握ったダガーを鋭く振り投げる。それに反応した剣士の死人は、右へと払いのける。
ヨハネイは左側に出来た隙を狙い、逆手に持ち替えた右手のダガーを死人の側頭部に突き刺し捻り抜くと、死人は両膝を落とした。
それを踏み台にして飛び上がったラナシャは、その後ろに居た手斧を持った死人の顔面に、雷を纏わせた右足を振り抜き蹴り倒した。
僅かに感情が残っていたのか、何も出来ずに倒された2体の死人を見て、カグルマの見据えた先にいる死人が一瞬硬直する。
その隙を見逃さず、背負っていた棒を抜き取り、左足を踏み込むと同時に突き出す。
棒は死人の鳩尾を捉え、身体をくの字に曲げながら後退った。今度は右足を前に踏み込み、棒の後ろの先端で袈裟を落とす。
籠ったような打撃音が鳴り、死人の頭部を打ち抜くと糸が切れた人形のようにペタンと座り込み、前のめりに倒れた。
瞬く間に3体の死人を倒し、残るはあと2体――
「カグルマ君、結界を破ったあの魔法……風魔法の空破よ」
「中級魔法でござるな」
「ええ、油断は禁物よ」
明らかに雰囲気の違う2体の死人。1体は錫杖を持った魔導師、もう1体は長剣を持った剣士だ。
ヨハネイが空気の揺れを感じとる。長剣の死人が空気を絡めとるように剣をゆっくりと振り上げ、鋭く振り下ろしたのだ。
凄まじい風圧が部屋の砂埃を巻き上げ視界を奪う。
その時、カグルマの足元に突然大きな渦が現れ、引き込まれるように落ちていく。一瞬の出来事で2人は気づいてはいない。
――ヨハネイは周囲に神経を走らせた。ラナシャの位置と存在は確認出来た。しかし、カグルマの存在はまるで神隠しにあったかのように忽然と消えていた。
ヨハネイの悲痛を伴った叫びが響き渡る。それを聞いたラナシャは、それよりも大きな声を張り上げ、ヨハネイを叱咤する。
「大丈夫! 今度は必ず助ける!!」
カグルマの選択は間違っていなかった。もし、ラナシャの精神状態が不安定であれば、この状況がナイジャの時と同じ場になり、トラウマが甦っていたかも知れないからだ。
しかし、今のラナシャの心には、同じ過ちを犯さないという強固な決意が秘められていた。
砂埃の中を貫くように空破が放たれる。ラナシャは上体を左側に向け躱す。砂埃のおかげで射線が目視出来たからだ。それも束の間、ラナシャの背後に人影が迫り風切り音が鳴る。
ラナシャの叱咤で落ち着き、長剣の死人の動向を意識していたヨハネイは、ラナシャに迫る刃をダガーで受け止めた。
瞬時に間合いを取ったラナシャは、剣とダガーの合間を縫って、死人の胸元に右の掌底を当て押し退ける。
開いた間合いを詰めるように右足を踏み込み、左足の甲を死人の太腿に軽く当て飛び跳ねると、右足を振り抜き、左側頭部に直撃させた。
受け身を取る暇もない強烈な衝撃に、死人は為す術も無く頭を地面に打ちつける。その後、じんわりと黒く濁った血が広がり地面を染めた。
残るは魔導師の死人のみ。既にヨハネイが動き出していた。
迫るヨハネイに錫杖を薙ぎ払い応戦するが、近接戦を得意としない魔導師の死人の攻撃は読みやすい。
体を左右に振り翻弄すると、誘われるように錫杖を突き出した。
ヨハネイは錫杖を躱し、右側面に回り込むと、ダガーで死人の右首を撫でるように斬りつけ、流れのまま身体を回転させ背後を取ると、今度は強く喉元を斬り裂いた。
認識票が軽い金属音を立て地面に落ちる。それを拾い上げ確認すると、力天使の紋様とソフィー・フィザリスという名が刻まれている。
「こっちはレオン・マルグリット。2人は捜索に出た力天使の冒険者ね」
「ラナシャさん、早くカグルマさんを見つけましょう? 認識票は後でも拾えます」
ヨハネイの様子を見て、ラナシャは思わず苦笑いをし、額からは冷たい汗が一筋、頬を沿って流れ落ちた――
カグルマが引き込まれ辿り着いた場所は、さっきまで居た部屋より薄暗く、しばらく目を閉じて暗闇に慣れさせようとしたが、それもほんの僅かな効果しかなかった。
唯一助けられたのは、遠くに光源があり、両側にタイルのような壁面もある事だ。
(恐らく、光源まで一本道が続いている筈だ)
壁面に手を当てながら慎重に進み始める。この時、日本で良く聴いていた音楽が頭の中に流れていた。カグルマにとって音楽が流れる時は、いつも不安や恐怖から逃げ出したいと無意識に思っている時だ。
光源に近づくと自分の影が視界に入る。そして立ち竦んだ。それは自分の影の後ろに重なる、もう一つの影に気づいたからだ。
「私がずっと後ろにいたのに気づかないなんて、よく今まで生きてこられたね? 静正お兄ちゃん」
――その影は可愛いらしい声で、カグルマの日本名を言葉にした。
棒術の表現に挑戦しましたが、考えていた動きの10%も表現できませんでした……。
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