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56 帰らぬ者達

 徐々に灰と化していくその男の身体は、肩や脇腹の肉が腐り落ち、乾いた骨が見えていた。特に目を引いたのは首元だ。太い糸のような物で、無理やり身体と繋ぎ合わすように縫われていたからだ。


 何者かに首を斬り落とされ、即死だった筈だ。なのに何故繋ぎ合わせられているのか。カグルマは妙な引っ掛かりを覚える。


 完全に灰になると、冒険者の証である認識票が現れた。日本でいうドッグタグのような物だ。認識票には座天使を意味する紋様と、ナイジャ・アトラスという名が刻まれていた。


「遅くなって、ごめんね」


 そう呟くと、ラナシャはそれを掴み取り胸に抱き締めた。


「ヨハネん、周りの警戒を」

「は、はい!」


 カグルマは右腰に結び付けていた小袋から、魔障壁石を取り出し結界を張る。


(正直、感傷に浸っている時間はない)


 ここは何者かの手によって作られた異空間、こちらの動向も把握しているだろう。いつ何が起きてもおかしくはない状況だ。


 しかし、ラナシャの精神状態も無視は出来ない。乱れた心のまま戦闘に入れば、その隙を突かれ命を落としかねないからだ。


 この選択が正解かどうかはわからないが、カグルマはラナシャの精神状態の回復を待つ後者を選択をした。


「ラナさん、抱えきれない悲しみがあるのなら、ほんの少しでも誰かに背負ってもらえばいい」


 この言葉は、カグルマが自身の生い立ちを振り返り、後悔の末に辿り着いた1つの答えだった。


 ラナシャは心を預けるように涙を流し、ヨハネイに縋り付いた――



「話せば楽になるでござる」


 一頻(ひとしき)り泣き、落ち着きを見せたラナシャに声を掛けると、安心した表情を見せ、静かに口を開く。


 その内容は、馬車の中で聞いた強制転移させられた時の事だった。あの時ラナシャはバラバラに転移したと言ったが、実はナイジャと一度、同じ場所に転移していたのだ。


 ラナシャは他のメンバーを探る為に、無警戒に魔力感知を使ってしまう。魔力感知は対象の位置を把握できる一見便利な魔法だが、ダンジョンで使用するとリスクが跳ね上がる。


 数ある原因の一つに、魔力に反応するトラップの存在がある。当時のラナシャは力天使。それなりに経験を積んできているが、詰めの甘い部分もあった。


 ナイジャは魔力感知を止めさせようとしたが既に遅く、ナイジャ1人を残して自身は魔力に反応する転移トラップに掛かってしまう。


 そして、ダンジョンを攻略し生還を果たしたが、そこにナイジャの姿は無かった。自分の軽率な行動に自責の念を抱いたラナシャは、その日から16年もの間、ナイジャの行方を探し続けていたのだ。


「ナイジャを見つけた事、ベインにも教えてあげなきゃね」

「どうしてベインさんに?」

「ナイジャ、私、ベインは、ずっとパーティーを組んでたからね」


 ベインもあらゆる手を使ってナイジャを探していたようだ。


「ありがとう、カグルマ君、ヨハネんちゃん。貴方達が居て本当に良かった」

「そう言ってもらえると嬉しい」

「それより、カグルマ君が真剣な時は、ござる口調にならないのね」

「そ、そんな事ないでござる!」

「僕は好きですよ? ござる口調」


 しかし、3人で笑い合う穏やかな時間は長くは続かなかった――



「上から何か来ます!」


 ヨハネイが何かを察知する。視線を追い天井を見上げると、渦が現れボトボトと複数の人影が地面に落ちてきた。積み重なった人影は操り人形のようにガクガクと起き上がり、カグルマ達に迫って来る。


 薄明かりに照らされ姿を現したのは、瘴気を纏った死人(しびと)だった。


 死人の1体が剣を抜き、ふらつきながら不器用に走り出すと、無防備のまま結界に衝突する。呻き声をあげ、虫のように手足を動かし中に入ろうとしているようだ。


 ヨハネイは死人の胸元に光る物がある事に気づき目を凝らすと、それは認識票だった。


「権天使の紋様……名前は……ハリー・ギメル……」


 ハリー・ギメル。行方不明になった冒険者の1人の名だ。カグルマの背筋に粘り気のある汗が滲み出る。


 死人は全部で6体、行方不明者は7名だ。1体足りてないが、悠長に考えている暇はない。一番奥にいる死人の手元が光り、魔法を放ったからだ。


 結界の一部が打ち抜かれ、それを起点にガラスが割れるように破壊される。結界が消え去り、ハリーは3人に襲い掛かった。


 ラナシャは剣を振り下ろすハリーの右腕を左手の甲で払う。そのまま襟元を掴み、身体を内に捻り寄せ、振り下ろされた右腕の脇に自身の右腕を差し込み抱え上げると、豪快に背負い投げた。


 鼓膜に響くような衝突音と共に地面に亀裂が走り、ハリーの身体が僅かに跳ねる。そして、示し合わせたかのようにカグルマは剣を抜き、膝を付いてハリーの顔面に剣を突きさした。


「もう死んでんだ、悪く思うなよ」


 このカグルマの一言で、ラナシャとヨハネイは躊躇する必要は無いと理解する。



 膝を付いたまま、残りの死人らを見据えるカグルマ。その両側には、深く息を吐き呼吸を整えるラナシャと両手に持ったダガーを器用に回すヨハネイがいた。

第52部で、捜索対象のザイラス、メルティア、ハリー、ディルガ4人に苗字を付け加えました。


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