55 戦友
アームデーモンを倒したカグルマ達は、さらに歩みを進める。
「背に負った棒は、使わなかったんですね」
「秘密兵器でござるからな」
そう答えたカグルマだか、実は背負っていた事を忘れていた。
本殿内部へと続く扉は辛うじて原型を留めていたが、3人が手を掛けると、ぼろぼろと崩れ大人1人が入れる程の穴が出来上がった。
穴を抜けると、ひんやりとした空気が3人を包む。内部は薄暗く、歩く度に足音が反響する。
(ヨハネんがいて助かったでござるな)
この薄暗い中、いつ現れるかわからない魔生物を事前に察知できるというのは、大きなアドバンテージだ。
(しかし、目のやり場に困るでござるなぁ)
ヨハネイは這いつくばるように床に耳を当て、僅かな振動を捉えようとしていた。カグルマにとって、その格好が刺激的過ぎたからだ。しかし、この世界では普通の事なのか、ラナシャに反応はない。
「この先に遮断物があるんですけど、その奥に二足歩行の振動を感じました」
ヨハネイは遮断物があるであろう方向を指差すが、たとえ薄暗い環境でなくても、カグルマ達には到底見えない距離だった。
「ヨハネん、どこまで見えているでござるか?」
「見えてるというより、感じ取るんです。ちなみに約70mぐらいですね」
カグルマは言葉を失いラナシャを見るが、ラナシャは当たり前のような顔をしていた。
「行きましょうか」
「そ、そうでござるな」
道中、ヨハネイに最大距離を訪ねてみた。五感全てを使うのであれば、半径20m程で、半径ではなく直線上であれば40m程度だという。しかし、視力や聴力といった限定的であれば、約100mぐらいは感じ取れるらしい。
30、20mと近づいて行くと、カグルマでもわかる程の腐敗臭が漂ってきた。
否応にも最悪な状況が、3人の頭をよぎる――
やがてヨハネイの言っていた遮断物の前に辿り着く。遮断物というのは、何かの部屋の扉だった。道中の荒れ具合とは逆に、その部屋周辺は目立った崩壊はない。
「開けるでござるよ」
カグルマは身を屈め慎重に扉を押し開ける。目の前には倒れた棚と書物が散らばっていた。幸い棚は身を隠せる程の高さだ。これを利用しない手はない。
棚の陰から奥の様子を伺うと、1人の男が上半身をゆらゆらとさせながら立っていた。
「ナイジャ……?」
ラナシャは消え入りそうな声で呟いた。その表情からは血の気が引き、声を掛けるのも憚られるような悲壮感を漂わせている。
――ほんの僅かな沈黙の後、ラナシャは2人に言葉を掛ける。
「ごめんなさい。あの男の相手、私に任せてほしい」
既に表情からは悲壮感が消え、決意を固めたように男を見据えていた。あの短時間で気持ちを切り替えられる強い意志を汲み取ったカグルマは、背中を軽く叩き、少し身を引いた。
「ありがとう」
そう言葉を残し立ち上がると、ゆっくりと男のいる方へ歩きだした。
男との距離を縮めながら、両手に雷を纏わせる。
それに気づいた男もまた両手に炎を纏わせた。
互いの間合いが重なった瞬間、2人は激しくぶつかり合った。男の左肘を右腕で受け止め、ラナシャの左拳を男は右手で掴み取る。
ラナシャは踏み出した右足を外に捻り、押し込むように重心を掛けると、男を後ろへ撥ね退けた。その僅かな間合いから凄まじい攻防が繰り広げられる。
薄暗い中でぶつかり合う雷と炎は火花を散らすかのように弾け合い、カグルマの目には、神秘的な空間を演出しているかのように見えた。
「カグルマさん……!」
袖をギュッと掴み、ヨハネイがカグルマの気を惹く。その表情は涙を堪え、悲しみを噛み砕こうとしているようだった。
「聞こえるんです、聞こえてしまうんです……ラナシャさんの言葉が……!」
カグルマはヨハネイの頬に手を当ると、ヨハネイはその手に自分の手を重ね合わせ涙をこぼした。
ラナシャがどんな思いを抱き、どんな言葉を投げかけ戦っているのか。その後ろ姿からは想像はつかない。ただ、ヨハネイが涙するほどの何かを背負っているのは確かだ――。
炎が風に煽られた時に発するような音が聞こえた。
男の右拳が空を切ったのだ。
身を屈めて躱したラナシャは、全身を鋭く回転させ右の足払いを放つ。
男の左足首に乾いた打撃音が響くとバランスを崩した。
ラナシャはその勢いのままバネの様に立ち上がり、さらに上段回し蹴りへと繋げ、男のこめかみを打ち抜く。
完全に体勢を崩した男にラナシャは最後の一撃を放つ。右拳に集約させた輝く雷は男の胸を貫き、その雷の余韻が地面や壁を抉る――
崩れ落ちる男を支え、ラナシャはぺたりと尻餅をつく。男の顔を見つめ優しく頭を撫でると、何かを囁き、ゆっくり地面に寝かせた。
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