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54 アームデーモン

 ここまでの所要時間は約3時間。普段より、1時間ほど早いとヨハネイは伝える――。


「ギルドから派遣された冒険者様達ですね。お待ちしておりました」


 第七階層の入り口の傍にある小部屋の前には、王都騎士団の2人が待ち構えていた。小部屋に通されたカグルマ達は、用意された椅子へと腰を掛ける。


「早速ですが、捜索期間は2日と聞いております。念のため、回復薬や食糧は4日分ご用意していますが」


 部屋の片隅には、木箱がしっかりと並べられ積み上げられている。


「ありがとうでござる」

「いえ。……正直なところ、生存率は低いと思いますが、よろしくお願いします」


 騎士の1人は、両肩を僅かに震わせながら深々と頭を下げた。


「任せてくれ」


 それに気づいたカグルマは、何かを察して、ござる口調を控え、安心させるように騎士の願いをしっかりと受け止める。


「さて、ラナたん、ヨハネん。少し早いでござるが、昼食にするでござるよ」


 騎士団の2人も誘い、昼食を摂りながら談笑をする。冒険者は死と隣り合わせだ。カグルマは日本からこの世界に来て、それなりの死線を潜り抜けてきた。だからこそ、こんな何気ない時間の大切さを知っている。


 特に今回の依頼は、生死を孕んだ感覚が強く、泥の中を歩くように足が重かった。


「カグルマさん見てください、このダガー。今日のために新調してきたんですよ」


 カグルマの雰囲気を察してか、ヨハネイが明るく声を掛ける。髪の毛をカリカリと掻きながら、気持ちを切り替えるように、ダガーを手に取った。


「大丈夫ですよ、座天使2人に熾天使のカグルマさん。間違いなくこの洞窟では最強ですから」

「ありがとう」


 ダガーをヨハネイに返すと、カグルマは、この2人を何としてでも守ると決意する。



 ――「わかりました、私達はここで待機しています。ご武運を!」


 カグルマ達は、回復薬等が入った木箱を1つ抱えながら、第七階層に繋がる扉を開け足を踏み入れた。


 眼前に広がるのは、灰色の空と朽ち果てた巨大な神殿。


「予想通りでござったな」

「何者かの術中に嵌まったわけね」

「慎重に進みましょう、みなさん」


 ヨハネイは事前に、扉の向こうの違和感に気づいており、騎士団の2人を含めた全員と情報を共有していた。


「騎士団の2人に扉の中には絶対に入るなと忠告しておいて良かったでござる」

「備蓄は少し無駄になっちゃったけどね」


 ラナシャが振り返りながら呟く。既に入ってきた扉は跡形もなく消えていたからだ。あとはもう進むしかない。崩れ並ぶ円柱の中をカグルマ達は本殿を目指し歩き始める――。



 神経を研ぎ澄ませるヨハネイ。それを守る様にカグルマは先頭を歩き、ラナシャが後ろを歩く。本殿への入り口が近づくにつれ道は荒れ果て、円柱も徐々に根元から折れ倒壊している本数が増えてくる。


 大きな戦争があったのだろうか、倒壊した柱の上に破かれた大きなタペストリーが覆いかぶさっていた。


 ラナシャがタペストリーに気を取られていると、ヨハネイが不意に後ろを振り向く。


「何か来ます! 後ろです!!」


 その声と共に、カグルマとラナシャは体を反転させ、すぐさま戦闘態勢に入る。


 一行より約7mほど離れた場所に、渦潮のような歪みが生まれる。その中から現れたのは、トロールのような体躯、薄気味悪い緑色の肌、底の見えない井戸のような黒い目。さらに異様に太く長い両腕を持った化け物だ。


両腕の魔生物(アームデーモン)……まだ存在していたのね」

「ラナたん、アームデーモンとは何でござるか?」

「16年前の平行世界からの干渉の際、この世界に紛れ込んできた侵入者よ。かなりの数が討伐されたはずなんだけどね」


 アームデーモンは、ずるずると両腕を引きずりながら少し距離を縮めると、突然、両腕を高く振り上げた。

 そして勢いよく振り下ろし地面を叩きつけると、その反動を利用して高く飛び上がり一気にカグルマ達の前に着地した。


 ぐるんと腰を捻り、大きな右腕を振り抜くアームデーモン。ラナシャとヨハネイは後ろに飛び躱し、カグルマは身を低くして躱す。


 そのままの低い体勢から、腰に携えていた(ロングソード)の柄を右手に握り抜き打つ。

 剣はアームデーモンの右脇腹を捉えたが、低反発素材のように刃が鈍く沈み、振り切れない。


(物理耐性持ちかよ! なら!)


 カグルマは迷うことなく剣に魔力を通す。切れ味の増した剣は、真一文字に胴体の3分の2を斬り裂く。



 大量の黒い液体を撒き散らしながら、後ろへ倒れ込んだアームデーモンは動くことなく、やがて白い灰となり跡形も無く消え去った。

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