53 森林の洞窟
森林の洞窟まで約1時間――。
秋月色に染まる木々を横目にカグルマ達を乗せた馬車が走り始める。
洞窟に新たな階層が発見されてから冒険者が急増し、新たに整備された定期便も本数が増え、運行がぐんと楽になった。
ガタガタと音を奏でながら走る道中、ヨハネイは不思議そうな顔をして問い掛ける。
「カグルマさん、その棒のような物は何ですか?」
「武器でござるよ? しかも特注品でござる。」
「は、はぁ……」
「ヨハネんこそ、その首にかけてるタリスマンは何でござるか?」
「五指感勘という魔道具ですよ。」
そのタリスマンは円形のペンダントのようで、時計回りに1から5までの数字が並んでいた。
「この矢印を数字に合わせると、その分、五感が鋭くなって行くんですよ」
「もしかして、数字が大きくなるほど、鋭くなるでござるか?」
「はい。と言っても、5に合わせると情報量が多すぎて、精神崩壊を起こして廃人になりますけど……」
やはり、前回のシルフ・シルフィード戦が頭に残っているのか、カグルマとヨハネイは対策を講じていた。
「……で、ラナたんは何故チャイナドレスでござるか?」
「今回はミカちゃんがいないから、私も前衛に出ようと思ってね。動きやすい服にしたのよ」
カグルマは、チャイナドレスと動きやすさに関係性があるのか疑問だったが、本当の問題は前衛の経験の有無だ。
「ちなみに、前衛の経験はあるでござるか?」
「セツナに半年ほど修行もつけてもらったかな」
洞窟に着くまで、まだ時間がある。カグルマはラナシャにもセツナ・ツキシロについて話を聞かせてもらおうと思った。
話を聞こうとすると、ラナシャの目が僅かに曇ったように見えた。カグルマは直ぐ様後悔したが、ラナシャは「詳細は省くけど」と前置きして語り始める。
ツキシロとパーティーを組んだのは、天都カゲロウの北西にある廃村リベルに現れた深神の渦という異空間ダンジョンの調査依頼を、2組のパーティーの合同で受けた時だ。
深神の渦は、侵入者を強制転移させる無作為ダンジョンであり、ツキシロとラナシャ、他パーティーは足を踏み入れた途端、バラバラに転移させられた。
転移先でラナシャは、いきなり命の危機に瀕した。のちに鉈の魔生物と呼ばれる異形に襲われ、顎を砕かれ、右足を折られ、遊ぶように追い詰められたのだ。
“早く死にたい”
死を覚悟する――などという美学なんて、そこにはない。鉈の魔生物の止めの一撃が放たれた時、微笑みを浮かべてしまうくらい、ラナシャは安堵したという。
その時、豪快に振り落とされた鉈を左腕1本で、軽々と受け止めたのがツキシロであり、同時に右の掌をラナシャにかざし傷の回復まで行う余裕さえ持ち合わせていた。
回復を終え、そのまま右拳を鉈の魔生物の腹部にめり込ませると、内部から破壊されたように、肉片が飛び散り壁にベチャベチャと張り付つくのが見えた。そしてツキシロは一息吐き、ラナシャに言葉を投げかける。
“間に合って良かった”
「――あの優しい声は、今でも忘れられないかな」
そう語るラナシャの表情は、まるで恋をする少女のようにカグルマには映った。
(話す前の曇った目と今の表情……違和感しかないでござるが)
その意味はきっと、詳細を省くという言葉の中にあるのかも知れない。
「それがきっかけで、前衛の修行をしたでござるか?」
「うん、前衛に出たら近接魔導師になるかも」
「それは心強いでござる」
――鬱蒼とした木々と獣道みたいに荒れた地面を馬車は走り続ける。やがて木々が誘うかのように道を開け、その先には静かに佇む洞窟の姿があった。
御者にお礼を伝え、馬車を降りるとカグルマ達は最終確認を行い、洞窟内へと入って行く。内部は荒れた様子も無く、魔獣の姿も見かけない。
第一階層、第二階層、第三階層……戦闘は片手で足りる程だ。魔獣が何かに怯える小動物のようにも見える――。
第四階に足を踏み入れると、ヨハネイが複数の人の気配を察知する。慎重に歩みを進め、その気配に近づくとラナシャが突然、声を掛けた。
「ベイン、こんな所で何してるの?」
その気配の正体は、ベイン・クラウンズ。剣術で名を馳せ、各国の教科書に載るほどに有名なクラウンズ家、現当主だった。
「ラナシャか? 俺は学校の実技訓練の下見に来たんだが……」
「何か様子がおかしいよね」
「そうなんだ。これじゃ、訓練にならないなと教官達と話してる所だ。お前達は何をしにここへ?」
ラナシャとカグルマは目を合わせ、行方不明者の捜索の事を伏せるようにコンタクトを取った。
カグルマ達が経験した事案は現在、紅必国内だけの問題であるため、外部にはまだ流せない秘密事項になっている。
「私達もギルドの依頼で調査に来てるのよ」
「そうか。ならお前達の目から見ても、おかしな所があるようなら連絡をしてくれ」
「了解よ」
しばらく立ち話をして、ベイン達は帰って行った。
「まさか拙者の事やヨハネんの事を知っていたとは驚きでござった」
「カグルマ君もヨハネんも、意外と有名よ?」
ヨハネイは少し照れた表情をする。
「そろそろ冒険者達も増えてくるでござる。先を急ぐでござるよ」
そしてカグルマ達は、規制が敷かれた第六階層を抜け、難なく第七階層へとたどり着いた。
念のため言いますが、チャイナドレスは、100%ツキシロの趣味です。
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