52 捜索
冬期休暇最終日、ギルドにある訓練場の片隅で、カグルマの大きな声が響く。
「ラスト5! 足を使って確実に斬るでござる!」
「はいっ!」
「4、3、2、1! 第一段階クリアでござる!!」
最後の魔力玉を斬り裂くと、同時にラナシャがユズハに駆け寄り、強く抱きしめる。豊満な胸に顔を埋められた姿を見て、カグルマは、心底羨ましいと思った――。
昼過ぎになり、3人が休憩していると、訓練場にアイオリアが現れた。
「カグルマ、ラナシャ、ちょっといいか?」
2人は顔を見合せ、無言で頷いた。
「ユズハ殿、明日から学校でござるから、今日はゆっくりと休むでござるよ!」
そう言い残すと、アイオリアに案内され、事務所に通される。神妙な面持ちのアイオリアを見て、カグルマ達は深刻な問題が発生した事を察する。
「早速本題だが、森林の洞窟で行方不明者が出た。直ぐに捜索パーティーを出したが、そいつらも帰って来ていない」
行方不明になったのは、権天使階級の4人編成パーティーと捜索に向かった力天使階級の3人パーティーだ。
森林の洞窟は、既存洞窟の中でも比較的難度が低い。その為、初心者の登竜門的な意味合いもある。
また、第七階層で発見された希少石“摩楼輝石”は手に入れ易く、高値で取引されている。最安値でも5万リーフの値が付くほどだ。
「魔楼輝石の依頼は限定的でな。奪い合いになるほど人気がある」
その石を求めて行方不明になった事は容易に想像出来る。
「して、何日経っているでござるか?」
「捜索パーティーを出して2日だ」
アイオリアの苦汁を嘗めるような表情に、カグルマもラナシャも、一度視線を外す。
「例の空間に関係があるでござるか?」
「ないとは言い切れない。事件が起きるまで、何の変化もなかったからな」
「……突然、変化した。で、ござるか」
「それも不明だ。ギルドとしては、行方不明パーティーの捜索と、情報が欲しい」
「それを某達に依頼したいという事でござるな」
「頼まれてくれるか?」
「無関係ではないでござるからな。ラナたんはどうでござるか?」
「もちろん、オーケーよ」
「ありがとう、助かる」
緊急を要するため、明日の早朝に出発することになり、当日は空間把握師のヨハネイと合流する手筈になっていた。
「回復薬等は、こっちで用意する。明日のためにも、今日は体を休めて万全な状態で挑んでくれ」
カグルマ達は頷き、ギルドを後にする。
ラナシャと別れた後、カグルマは商業区へ向かった。様々な店が並ぶメインストリートから外れ、日陰のような場所に足を運ぶと、何とも表しがたい陰気で、古びた店が構えていた。
店の中は、剣や斧、槍や弓矢等、無造作に置かれ、埃が被っている武具もある。
「おっちゃん、生きてるでござるか?」
「俺の前で、その言い方は止めろ!」
大声を出して、工房から現れたのは60代ぐらいの大柄な男だった。
「某の個性でござる。して、例の武器、出来てるでござるか?」
「うぜぇな。出来てるよ!」
傘立てのような筒から、1m50cm、太さは5cmほどの、1本の棒きれを抜き、カグルマに渡す。
「しかし、パンチンググローブやミットといい、奇妙な注文ばかりしやがって。こんな武器、扱えんのか?」
「扱えない武器を、わざわざ頼まないでござるよ」
「そうかよ――」
気難しい顔をしながら、大柄な男は代金を受け取り、カグルマを見送った。
翌日、開店前のギルド内で最終的な打ち合わせを行う為、アイオリアを含めカグルマ達4人は、話し合いを始める。
森林の洞窟は現在、地下5階層まで探索可能になっており、6、7階層は規制が張られている。これは他の冒険者が、カグルマ達の捜索の障害にならないようにする処置だ。
そして捜索対象者は、権天使階級のザイラス・カルエ、メルティア・メデス、ハリー・ギメル、ディルガ・ギメルの4人。
力天使階級のハジメ・イスノキ、レオン・マルグリット、ソフィー・フィザリスの3人だ。
特にイスノキのパーティーといえば、依頼に堅実で達成率も高く、指名依頼が最も多い信頼の置けるパーティーだ。それに近々、力天使から主天使への昇格審査を受ける対象パーティーでもあった。
「イスノキって、2000年前に存在した一族の末裔なの?」
ラナシャは興味深くアイオリアに問い掛ける。
「おそらく。本人は否定……というか、一族事態あまり分かっていない」
「たしか、特別な能力を持っていた一族だよね」
「興味を持つのはいいが、今は捜索に専念してくれ。最悪、シルフ・シルフィード並みの強者が相手かも知れんからな」
ラナシャは静かに頷き、再び打ち合わせを続けた――。
七階層手前の小部屋には、王都騎士団が駐屯しており、そこで捜索に必要なアイテムが備蓄されている。
「あと、これが洞窟の地図だ。ヨハネイに渡しておく」
「はい」
「他に質問はあるか?」
3人は顔を合わせ、スッと立ち上がると、手を重ね合わせアイオリアを見つめた。
アイオリアは一息吐き、まんざらでもない表情を浮かべ手を重ねる。
「任せるでござる、アイオリアさん」
カグルマ達は、重ねた手を高く跳ね上げ気合いを入れ合った。
読書の秋ということで、小説を読んで勉強中です。
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