51 武器マニアの本領
冬期休暇4日目。早朝から訓練場は冒険者達で賑わっていた。その理由は、森林の洞窟で新たな階層が発見されたからだ。
冒険者達の情報では、今まで絶滅したと言われる古代の魔獣が存在しているという。ならば、その素材も必然的に古代に流通していた物になる。
現在では失われた素材。高額で取り引きされるのは間違いない。冒険者達は一攫千金を求め、自身を鍛え始めたのだ。
そんな中、ユズハとカグルマは壁際の隅の、小さなスペースで鍛練の用意を始める。カグルマは持ってきた麻袋から、この世界にでは見たこともない道具を取り出した。
「これが昔、特注で作らせた“パンチングミット”と、手の甲や拳、手首を守る“パンチンググローブ”でござる」
ユズハにとって見た事も聞いた事も無い代物だったが、カグルマの居た日本ではボクシングという格闘技があり、それは見慣れた物でもあった。
ユズハはカグルマにグローブを装着させてもらい、カグルマもミットに指を通す。
両手を肩幅ぐらいの広さと高さに上げ、腰を落とし構える。打ってこいと言わんばかりに、ミットを前へ押し出し挑発する。
「昨日の感覚を思い出すでござるよ?」
「はいっ!」
ユズハはグローブの中で指をゆっくりと曲げ浅く握ると、ミットを目掛けて拳を打ち抜いた。グローブとミットの接触音が辺りに響き、近くにいた冒険者達の聴覚を一時的に奪う。
「手首は大丈夫でござるか?」
「少し痛いですね」
「なるほど。その原因は手首が少し、内に入っているからでござるよ」
カグルマはユズハの背後へ回り、右拳を突き出させる。よく見るとユズハの右手首が少し内側に曲がっていた。
「手首は外側を意識して、肩、腕、手首、拳を一直線になるように心がけるでござる。じゃぁ、もう一度打ってくるでござる」
ユズハは言われた通りに拳を繰り出す。すると、さっきとは異なる音が、今度は訓練場に響き渡る。ユズハは呆気に取られていたが、カグルマは思わずにやけてしまう。
「良い音でござる!今度は腰を入れて打ってみるでござる!」
「は、はいっ!」
――手が痺れる……。
カグルマは手首を小さく振りながら、ユズハに休憩を申し出る。ユズハは少し物足りない顔をしていたが、そうでもしないと、手のひらと手首の痛みに耐えられそうにないからだ。
「今日は繰り返し、この練習をするでござるよ。そして、明日は剣を使った練習に移行するでござる」
「よろしくお願いします!」
カグルマは眼を輝かせて応えるユズハを見て、優しく笑った。それは過去の自分がアクション映画を見て抱いた、憧れを思い出させるような輝きを見せていたからだ。
――5日目。
昨日と同じく壁際の隅で二人は鍛錬の続きを開始していた。まずは復習をするように、ミット打ちを始める。小気味よい打撃の音が訓練場に響く。
元々、体幹を鍛えていたユズハはバランスを崩すことなく、ミットを差し出した場所へ最短距離で拳を繰り出す。その度にミットの芯を打ち抜きカグルマを驚かせていた。
「そろそろ剣を握ってみるでござるか」
カグルマはまず、ユズハに普段通りの握り方を見せるように言った。鍔の根元を右手で握り、すぐその下を左手で握る。その違和感に気づき、その理由を尋ねると、ユズハは剣を左右に軽く振る。
「こう握ると、剣をコンパクトに動かす事が出来てどんな剣速にも対応できるかな? と思ったんです。」
――野球のバットの握り方と同じか。
カグルマは野球のバッティングに見立てて、ユズハはホームランバッターではなく、アベレージヒッターなんだなと思った。
基本的にこの握り幅は間違っているが、日本の古流剣術を紐解けば、そういった握り幅も存在しているし、特に注意はしなかった。
しかし、やはり気になったのが握り方だった。柄と掌・指の関係を全然考えずにべったりと密着させた持ち方、これでは剣を受けた衝撃が逃げ難く、関節を痛めてしまう。
「思い出すでござるよ、何故、拳を浅く握ったのかを」
ユズハにそう伝え、握り方を指導する。強く握るのは小指、薬指、中指、人差し指と親指を握るか握らないかの力で緩く握らせた。
「最初は剣がすっぽ抜けそうになると感じるでござるが、ミット打ちの感覚と同じでござる。振り下ろし、物と接触した時に人差し指と親指に力を入れ、振り抜くでござる」
ユズハは目の前に対象物があるとイメージし、それを目掛けて剣を振り下ろす。対象物と剣が触れる瞬間、言われた通りに力を入れると、今まで聞いた事が無いほどの鋭い風切り音を立てた。
「カグルマさん!」
「うむでござる。今日は1日中、これを繰り返し感覚を掴むでござる。さすれば魔力玉も斬り裂けようでござるよ!」
冬期休暇はあと9日。ユズハはビートソードエヴォリューションの1段階目クリアを目指す。
剣の握り方などは一応調べましたが、自分が思うように改変したりしてます。なので、間違っている所があっても指摘しないでね?
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