5 カズヤ・ヒイラギ
――入学試験2日目の朝。
「おはようユズハ」
あくびを噛み殺しながら挨拶をするカルティ。
受験生達は一時的に解放された校内離れにある、避難収容施設に泊まり実技試験に挑む。
朝飯でも食おうと、カルティはユズハを誘った。
「昨日の晩、シオンと飯を食いに行ったろ。どうだった?」
「正直、驚いた。」
「だろ?」
「人にはどこかしら欠点があるもんだな。」
「うんうん」
カルティ達がシオンからの誘いを断った理由が今なら分かる。
シオンは顔立ちも良く綺麗でフランクな良い性格なんだが……飯の食べ方が雑だった。
ユズハは完璧な人間なんて居ないと実感する。
「おっす2人共~。」
「おう、ヴィネ。お前も朝飯か?」
「嫌味かお前。俺が今から食って試験に間に合うわけねーだろ。」
「自覚あるんだ。」
「言うねぇ、ユズハ。あ、そういや今年の受験者数が校舎前に張り出されてたぜ?100人だってよ」
王都両立育成学校は1クラス15人の計3クラス、生徒数45人が定員だ。
そして45人に満たない場合の処置として、補欠合格が認められているらしい。
「なんだよ、願書の説明欄に書いてあったろ?」
「ヴィネはこういとこあるんだよ。意外だろ?」
「っせーな!」
「ははっ!」
そんな他愛のない話をしてるうちに時間は過ぎ、実技試験開始時刻を迎えた――
「おはよう、皆。今回、実技試験総合担当官を務める、“ラナシャ・キルロード”です」
訓練場に集まった受験生達が騒めき立つ。
ラナシャ・キルロードといえば、行動阻害魔導師として名を馳せた冒険者階級・座天使の有名人だ。
冒険者は常に死と隣り合わせ。不測の事態に陥いることもある。
その足止め役として重宝されたのがトラッパーだ。
パーティーに居ると居ないとでは、生存率に大きな差がでる。
挨拶もそこそこに、実技試験の内容が説明された。それは20人1組になり、さらに10人ずつ西と東側に別れ団体戦による模擬戦だ。
個人の戦闘能力を見る為、対勝負が採用される。対勝負とは、例えば各チームの先鋒対先鋒、次鋒対次鋒と戦って行く形式の事だ。
勝敗は関係なく制限時間は3分間。その間にどれだけアピール出来るかがカギになる。
訓練場を奥へと進み、扉が開かれ運動場へ出ると、既に土魔法で作り出された簡易舞台が5つ用意されていた。
「えーっと、剣や格闘が得意な人、魔力、魔法に自信のある人がいると思いますが、この学校に入学する際は、皆さん総合科に進みます。
なので、剣術は剣術、魔導師は魔導師という分け方はしません。では、5列に並んでこの箱の中の玉を取ってね。」
受験生が順番に箱の中へ手を入れる。丸い玉を掴むと、剣、鎧、盾、弓、杖のシンボルが刻まれていた。
ユズハの玉には剣が刻まれていた。
「行き渡りました?では、各シンボル同士、20人1組に別れて整列してください。」
カルティやヴィネ、シオンと見事にバラバラになり、剣のシンボルは第一舞台に案内された。
説明通り東西に10人ずつ別れ、担当する試験官が配置に着き準備が整う。
「では、舞台側に備え付けてある武器棚で得意な物を選んでください」
剣の組は誰も1番手に名乗りを挙げなかった。
しかたなく、ユズハは武器を率先して取り行く。
何番に出ようと誰と当たろうと初見には変わりない。
木剣を手に取り舞台に上がる。
それを見て東側の奴も動き出す。
向かい合うは、同じく木剣を手にした男。
昨日、シオンから話を聞いたカズヤ・ヒイラギだった。
ヒイラギは木剣をくるくると手首を使い器用に回しながら舞台に上がる。
手首が柔らかいということは、剣の軌道を変化させる事に長けている証拠。
なるほど、シオンの清流のように流れる剣速に付いてこれるわけだ。
ユズハは警戒を強める。
ヒイラギを見据え、ユズハは木剣と体の芯が重なるように中段に構えを取る。
対するヒイラギは、木剣を頭上に持ち上段に構える。
中段に対し上段に構える。ユズハ、格下と見られているぞ。
順番待ちの間、カルティがこそりとユズハのいる舞台を覗いて呟いた。
クラウンズ家では“格上の相手に上段の構えは失礼に値する”と教えられており、逆を返せば格下故に上段に構えているとも取れる。
「それでは、始め!」
試験官の声を合図に、ヒイラギとユズハの対戦が始まる。
ご愛読ありがとうございます。
この作品に興味を持っていただいた方。
励みになりますので、いいね、評価、ブックマークのほどをよろしくお願いします。