49 旅立ち
シオンの決意を聞いた翌日の朝、正門前は生徒による人だかりが出来ていた。それは剣術大会優勝者がエクス王からの祝辞を受けるため、王都へ出発する日だからだ。
一年生、ドネア・フリュー、ローズ・エルダーベル。
二年生、アカシア・フェイクス。
二年生の大会は剣術部の参加者が満たず、今回は中止になり、魔導師部は僅か四人で準決勝から始まった。
二年生ともなると、冒険者になるための最終的な課題が多く、クリアするために余裕が無くなるみたいだ。
その中でも剣術大会に出場できるということは、かなり優秀な先輩が居たという事だろう。
「ユズハ、おはよう!」
「おはよう、シオン」
「そうだユズハ、二年生の優勝者が強いっていた?」
「噂程度だけど。強いの?」
「全試合、圧勝だって。しかも、“失法”を使うんだって」
失法。俺が受けている選択科目、魔法科の授業で聞いた事がある。現在では既に失われた言われる魔法だけど、約2300年前、魔導師の祖“リョウブ・バラキエル”が魔力を媒介とした属性付与を考案し、様々な角度、方向性を見出す為に使ったと言われる最古の魔法だ。
しかし、その裏で非人道的な人体実験を繰り返たとも言われ、特に“転移魔法”に関しては一子相伝であり、バラキエルの名を受け継ぐ後継者のみ伝授される。その歴史も200年前には潰え、現在、バラキエルの名を継ぐ者はなく、同時に転移魔法も失われていった。
チラリとアカシア・フェイクスを見て、まさかな……と思っていると、不意に目が合った。灰色の髪に切れ長な目、スラリとした体格に高身長。如何にも女生徒に人気のある風貌をしていた。
――冬季休暇初日、ミカさんとシオンが旅立つ日だ。
ギルド開店前の早朝、ミカさん達を見送りに来たのは、両親にラナシャさん、カグルマさんにヨハネイさんだ。二人の旅の期間は決まっておらず、気ままな旅になるなと、ミカさんは笑った。
「そうだユズハ。お前にこの修行ノートを渡しておく」
「修行ノート?」
「これは師匠、ユズハの本当の父親が私に書き残した物だ」
「え?そんな大事な物、良いんですか?」
「気にするな、内容は頭の中に全て入ってる。それに内容によっては、カグルマやラナシャさんの協力も必要になる」
擦りきれ、変色したノート。ミカさんはきっと、何度も何度も読み返したのだろう。
「ありがとうございます」
「あぁ、最初は上手くいかず失敗ばかりだろうが諦めるな?“百の失敗も一度の成功で全部チャラ”だ」
そう言って頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ユズハ!」
「シオンも気をつけてな?」
「うん。私、必ず強くなって帰ってくるから。その時は、絶対に真剣勝負しようね!」
「今度は約束を守るよ」
お互い固く握手を交わし、ゆっくりと擦り合わせるように離していく。この時ほど男らしくないと思ったことは無い。それほどシオンの手は温かく、いつまでも触れていたいと思うほど名残惜くなったからだ。
「じゃぁ、行くかシオン」
「はい!」
ギルドを後にする二人の後ろ姿が朝靄の中に消えていく。俺はその光景をぼんやりと見つめ、ただ立ち尽くしていた。
月曜日が怖い……
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