47 変わらぬ思い
学年別剣術大会の結果は、剣術部がドネア・フリュー、魔導師部はローズ・エルダーベリーの優勝で幕を閉じた。そしてここは王都にある医療施設の一室。ヴィネがベッドに横たわり、俺は傍の椅子に座っている。
容態は外傷よりも魔力で上げた身体強化による損傷が酷く、左腕、左足、右腕が完全に回復するまで、しばらく時間が掛かるみたいだ。それを聞いたヴィネは、翌日から頭をカリカリと搔く癖が付いたと笑って話した。
「ユズハ、次の実技訓練って何ヶ月後だっけ?」
「たしか冬期休暇後だから二ヶ月後だな。」
「それまでに治りゃぁ良いんだけどよ。」
「訓練内容はダンジョン探索、それに3クラス合同。ヴィネ達とパーティを組める可能性もあるんもんな。」
「そう、それ!あぁ、それまでに治んねーかなぁ。」
「とりあえず、安静にすることだな。」
「簡単に言うけど暇なんだよ。何か暇潰しできる遊びねーか?」
俺は魔力量の底上げを目的としたイメージトレーニングを提案した。方法は単純だ。額辺りに魔力の球をイメージし、一定の大きさに保ち止めるだけだ。手の平にイメージするより、額なら寝ころんでいても簡単に出来る。
「ヴィネ達の闘いを見て思ったんだ。これからは魔力も重要になってくるなって。」
「続くかどうか知らねーけど、思い出したらやってみるわ。」
その後も他愛もない話を続けて時間を潰していると、大柄で筋肉質の男とサラリとした黒髪の男がドアを開け入ってくる。ヴィネと本戦を共にした男達だ。
「おう、元気か?」
「カイウェンか、暑苦しい奴が来たな。」
「俺も邪魔するよ。」
「爽やか好青年のシージアも一緒か。暑苦しさがちょっとはマシになるな。」
室内が一気に明るくなる。幸い四人部屋で患者はヴィネ一人。大騒ぎしない限り注意される事も少ないだろう。
大会本戦の話やお互いの第一印象、戦闘時の心境など大会に参加した者しか知らない話題が多かった。
少し取り残された気分になり、羨ましく思うところもあったりして、なんとなく居づらくなった俺は、病室を出ようとする。
「悪りぃなユズハ。またな!」
「また来るよ。」
参加申請を出し忘れた俺が悪いと分かっているけど、やっぱり羨ましくて嫉妬心さえ芽生えてくる。
(剣で戦い語り合った戦友か……)俺は無意識に拳を握り締めていた。
――医療施設を後にし、学校の正門前に辿り着くと、校舎前にシオンの姿が視界に入った。こっちに気づくと駆け寄ってくる。
「ごめんユズハ。戻って来たところ悪いんだけど、中央公園に行かない?」
「いいよ。」
「ほんと、ごめんね!」
突然の誘いに驚いたけど、きっと何か話したいことがあるんだろうと思い、付き合うことにした。
何かに気を取られているように早足で進むシオン。歩幅を合わせていると、気がつけば公園の入り口が見えていた。
園内に入り、前に俺が誘った場所へと辿り着く。転落防止の手すりに両腕を乗せ、見下ろした景色は昼間だとまた違った景色に見える。
シオンの髪は少し冷たい風にふわりと揺られ、陽に照らされて神秘的な輝きを見せていた。
本当に綺麗な髪だ。
「なに?」
「いや……それより、何か話でもあるの?」
「……うん。実は学校を辞めようと思って。」
その言葉にほんの一瞬、心が締め付けられる。
「どうして?」
そう聞き返すと、シオンは手すりを背もたれにして、うつむきながら理由を教えてくれた。
思い立ったのは、予選を終えた次の日。気晴らしに王都の商業区を歩いていると、偶然ミカさんと出会った所から始まる。ミカさんは色々と買い込んでいて、不思議に思ったシオンは「そんなに買い込んで大きな依頼でも受けたんですか?」と尋ねた。
返って来た答えは「修行がてら自分探しの旅をしようと思ってね」だった。前々からシオンはミカさんから鍛錬を受けたいと思っていた事もあり、焦ったそうだ。その旨を伝えると「それならちゃんと準備してきな」と言われ現在に至る。
「知らなかったな。ミカさん、旅に出るのか。」
「うん。正直私は、このまま必死に鍛錬を続けてもクヌギには勝てない。それなら後悔のないように私の思う方法で、納得のいく成果を出したいと思ったんだ。」
「でも自由騎士をどうやって目指すんだ?」
「学校を受け直すよ。15歳以上でも入学は出来るから。」
「そっか……」
“ねぇ、行ってほしくない?”
手すりから背中を離し、ちょこんと前に飛び出すと振り向き様にシオンが問いかけた。真剣な眼差しを見て、最善の答えを探してみても全てが間違えに思えて言葉に出来なかった。
「いくじな……」
「行ってほしくない。」
「え?今、なん……」
「行ってほしくない。」
“これで終わりじゃない。でもこの瞬間に次は無い”と思った。
最善の答え?馬鹿らしい。彼女を気持ちよく送らせる為に、自分の気持ちを犠牲にするのはきっと間違ってる。だから迷うんだ。
それに彼女の意志は固い。どんなに綺麗な言葉を並べても変わる事は無い筈だ。なら俺の意志も同じだ。シオンが何を言おうと、この気持ちは変わらない。
「……ありがと、ユズハ。」
「うん。」
「私、強くなって帰って来るから。」
「待ってる。」
もしかしたら……。そんな淡い期待は見事に崩れ去ったけど、納得のいく答えでもあった。
仕事の休憩中にちょこちょこ書いているので、ペースが上がってます(笑)
基本的には不定期ですけどね……。
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