45 決勝戦
決勝戦の開始時刻が遅れるとアナウンスが流れる。理由は例年にはない盛り上がりを見せ、観覧者が殺到。普段なら100人にも満たない数が、一気に500人を超える状況に陥ったからだ。
思わぬ空き時間ができ、出場者の待合室で時間を持て余しているとシージアが入って来た。ドネアから受けたダメージが残っているのか、時より苦悶な表情を見せている。
「君と闘いたいと言っておきながらこのザマだ。悪かった。」
「謝んな、別に約束してねーだろ。」
「優しいな。」
「うるせー。」
さらにカイウェンまで入って来る。
「よう、露骨に嫌な顔すんなよ。」
「暑苦しいんだよ、その体格が。」
「筋肉美という言葉を知らねぇのか。」
「で?お前ら、何の用だよ。」
二人は顔を見合わせ、同時に俺を見据えた。
「俺達の分も頑張ってくれよな。」
「はっ?俺は熱い展開とか嫌いなんだよ。」
「いや、君はそう言うだけで、本当は強い芯を持った男だ。」
「気持ち悪いぞ、シージア。」
「とにかく……優勝しろよ、ヴィネ。」
「あぁ。」
――決勝戦。
「これより剣術部の決勝戦を行う!両者、礼!」
お互い一礼をし位置に着くと、ドネアは静かに剣を持ち上げ、上段に構える。その姿から放たれる威圧は、この大会の中の誰よりも強い。
対して俺は、自分の戦闘スタイルを活かせるように敢えて構えを取らず、ドネアを見据える。
「それでは……始めぇ!!」
試合を見る限り、初手から突っ込んで来ると思っていたが、ドネアは半時計回りに足を捌く。奴の出方を探るには俺もそれに合わせるしかない。
ジリジリとまるで渦の中心に引きずり込まれるような感覚に捉われた瞬間、ヒュッ――と風を切る音が聞こえた。
ドネアは回りながら巧みに間合いを詰め、得意な距離に俺を誘導し剣を振り下ろした。それを辛うじて受けたが勢いは止められず、自分の剣で頭を打つ。額からは墨糸のように一筋の血が流れ落ちる。
さらにギリギリと剣を押し込まれ、たまらず片膝を付く。
「この程度かよ、あぁ?ヴィネ!」
続けてドネアは右足を振り上げると、顔面に膝を打ち込まれる。その衝撃で飛ばされた俺は地面を舐めた。
剣を支えに起き上がると、待っていたかのように激しい剣撃が俺を襲った。一撃一撃に躊躇は無く、そして重い。防ぎ切れなくなった俺は胸を打ち抜かれ後ろへ吹っ飛ばされた。
「ははっ!こりゃ自慢できねぇわ!」
「……ベラベラと良く喋んな、てめぇ。」
早熟だの緩い鍛錬だの思っていた自分が恥ずかしくなった。俺より強い奴なんてドネア以外にもゴロゴロ居るんだろうな。ならここは、ドネア様に胸を借りるつもりでやってやろうじゃねーか。
俺は剣を膝で真っ二つに折り、両方の手に持った。幸い試合用の剣は刃が無く、握り手が無くてもあまり気にしなくていい。
両腕を肩幅ほどに広げ、二刀を中段に構える。クラウンズ家の剣術は基本を中心に教えているが、本流は二刀……ベインさんが最も得意とする剣術だ。
しかし俺には相当なダメージが残っている。受けて斬ってを長く続ける体力は少ない。それに素人目から見ても焼き付け刃なのは明らかだ。
「シッ!」
短く吐き出す息と共にドネアは間合いを詰める。剣を赤に染め、体を捻り回転力を乗せた袈裟斬りが襲い掛かる。
剣をクロスさせ、腰を落とし、地面に根を張る様に構え、それを受け止める。ズンッと重い衝撃が筋肉を無視して直接骨に響き流れる。
「はぁぁ!!」
魔力による身体強化。抑制しようとする脳とそれを振り切ろうとする意志の葛藤の末、俺はドネアの剣を大きく跳ね返す。その反動で既に左腕の感覚は無い。
大きく後退り、体勢を崩したドネアに最後の一撃、刺突を放つ。全体重を左足に乗せるように踏み込み、勢いのまま右腕を伸ばし、繰り出した渾身の突きは腹部を捉えるはずだった――。
届かない。
足りなかった。
剣の長さが。
魔力による身体強化で左腕、左足、右腕。それらの部位の感覚はすべて失われていた。踏ん張れば右足さえも壊れてしまう。倒れ際ドネアを見ると、その顔は蒼白し焦りと恐怖を感じさせていた。
審判が俺に近づき、勝敗を決する合図を送る。
「勝者、ドネア・フリュー!!」
大きな歓声が沸き立ち鳴り響いたが、ドネアはそれに応える事も無く、ただ俺を見下ろしていた。
別にきっかけがあったワケじゃないのに、ふと「あの頃は情けなかったなぁ」と昔の自分を思い出す時があります。こういう時は大抵、今の自分より昔の自分の方が酷かったんだぜ?って意志とは別に心が励ましてくれているかも知れません。
もしかして、これが人の強さか……?
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