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44 ドネア・フリュー

 試合後、俺は医務室に誘導され傷の度合いを調べられる。幸い大した傷にならず、瞼に止血剤が塗り込まれたガーゼを貼られただけだった。

 医務室を出ると待っていたかのように、また男が話し掛けて来る。ピッシリと分けた黒髪に小綺麗な制服。


 コイツは同じクラスのヒメア・セルペンス。自己紹介の時、王都の貴族だとか言ってたな。爵位は男爵だったか。


「ヴィネ君、ちょっといいかな?」

「なんか用かよ。」

「僕との試合、これで棄権してくれないかな。」


 そう言って10万リーフを差し出し握らせる。なるほど、小綺麗な理由がわかった。たしか俺の次の試合がコイツだったはずだ。その試合もこうして相手に金を握らせ、棄権させたんだろう。


「君には大金だろう?このお金で親孝行でもしなよ。」

「悪ぃな、俺にはもう親孝行できる親はいねぇんだ。試合、楽しみにしてるぜ?ヒメア。」

「ま、待て!本当に要らないのか?!」

「なら、この金でお前との闘いを買う。文句ねーだろ。」


 握らされた10万リーフを手放すと、紙幣はヒラヒラと地面に落ちる。それを必死にかき集めるヒメアを見て、なぜ、そこまで勝ちに拘るのか疑問に思ったが、すぐに答えが出た。

 それは爵位の関係だ。序列は男爵(だんしゃく)から始まり、子爵(ししゃく)伯爵(はくしゃく)侯爵(こうしゃく)公爵(こうしゃく)の5段階。

 男爵は子々孫々(ししそんそん)、つまり世襲を許されない地位の為、築き上げた財産を引き継がせるには子爵以上が絶対条件だ。

 この大会に優勝すれば、エクス王から直々のありがたい言葉を受けられ、セルペンスの名も少しはアピール出来る。多分、それが狙いだろう。


「どいてください!」


 出場者専用通路を一台の移動式担架が走る。運ばれた男を見ると、右腕と足首がヤバい方向に折れ曲がり、気を失っているようだった。

 その後ろを何事もなかったかのように歩く男が続く。黒髪を後ろに束ねた体格の良い褐色の男だ。その男は目の前でピタリと止まり、俺を睨みつける。


「お前みたいな骨のある男がいて良かったぜ。」

「誉めても棄権しないぜ?」

「何の話だ。」


 男は少し苛ついたように言葉を強めた。骨のある男か……コイツが言うとあながち間違ってはいない。この大会を通して俺が気になったのは、目の前にいる男“ドネア・フリュー”だけだ。


「まぁいい。お互い早く終わらせて決勝で会おうぜ。」

「お前が上がって来れたらな。」



 ――準決勝・第一試合。ドネアの圧倒的な勝利で幕が下りた。


 ドネアは開始の合図と同時に素早く踏み込み、横一文字に剣を振り抜く。その斬撃はシージアの右脇腹を打ち抜き、崩れ落ちたまま動くことはなかった。一瞬で意識を断ち切る強烈な一撃は観覧者達も言葉を失っている。


 やがて静けさは歓声に変わり、ドネアを称賛した。


 シージアを乗せた移動式担架は、慌ただしく通路を走る。そして以前と同じように何事もなかったように後ろを歩くドネアは、すれ違い様に俺の肩をポンと叩き「さぁ、次はお前の番だ。」と呟いた――。


 しばらくして舞台の整備が終わり、前試合の興奮が冷めやらぬ中、俺とヒメアは闘技場へと上がる。おぼつかない足取りでヒメアは位置に着くと、中段に剣を構えた。

 対して俺は左足を前に出し、剣を右脇腹辺りに降ろした下段の構えを取る。ジリジリと熱する会場の空気を肌で感じながら、お互い試合の合図を待つ。


「準決勝、第二試合……始めぇ!」


 俺は左足で地面を蹴り、間合いを詰める。そして剣を握るヒメアの手首を狙い、右下から左上へと逆袈裟を放つ。剣を上空に弾かれ、為す術もなくなったヒメアに、逆袈裟から返した袈裟斬りを右肩へ打ち込む。


「ぎぃあ!参りましたぁ!!」


 ある意味、観覧者達も言葉を失っただろう。ヒメアの上げた悲鳴は不思議と良く通ったからだ。やがて観覧席のあちこちで笑い声が聞こえ出す。俺はそれを気にせず、ヒメアに手を差し伸べる。


「諦めんの早過ぎだろ。」

「……。」


 そして笑い声を遮る様に拍手の音が響く。ユズハ、シオン、カルティ、カズヤ、それにリュリまでもが俺達に拍手を送ってくれる。


「無理に応えなくていい、でも一礼ぐらいはしろ。」

「わ、わかった。」


 拍手の理由。多分、気づいているのはユズハ達ぐらいだろう。おぼつかない足取りで位置に着いたにも関わらず、剣を構えた瞬間、精神を統一したかのように落ち着いた事。そして良く通る声。


 “ヒメアは上に立つ人間としての可能性を秘めている”


 通路に戻ってくると、腕を組みながら壁にもたれ掛かっているドネアが話しかけてきた。


「お互い、弱い奴に勝っても自慢にならいな、ヴィネ。」

「そうだな、お前に勝っても自慢しねーよ。」


 平静を装ってはいるが、組んだ腕が小刻みに震えている。所詮、俺らは15そこらのガキだ、安い挑発にも乗るだろう。でもな、戦いはもう始まってんだよ。

いつも目を通して頂き、ありがとうございます!急遽、休みになったので投稿しました。


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