43 学年別剣術大会・本戦
本戦を前日に控えた朝、俺はあくびをしながら軽いストレッチを始める。昨夜のユズハとの模擬戦で固まった筋肉をほぐす為だ。
一通り終わらせると、次は朝飯を食いに食堂へ向かう。食堂には朝と昼に安く飯が食えるタイムサービスがある。
寮生は一年間、無料で利用出来るが、二年目からは自腹だ。その為に二年生は、冒険者ギルドからの学生専用依頼書を受け、日銭を稼ぐ事になる。
扉を開け中に入ると、一人の男が目に入る。その男は灰色の髪が特徴的だった。一年生の中では見ない男だ。多分、二年生だろう。
――朝飯を食い終わると、そのまま訓練場を目指す。既に扉の前から木剣がぶつかり合う音が響いていた。
俺は自動人形が設置されている部屋に入り、6段階ある戦闘レベルを4に設定する。これは冒険者階級にすると、権天使程の強さだ。
“早熟”
薄々だが、今の俺は肉体的にも精神的にも成長のピークを向かえている感覚があった。そして確信が持てたのは、ユズハとの模擬戦だ。
予選でシオンの白蛇閃を躱した時は、反応のままに体が動いたが、同じような状況になった模擬戦では、明らかに思い通りに体を動かせた。
この成長期に緩い鍛練をし続けても身になるものなのか?と疑問が何度も浮かび上がる。
次々と打ち込んでくる自動人形の攻撃も最初は受けていたが、いつの間にか体捌きだけで躱すようになっていた。
――そして本戦当日。ユズハらの声援を受けて闘技場へと上がる。
周りを見渡すと、2万人集客出来る観覧席に数百人の観客が目に入った。その中にカズヤとリュリ・ラグラスの姿をもある。
(目立ちたくねぇのは分かるが……)
リュリの格好は黒いフードローブで全身を包んだ、まさに悪い意味で記憶に残る格好だった。
しばらくすると、本戦の規則が説明される。予選とは違い、勝敗は戦意喪失、気絶や骨折などの戦闘不能、または審判の判断で決まる。
使用する武器も限界値のある物だが、自壊しても失格にはならない。要は精魂尽き果てるまで闘えって事だ。
規則の説明も終わり、試合の用意が始まった。魔障壁がドーム状に展開され、入場口を除いて闘技場を包む。
「これより、学年別剣術大会の本戦を始める!一戦限りのトーナメント方式だ。後先考えず、全力をだせ!」
(なんともベインさんらしい言葉だな。)
少ないながらも、それなりの歓声を浴び一試合目が始まった。
俺の出番はこの次だ。それまで出場者専用通路の壁に身を預け、試合を眺めていると一人の男が声を掛けてきた。
「お前がヴィネ・アザレアか?」
「あぁ。」
「なら、お前が俺の相手か。」
金色の髪を短く刈り上げ、大柄で筋肉の塊のような男は、“ザクロス・カイウェン”と名乗った。聞きもしないのにベラベラと自分の実力をアピールしてくる鬱陶しい奴だ。
「おい、聞いてるのか?」
「要は強いんだろ?」
「おうよ。なんなら手加減してやろうか?」
「言ってろ。」
血管を浮かび上がらせ、怒りを露にするカイウェンを横目に、闘技場に目を向けようとした時、観覧者が沸き立つ。
一試合目の勝敗が決まったのだろう。確認すると、勝者は予選で闘ったシージア・リュエル。ダメージも少なく、ほぼ万全の状態で準決勝に上がってくるようだ。
「勝ち上がって来いよ、君とはもう一度闘いたいからな。」闘技場を降りてきたシージアが、すれ違い様にそう呟く。
「これより二試合目を始める!両者前へ!!」
通路の出口に向かう最中、ドンッと肩をぶつけカイウェンが俺の前に出る。覚悟しとけよ?と言わんばかりの顔を見せ、闘技場に上がって行く。
「互いに礼!それでは始め!」
中段に構えカイウェンを見据えると、改めて体躯のデカさを思い知る。カイウェンの右手に持った剣が、まるで小剣のように見えたからだ。
「おいおい、試合用の剣ってそんなに短かったかよ。」
「行くぞ!オラァ!!」
カイウェンは怒号を発し、大きく振りかぶると、まるで投げ付けるかのように剣を振り下ろす。
こんなもの受けるまでもなく、後ろへ下がり躱すと、剣は地面を叩き、悲鳴のような金属音を響かせ破片が宙に舞う。
そしてカイウェンは狙っていたかのように左拳を繰り出し、その破片に当て弾き飛ばした。
俺は咄嗟に両腕をクロスし防いだが、破片は左腕と瞼、右頬を掠め切る。瞼の血が視界を遮る様にジワリと流れ、死角を作り上げた。
勝ち誇ったようにニヤニヤと笑うカイウェン。破片を弾き飛ばした拳を見ると、薄い魔力で覆っているのか無傷だった。
(そういことか……コイツの本職は格闘か。)
ゴツンッと死角から飛んでくる拳が脇腹を打つ。こん棒で殴られたような衝撃が走ったが腰を捻り少し逃がす。死角を狙うのは常套手段、ある程度予測できる。
(はっ!……上等。)
試合を長引かせる気は無い。俺は右腕をだらんと落とし、剣を地面に着ける。流石は天武が行われる闘技場だ、地盤が固い。
“でもな、お前が叩きつけた地面はどうだろうな?”
狂ったように剣を振り回しカイウェンを下がらせる。今度はバカにしたような顔で俺を見ているが、“狙い通り行けばてめぇは終わりだ”
ガリガリと剣を滑らせ、カイウェンが叩きつけた地面に散らばった砂利を狙い、すくい上げるように一気に振り上げる。
砂利はカイウェンの視界を奪い後退りさせる。筋肉を自慢するような奴だ。速度重視の軽い剣では大したダメージは受けないだろう。
俺はカイウェンに身体を預け、顎を狙い左肘でコンパクトに打ち抜いた。まさか選択科目の武法科がこんな所で役に立つとは思いもしなかったが……。
脳を揺らされたカイウェンは、フラフラと彷徨うように歩き、ペタンと膝を付き前のめりに倒れた。その様子を見て審判が危険と判断し、試合を止め俺を勝者とするように指を差す。
「あぁ、そういや居たな。てめぇみたいな奴。」
武法科でひと際目立つ金髪の男が居た事を今さら思い出していた。
不安定な天気が続きますね。熱、雨、蒸と体調を崩すきっかけがそこら中にありますので、
気をつけてください。
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