42 予選終了
「残念だったなリノ。」
「ユズハに良い所見せたかったんだけどね。それより、もうすぐライアの試合が始まるよ?」
そう言って少し伏し目がちになるリノを見て、今は一人になりたいのだろうと思った。
「じゃぁ、ちょっと行ってくる。」
「うん。」
――ライアが出る闘技場に辿り着くと、ヤシラ・マルキスがこっちに気づいて手を振る。俺も手を振り返し駆け寄った。
「おっす、リノはどうだった?」
「負けた。相手が悪かったかもな。」
マルキスは対戦表を広げ、リノの相手を確認する。
「ローズ・エルダーベリー……確かに相手が悪かったな。」
「有名なのか?」
「そこそこ。騎士国家スキュラの出身で、両親は現役の魔導騎士なんだよ。」
「良く知ってるな、もしかして知り合いか?」
「面識はないけど、俺もスキュラ出身だからな。名前ぐらい聞いた事あるぜ。」
マルキスの話しによれば、エルダーベリー家は代々、剣と魔法を融合させた騎士、魔導騎士を何人も輩出している名家だそうだ。その中でローズは珍しく魔法に特化し、特別に魔導師としての訓練を受けて現在に至っている。
「そういえば、スキュラは自由騎士を認めないんだろ?」
「そうなんだよ、正直、今のスキュラは腐ってるからな。特に国王側近の騎士、クヌギ・アザミは。」
「そんなに酷いのか……。」
「ここだけの話、現国王はクヌギの傀儡だ。」
不敬罪に値する言葉を連発するマルキスに、俺は口を閉じるようジェスチャーをする。その意図に気づいたのか、マルキスは手で口を閉じ苦笑いをした。
「おっ?ライアの試合が始まるな。」
「見た感じ、いつも通りだな。」
ライアは緊張した様子もなく闘技場に立ち、手にした杖の確認をしている。
ライア・ハートシード。天都カゲロウに生まれ、両親は現役の冒険者だ。特に母親は豪胆な人で、赤ちゃんだったライアを抱いてダンジョン内を散策していたらしい。その性格を受け継いだのか、魔法の授業では単純で大胆な火の魔法を好み、いつも驚かせされる。
いったい、どんな闘いを見せてくれるのか楽しみだ。
「では、第二試合……始め!」
ライアはいきなり火球を三つ作り出し同時に放つ。相手は魔法障壁で防ぐが、火球は次々と放たれる。やがて魔法障壁が追い付かなくなり被弾し始めると、点数を瞬く間に0点にしてしまった。
「見たか?マルキス。」
「あぁ、ライアって強いんだな。」
その後の試合も圧倒的物量で相手をねじ伏せたライアは本戦出場を決めた。しかしリノは、初戦の敗戦が後を引き、実力を出しきれず予選敗退となった。
こうして、全ての予選が終わり2日後に本戦が始まる。
――その日の夜、俺はヴィネとライアに感化され眠りにつけず訓練場へと足を運ぶ。静けさの中、素振りを始めると自分の振るう剣の音が訓練場全体に響き渡る。
「二百…!っと。」
素振りを1セット終える頃、バタンと訓練場のドアが開く。中に入ってきたのはヴィネだった。
「部屋に居ねぇなと思ったら、やっぱりここに居たか。」
「ヴィネこそどうしたんだ?こんな夜更けに。」
「なんとなく眠れなくてな。まぁ、ちょうどイイや。一戦しようぜ?」
「別に構わないけど……。」
俺達は訓練場の一角にある模擬専用の舞台に立ち、木剣を構える。初めて剣を交えた時は負けたが、夏期休暇を挟み少しは実力が上がっているはずだ。
「じゃぁ、行くぜ?ユズハ。」
ヴィネが勢いよく踏み込み、高く上げた木剣を高速で振り下ろす。俺はヴィネの持ち味であるスピードを殺すように、どっしりと腰を落ち着かせ、迫る木剣を真正面から受ける。
このまま鍔迫り合いをするつもりはない。重心を前に傾け撥ねのけると、後ろに下がったヴィネとの間に僅かな空間が出来た。
ショートレンジから俺は逆袈裟、ヴィネは袈裟斬りを放つ。点と線が上手く繋がった感覚があり、ぶつかり合った瞬間、ヴィネの木剣を上へと大きく弾く。
その反動で胴体ががら空きになった。俺はすかさず肘を畳み、刺突を繰り出す。捉えたと思ったが、ヴィネは背を向ける様に体をぐるりと回転し剣先を躱すと、そのまま後ろ回し斬りを放つ。
そしてヴィネの木剣は、こめかみの数センチ手前で止まった。
「……また負けた。」
「そうでもねぇよ、ユズハ。」
ヴィネは自分の腹部辺りを指さす。そこに視線を合わすと衣服が破れ、肌に赤い痣が見える。どうやら微かに触れていたみたいだ。
「あ~、緊張感のあるイイ汗かいた。」
「俺はまだまだなぁ。」
「そんな事ねぇよ、明らかに強くなってるぜ。」
「だと良いけど。」
「……やっぱ俺は早熟タイプみたいだな。」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもねぇ。汗流して寝るわ。」
「了解、俺もそうするよ。」
結局、なぜヴィネが俺の部屋を訪ねたか分からずじまいだった。でも最後までその理由を明かさなかったという事は、剣を交えたことで解決したのかも知れない。
今年はお盆休みが無く、ハードな日々が続きます……。




