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41 リンネの危険性

 リンネの試合結果を目の当たりにして、俺は思わず飛び出した。偶然にもドウダン家は王権派。その子息の下半身を不能なまでに焼き尽くしたのだから、このままだとリンネは王権派に狙われるだけでなく、“危険人物”として抹殺される可能性も増えてしまう。


「おい!リンネ!!」

「あれ、ガズヤ?」

「今すぐ相手の足を治せ!」

「え、どうして?」

「あの足じゃもう一生歩けない!リンネは相手の人生の一部を奪ったんだ!」

「そ、大袈裟じゃない?」

「自覚しろ!リンネには……」


 その時、観覧者の数人がリンネの勝利を称える言葉を大声で発した。まるで罪悪感に気づき始めたリンネを阻害するように。


(タイミングが良すぎる。)声の方に視線を向けると、見知った顔が並んでいた。そいつらは教皇派の信徒達だ。そして声を聞いたリンネの顔からさっきまでの少し思いつめたような面影が消え、細く微笑むような顔が覗く。


「リンネ!いいから治せ!」

「歓声が聞こえないの?私は間違った事してないよ。」

「勝利した相手に慈悲を与えるんだ。そうすればリンネの評価は勝利以上のものになる。」

「……そっか、良いこと言うねカズヤ!」


 この行為はリンネの心理を増長させる結果にしかならないと気づいていた。だとしても、相手の人生を不自由なものにするよりマシだ。治療を終え戻ってくるリンネに更なる称賛の声が響き渡る。予選でこの歓声は明らかに不自然だ。


(あそこにいる殆どが教皇の信徒かよ……!)


「静粛に!先程の戦闘はリンネ・ヒラドによる危険行為と判断し、当人を失格処分とする!」


 闘技場全体にベインさんの声が響き渡る。どよめく観覧者達だが真っ当な判断だ。言葉は悪いが剣術大会といっても学園内だけの祭りのような大会だ。そんな場所で命や生涯に関わる事故など出したくはないだろう。


(助かったよ、ベインさん。)胸を撫で下ろしリンネの様子を伺うと、意外にも納得しているように見えた。


「リンネ?」

「危険行為か。ふふ、半分以下の魔力で危険だなんて私の強さを良く分かってるみたいだね。」


 そこには、俺の知らない笑顔を見せるリンネが居た。



 ――さっきの騒動が原因で一時中断されていた予選が再開する。俺はリノが動揺していないか心配になり声を掛けに行く。


「リノ、落ち着いて行けよ!」

「うん、ありがとうユズハ。」


 リノ・クインス。王都の商業地区に構える小さな魔道具屋の娘だ。早くに両親を亡くし、祖父母に育てられてきた。

 元魔導師の祖母の影響で早々に魔法に興味を持ち、祖母の指導の下鍛錬を積んできたそうだ。

 リノの特筆すべきは魔力量は少ないものの、魔力コントロールに長けていて、今まで魔力が枯渇した経験がないと話してくれた。それなら、この大会に使用される杖との相性も良さそうだ。


「第一試合、始め!」


 魔導師の戦闘は、魔力の集束、練度、属性変換が重要とされていて、この一連の流れが戦況を左右する。

 その為に魔導師を目指す者は、常に体に流れる魔力をイメージをし、どこに集束させるのかを思考しながら戦う。

 特に近接魔導師は集束場所を拳や肘、膝など瞬時に判断し攻撃に転じさせる技量が必要らしい。



 ――(風斬りを魔法障壁で防ぐだけなの?)


 魔力の枯渇を狙っているのか相手からの反撃は無く防御に徹している。このまま初速重視の魔法を放っていても、埒が明きそうにない。


(少し時間が掛かるけど“空破(くうは)”で障壁を破る!)


 空破は風圧を圧縮し放つ風魔法だ。その威力は上級者になれば、分厚い鉄板を凹ませるほどの威力を持つ。今の私にそれ程の威力は出せないが、障壁を破るには十分だと思った。でも、空破を放つには練度に時間が掛かる。

 

 杖の先に粗らしく魔力を集束させ、それを落ち着かせるように研ぎ澄まし練り始める。しかし、相手は私の行動を待っていたかのように反撃に出る。杖をくるりと右に回転させると目視できる程の稲光が水晶を包み、赤色へと変化する。


(いかずち)属性?!)


 私に襲い掛かったのは雷魔法の“雷棕櫚(らいしゅろ)”。雷撃を帯びた縄が対象を捉え電流を流し続ける阻害魔法の一種だ。それを受けた者は動けなくなり、さらに体力を徐々に奪っていく。


 空破を放つために出来た隙を突かれ、雷棕櫚が右足に絡みつく。そこから一気に電流が全身を走り、黒いローブに設けられた点数が減って行く。その速度は0点になるまで、それほど時間を要する事は無かった。


「勝者、ローズ・エルダーベリー!」


(ローズ・エルダーベリー……。)聞いた事もない名前だった。でも、雷属性ということは、どこかの貴族、それも有名な魔導師家かも知れないな。


「危なかったわ。まさか空破を放つ準備をするんだもん。」そう言ってスッと手を差し伸べてくれる。

「ありがとう。」私は手を握り返し体を預ける様に起き上がる。


「アタシはローズ・エルダーベリー。ローズでいいよ。」

「リノ……リノ・クインス、リノって呼んで。」

「了解。じゃぁリノ、強かったよ!」

「ははっ、ありがとう。」



 なんて嫌味の無い清々しい声なんだろう。私はこの瞬間、彼女の魅力に引き込まれた気がした。

早いもので40部を超える作品になりました。文庫本の文字数が一冊大体10万字ぐらいと聞いていたので、もうすぐ達成できそうです。そして、これからも色々と詰め込んでいきますので、引き続きよろしくお願いします!

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