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37 決意

「あの殺気の中、よく動けたね。」

「あぁ、ミカさんの?あれは、一度経験してるからだよ。」


 私はまだ先の事だと高を括っていた。死を身近に感じるという事を。


 幼少の頃の剣の相手は、父であり、兄だった。やがて打ち負かすようになり、鍛練の必要性、強くなっていく楽しさを知ったけど、それは命を奪われない環境の中での話。死を意識して鍛錬をするなんて考えもしなかった。


 その点では、きっとユズハに劣る。このままではクヌギ・アザミには勝てない。


「また、あの時と同じ顔してる。」

「え……っと、そう?」

「うん。」

「なんかさ、今まで安全な場所に居たんだなぁって。」

「あの殺気で、そう思った?」

「うん。ねぇ、ミカさんの元で鍛錬したらユズハみたいに動ける?」

「どうだろ。俺も入学試験前に初めて受けた殺気だったからな。」

「そうなんだ。」

「あと、退屈かも知れない。」

「どうして?」

「身体作りの基礎鍛錬、魔力維持とコントロールを毎日続けるだけだからなぁ。ミカさんの方針は。」


 ユズハはそれを10年間続けていると言った。体幹が鍛えられてるのも頷ける。


「一度、お願いしてみる!」

「わかった。俺からも頼んでみるよ。」



 ――――「悪いねカズヤ、面倒見てもらって。」


 酔い潰れたリュリの面倒をカズヤに頼んだ。これじゃ、どっちがお目付け役か分からないな。


「すみません、リュリがご迷惑をお掛けして。」

「いや、私も調子に乗って、飲ませたのが悪かったよ。」

「いいですよ。俺もこんなリュリを見るの、初めてですから。きっとミカさんの事が大好きなんでしょうね。」

「その割には腕を失くした時、見舞いも来なかったぞ?」

「それは多分、俺が原因です。その頃は俺もリュリを困らせていたから。」


 この物腰の柔らかさ、本当に15歳か?と疑いたくなる。


「リュリは俺が見てますから、ミカさんも楽しんでください。」

「そうか?じゃぁ、お言葉に甘えて。」


 海の家を後にし砂浜に出ると、いつの間にか日が暮れ始めていた。どうやら私にとっての思い出作りは、リュリの泥酔した姿だけになったみたいだ。


(それもまぁ……いいか。)


 私はある決意を胸に抱いている。それは“前世の記憶を辿る旅”をすること。ミカズチという前世の人物がどんな道を歩んだのか、記憶で分かってはいるけれど、実際に経験してみたいとあの日からずっと思っていたからだ。


(長い旅になるだろうな。その間、ユズハの鍛錬には付き合えないけど、あのノートを渡す良い機会かも知れない。)


 師匠がリラさんと私に作ってくれた修行ノート。師匠曰く、元の世界で話題になった“ビーなんとかセイバー”を見て思い付いたとか言っていたな。ふっ、私には謎だらけで理解できなかったが。


 ふと前を見ると、男女三人が歩いていた。夕日がそうさせるのか、知らずに師匠とリラさん、そして私を重ねてしまう。言葉に出来ない程の寂しさが襲い、無意識に涙が頬を伝う。


()()()()……リラさん……!)


 私は急いで岩陰を探す。きっとこの涙は()()()()



 ――――「カルティ君!」


 夕暮れの砂浜をヴィネと歩いていると、後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには、ミスティ・シネラリアがいた。


「こんな所で会うなんで、凄い偶然だね!」

「本当にな。」

「あー、俺は邪魔っぽいな。カルティ、少し話してこいよ。」


 ヴィネはそう言って、来た道を帰って行く。気を遣わせてしまったが、俺もクランについて話をしたかった事もあり、一声掛けて見送った。


「邪魔しちゃったかな?」

「大丈夫。」


 ミスティは家族でスイレン海水浴場に来ていると言った。一人、砂浜を歩いていた理由は特にないらしい。


「カルティ君、雰囲気が変わったね。」

「そうか?」

「うん。垢抜けたというか、明るくなった気がする。」

「あぁ、そうかもな。」


 俺達は肩を並べて、しばらく砂浜をを歩く。ここに来た経緯等、他愛もない話をしながら。


「そうだ、クランの話しだけど……。」

「俺もクランについて、少し話したかったんだ。」


 彼女の話しはクラン設立時のメリット、デメリットに関する事だった。メリットは回服薬などの依頼に必要な支給品の提供だ。これは冒険者ギルドの負担、もしくは国の援助を必要とするかも知れない。

 デメリットは、公共の依頼のみとして線引きをし、未達成の場合、支給品の全額返済を考えているそうだ。


 俺はクランの優劣を明確にする、クラン階級と依頼達成時の評価について説明する。評価によりクラン階級が上がる事、同時に依頼主との信頼関係の向上を目的とする事だ。これにより依頼者側は、信頼の置けるクランを指名する事も出来る。


「ある程度の骨組みをまとめて、一度ギルドに掛け合ってみようと思うんだ。」

「それなら、俺の伯父とユズハのご両親に見せてみるよ。特にユズハのご両親はギルドを経営してるからな。」

「たしかに!よし、私達で今のギルドの在り方を変えてやろう!」


 一段落ついて肩の力が抜けたのか、俺達はその後も砂浜を歩き、また学校でと別れを告げた。



 ――――「おや?あそこにいるのはユズハとシオンか。」


 一泊する宿に戻ろうとした俺は二人を発見する。まったく、カルティらといい、ユズハらといい、青春してやがんな。……まっ、今回は邪魔せずそっとしておこう。



 ――――宿に戻り食事を済ませた後、俺達は夜になるのを待ち、全員で再び浜辺に出る。そしてミカさんが師匠から教えて貰ったという“装飾魔法”で光を放ち弾ける魔力を連発する。夜空に浮かび弾けるその光は、俺達をしばらく照らし続けた。

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