35 挑発
「おーい、フヨウ!ベインさん!」
「おう、来たなミカ!」
「ようこそ、ユリノキ様。」
私は二人と拳を突き合わせ、再会を喜んだ。ベインさんと最後に会ったのは、14年ほど前だったか。
確か、冒険者引退記念をした年だ。まだ小さかったユズハの相手もしてくれていたな。
「お久しぶりです、おじさん。」
「シオンも居たのか、奇妙な組み合わせだな。」
「初めまして、ユズハ・アイオリアです。」
「おぉ、ユズハも来ていたのか。」
「僕を知っているんですか?」
「ユズハは覚えてないかも知れないが、何度か遊んでもらってたんだぞ?」
「それに、甥とヴィネからの手紙にも書いてあったからな。」
フヨウに案内され、屋敷の中へと案内される。客間に通され、しばらくすると、冷たい飲み物が用意された。
「フヨウも元気だった?」
「おかげさまで、ミカは大変だったね。」
「腕の事か?ははっ!気にするな。」
フヨウは元冒険者ギルドの受付嬢で、天都カゲロウに来た時は、よくお世話になった人物だ。
「彼氏はまだ冒険者を?」
「そうなの。私としては、危険だから辞めてほしいんだけどね。」
普段の言葉使いと違うフヨウを見て、シオンはポカンとした顔をしていた。まぁ、固いイメージが強いのも分かるが、彼女も一般的な女性だ。もちろん、可愛らしい所もある。
「そういえば、リュリさんも来てるんですよ?」
「えっ!十熾天剣の?!」
シオンが突然、大声を出す。ユズハからも私とリュリに憧れを抱いていると聞いていたし、無理もないだろう。それに、リュリからしたらベインさんは剣の先生だ。ここにいても不思議ではない。
「この時間なら、訓練場に居ると思うけど……。」
「そうだ二人共、訓練場に行ってくるか?」
「なら、私が案内するわ。」
フヨウ達が客間を出てしばらくすると、ベインさんが入ってきた。実はここに来た理由が二つある。一つはユズハ達に訓練場を使わせて欲しいというお願い。
もう一つは、私やユズハが遭遇した現象について、天都カゲロウ周辺に似たような事が起きているかの確認だ。
――――「ぐっ……、痛ってーなっ!クソ!!」
訓練場の扉を開け中に入ると、尻もちを付いたヴィネと剣に体を預けて息を切らしているカルティの姿が目に入った。
「どういう状況だ?」
「ユズハ見て、あの男!」
「カズヤ・ヒイラギ?!」
ちょうど模擬刀を鞘に納め、前髪をかき上げた男は、カズヤ・ヒイラギだった。そして一目で分かる。ヒイラギに二人共倒されたのだと。
「はぁ、はぁ、ようユズハ。約束通り来たな。」
「カルティ、これはいったい……。」
カルティから経緯を聞いている間に、シオンが模擬刀を手にしてヒイラギの前に立ちはだかる。それに気づいたヒイラギもまた、再度模擬刀を抜く。
下段の構えから先に仕掛けたのはシオンだ。地を滑らせるように、右から左へ一閃を放つ。それをジャンプして躱すのを確認すると、模擬刀を素早く身に寄せ、着地するタイミングを見計らって刺突を繰り出す。
ヒイラギはそれを模擬刀の“身幅”で受けると半回転させ右に逸らす。力を流されたシオンは勢い余って前のめりになり、その隙にヒイラギは首の上に模擬刀を振り下ろし、数十センチ上の辺りでピタリと止める。
「おいおい、シオンでもこの有様かよ。」
唖然としていたシオンは、ヴィネの言葉で我に返る。模擬刀を引きスッと距離を空けるヒイラギに一礼をして、こっちに戻ってくる。
「次、ユズハの番ね。」そう呟くと悔しそうに勢いよく背中を叩かれる。確かに、友達がやられて黙っていられるほど穏やかじゃない。シオンから模擬刀を受け取り、ヒイラギの元へ向かう。
「君は、アイオリア君だよね。」
「模擬試験依頼かな、ヒイラギ君。」
「カズヤでも良いよ?」
「なら、俺もアイオリアで良い。」
俺は左肩を前に出し、少し左足を斜めに出す。そして極力斬撃の出処を隠すよう刀身を寝かせ右腰に近づける。間合いを長く取り、右手を柄の縁に、左手で頭を握る。
「その距離で、俺まで届くのかな?」
「試そうっ……か!」
左足で地面を蹴り、左足で踏み込む。同時に身体を開き、半身にさせて右から左へ薙ぎ払う。半身にさせた分、一気にカズヤとの距離が縮まり剣先が伸びる。それに反応したカズヤは仰け反り躱し、跳ねる様に二歩、三歩と後ろに下がる。
これでどの間合いからでも、攻撃が飛んでくると刷り込ませたはずだ。そして同じ構えをすると、きっとカズヤは間合いを潰しにくる。
予想通りカズヤは大きく踏み込み、距離を詰めると豪快な袈裟斬りを放つ。踏み込みの速さ、距離、剣速。“受けるしかない”まるで閃いたかのように、その選択しか思い浮かばなかった。
不快な金属音が辺りに鳴り響き、ガリガリと互いの模擬刀が滑り鍔で止まる。顔を見合わせると、カズヤがぼそりと呟く。
「模擬戦で見せた“剣がすり抜ける技”、見たいなぁ。」
打ってこいと言わんばかりにカズヤは自ら身を引く。俺には絶好の間合いになったが、逆に間合いを把握されているという事だ。
「後悔するなよ。」その挑発を致命的な隙に変えてやる。
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