33 剣士として
「こんばんは、ミカさん。」
「おう。シオンもこんばんは。」
「こんばんは。あの、どうして止めるんですか?」
私は簡単な討伐依頼を達成しギルドに戻った。エギル達に「ユズハとシオンが訓練場に向かった。」と聞き、暇つぶしに足を運ぶ。そこで目にしたものは、シオンが素振りをしている姿だった。
柔らかな関節を使い、清流のように振り下ろされる剣は、私でさえ魅了させるほど。その素振りがユズハの素振り方法を行った途端、醜いものになった。
その原因は、教えられた者とそうでない者の差だ。シオンは他者に原型を教えてもらい、それを繰り返し身に付けていったが、ユズハには基礎鍛練以外、素振りはおろか、型や足運びさえ教えていない。今の強さがあるのは、その全てをユズハ自身が考え実戦し繰り返してきた、いわば“自己流”。
それに素振りは目的を持って繰り返すもの。肩や上半身を鍛える素振りもあれば、足腰を使い実践的な素振りもある。シオンにはその正しい方法が、しっかりと身体に沁みついている。今さらその方法を捨てるような真似はしてほしくない。
「では、どうすればユズハ君のように力を剣に乗せられるんですか?」
「シオンは勘違いをしている。ただ剣を振っているわけではないだろう?」
「……私は以前、ユズハ君と戦いました。初撃……タイミングも速度も申し分のない一撃を簡単に受け止められました。その理由が素振りにあると、さっき聞かされたんです。」
「なるほど。ユズハ、なぜ速度を失うリスクを冒してまで受けに行ったんだ?」
「来るとわかってたからかな。」
戦闘は常に流動的だ。その日の体調や精神状態、また戦闘中での状況の変化でもバランス、精神は崩れる。まぁ、手練れと言われる者は同じ状況、経験を繰り返しある種の慣れを身に付けている事が多いが……。
「ユズハの言葉が本当だとしたらシオン、その時の精神状態が原因じゃないか?。弟子の前で言うのもなんだが、シオンはユズハより強いぞ。」
「……私もそう思っています。」
「自覚があるなら必要ないだろう。」
「それでは特別な方法をしなくても、身に付けられるものなのでしょうか?」
「もちろん。自分の素振りに“力を剣に乗せる”という目的を加えればいい。」
シオンが剣に力が乗るよう意識し、素振りを試みると風を切る音の質が変わる。だが一日やそこらで身に付くものでもなく、繰り返し鍛錬が必要だとシオンも気づいているようだ――。
素振りを終えた二人に、休憩を入れるよう提案する。私はシオンの隣に座り、ユズハとの戦闘状況を改めて詳しく説明してもらう事にした。
そして、シオンからは「完璧な初撃を受け止められた事で動揺し、ユズハからの攻撃に意識を集中し過ぎて、剣技・視奪の術中に嵌ってしまった。」と聞かされる。
「ははっ!あの視奪にやられたのか。落ち着いていれば何てことない技だったろう?」
「はい、今思えばですが。」
「でも、その先でもっと驚かなかったか?」
「その先……あっ、深い踏み込みと低い姿勢からの逆袈裟。あれは並の体幹では繰り出せないと思います。」
「だろうな。」
入学試験前にユズハと模擬戦をしていた時、私も視奪を受けたことがある。本来、死角からの斬撃が正攻法とされる視奪を、ユズハは身体を死角に入れようとした事があった。
剣先の動きに違和感を覚えた私は後ろへ距離を取り、全体を視野に収めユズハを捉える。そこには右足を深く前に出し、姿勢を低く取ったまま逆袈裟を放とうとするユズハが居た。
そんな無理な体勢から鋭い斬撃が放てるものか?と疑問を抱いたが、腰を上手く捻り上げ、遠心力を効かせた斬撃が飛んできたのを覚えている。
模擬戦の後、私はユズハを問い詰めた。「あの体勢から斬撃を放つとは。いずれ腰を痛め、のちに剣士生命を脅かすものになるぞ?」と。その問いにユズハはこう答えた。
“どうすれば腰を痛めず放てるかを考え、集中的に鍛錬したんだ”
その言葉を聞いて、思わず頭をくしゃくしゃと撫でてしまった。ユズハにとってあの斬撃は、予め用意されたものだと気づいたからだ。
「じゃぁ、視奪も伏線だったのか?」
「うん。あの一撃を有効にする為に、本来の視奪をどう変化させればいいか方法を考えてたから。」
ユズハに剣の才能はあるか?と言われれば“無くはない”という言葉が嵌る。しかし、それよりも大切な“想像力”を誰よりも持っている。
今ある剣技と呼ばれるものは、先人達が想像し実現させてきたもの。視奪もその一つだ。それを変化させようと試み、その後の追撃方法を考え、さらに思い描いた追撃を実現させるにはどうすれば良いか、その鍛錬法さえ生み出す想像力を。
酷く遠回りな事で大器晩成という言葉が頭を過るが、まさか基礎鍛錬しか教えてこなかった結果が、こんな答えに辿り着くとは……。
私が生きている限り、この子を最後まで見届けようと思っていたが、今はどのような成長を遂げるのか、剣士として見届けたいと思っている自分がいた。
――――夏期休暇に入って二週間が経った。
でも、訓練場が使用てきたのは僅か六日。思うように鍛錬できず、無理を言っているのは俺達だとわかっているが、否応にもストレスをため込むようになっていた。ある日、朝のランニングを終え二人でギルドに戻ると、ミカさんが俺達を待っていたように声を掛ける。
「ユズハ、シオン、不満が顔に出てるぞ?そこで提案だ。これからベインさんの所へ行かないか?あそこの訓練場なら毎日鍛錬できるぞ?」
どうして気づかなかったのか。お互い顔を合わせ、二つ返事で答えを返した。
「決まりだな、エギル達には私から言っておく。さぁ、汗を流して支度しろ!」
こうして俺達は天都カゲロウを目指し出発する。
――――クラウンズ家・訓練場。
「ぐっ…、痛ってーなっ!クソ!!」
ヴィネの攻撃速度を物ともせず、有効打を叩き入れ見下ろす男は、模擬試験の時にユズハと対戦したあのカズヤ・ヒイラギだった。
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