32 ギルドの仕事
「おはようございます!」
「おはよう、シオン。早速だが手伝ってくれ。」
ギルド開店前、積み重なった依頼書の仕分けから始まる。依頼書には大きく分けて、三つの種類があった。
公共依頼書
指名依頼書
自由依頼書
公共依頼書は、王族から領主からの依頼が多く難度も高い。期間も設けられ、年単位の依頼も中にはある。
報酬はリーフのみで提示されないが、冒険者が提示するリーフの一番近い者が、入札という形で受ける事が出来る。
指名依頼書は、王族、領主からもあるが、行商人からの依頼がもっとも多く、難度も公共依頼より比較的低い。基本的に行商人が信頼の置ける冒険者を指名し、護衛依頼が主だ。報酬はリーフの他、換金可能な素材で支払われる。
自由依頼書は、薬樹枝葉などの採取依頼や素材調達、または特定の魔獣討伐と個人の依頼が多く、内容も様々だ。冒険者階級もフリーで難度、報酬にもばらつきがある。
そして、この三つの依頼書に共通するデメリットが存在する。指定パーティー数の存在だ。現状、数合わせのパーティーが多く、差違が生じ易くなり依頼未達成の案件が増えている事だ。
公共、指名依頼は受付カウンターで受注でき、自由依頼は壁に掛けてある掲示板に貼り出されている。
「シオン、自由依頼書を掲示板に貼ってくれ。それが終わったら朝飯だ。」
「はい。ところでユズハ君は?」
「ランニングに出てる。もうすぐ帰って来ると思うから、水でも渡してやってくれ。」
――――(しまった。)
シオンに万全の状態で戦いたいとか、カッコいい事言って、学年別剣術大会に申請書を出すのを忘れてた。
申請期間は昨日まで。住居区にある街路樹を走りながら、シオンへの言い訳を考える。が、ここは素直に謝ろう。
気持ちを切り替えながら住居区を抜け、商業区に入りギルドを目指す。ランニングは学校でもしていたが、走り馴れた道がやっぱり気持ちいい。
ギルド前まで行くと、シオンが水を撒いていた。俺に気づき、少し駆け寄ると水筒を手渡される。
「はい、これ。お疲れ様。」
「ありがとう。」
「いつも走ってるの?」
「うん、日課。」
「私も一緒に走ろうかな。」
「じゃぁ、ギルドの準備もあるし、時間を早めないとな。」
朝食を済まし、受付カウンターに入る。受注の流れは、依頼書と階級、認識タグの確認をし、依頼内容の説明、後は未達成のペナルティ等の注意事項を伝える感じだ。
シオンは待合室で軽食や飲み物のオーダーを取っている。愛想がいいのか、冒険者達と談笑している姿が時折見えた。
昼食の時間になり、俺達は交代で食事をする事になった。夏月の日中は暑く、室内に居ても汗が滴り落ちる。
「シオン、水桶持ってきた。使って。」
「ありがとー……。」
水桶に足を浸からせ、接客で精神的に疲れたのか、うなだれながら返事を返す。
俺も初めて手伝いをした時は、今のシオンのように心身共に削られ、うなだれていた事を思い出す。
「夕方には訓練場が空くから、それまで頑張ろうぜ。」
「本当に?!」
勢い良く顔を上げ、目を輝かせるシオン。ただ、前までのように自分を痛めつけるような強さを求めては無さそうだ。
日が落ち始め冒険者達も疎らになった頃、ようやく訓練場の使用許可が降りた。俺達は軽く汗を洗い流し、身支度を整え訓練場へ向かう。
「ユズハの格好、動きやすそうだね。」
「これ?“ジャージ”の事かな。」
「ジャージ?」
俺が着ている服はジャージと言って、軽量で通気性が良く、速乾性が高い機能的な服だ。これは俺の本当の父親が作成させたらしい。
(売れてないけど。)
「それよりシオンは、どんな鍛練をするんだ?」
「私はまず素振りかな。」
「じゃぁ、今日は合わせよう。」
互いに木剣を手に取り、中段から振り上げ、そして振り下ろす。これを制限時間を設けて繰り返す事にした。
シオンの素振りは風を切るように速く、一連の動きも流れるように滑らかだ。愚直なまでに繰り返してきたのだろう。
俺はゆっくりと一連の動きを確かめるように振り下ろす。風を切るのではなく、空気を木剣に絡ませるような速度で。
シオンからの視線を感じて目を合わすと、なんとも言えない不思議な顔をしていた。そして、素直に疑問を投げ掛ける。
「その素振り、違和感が凄いんだけど……。」
「だよな。」
この素振りは、いかにして身体の力を剣に乗せられるか?を考えて、自分で編み出した素振り方法だ。
踏み込みから生まれる力を下半身、上半身、肩、腕、手首、指先、剣とスムーズに伝達させる。その一撃は速度を失う代わりに、今ある全ての力を剣に乗せる事が出来る。
「だからシオンと対峙した時の初撃、あれを受け止められたのも、この素振りのお陰なんだ。」
「……私にも、その方法を教えてくれる?」
「いいよ。」
イメージは点と点を一本の線で繋ぎ合わせる事だ。しかし、シオンには難しく、重心が崩れどうしても剣がぶれる。
「シオン、それは止めておけ。今より弱くなるぞ?」
そう声を掛けたのはミカさんだった。




